Home日本私立大学協会私学高等教育研究所教育学術新聞加盟大学専用サイト
教育学術オンライン

平成19年8月 第2284号(8月8日)

科学技術指標 学校教育における科学技術人材の育成 −下−

 科学技術政策研究所では、我が国の科学技術活動を客観的・定量的データに基づき体系的に分析をする「科学技術指標」を、平成三年以降、およそ三年毎に公表している。このたび、第五版の更新版として、新たに得られたデータを基に図表を更新したものを公表した。第二部第五章学校教育における科学技術人材の育成の大学学部・大学院について掲載する。

大学院
入学者数の動向
@修士課程

 二〇〇六年度の入学者数は七・八万人で、主要専攻別の内訳をみると、工学系が三・二万人(四〇・五%)と最も大きく、次いで社会科学系〇・九万人(一一・一%)、理学系〇・七万人(八・七%)となっている。
 入学者数の推移では、一九八一年度には一・八万人あった入学者数は、一九九〇年度には三・一万人へと大きく増加。さらに、一九九〇年代に入ってからは更に増勢を強めたが、最近はやや伸びが鈍化している。
 一九九〇年度以降の伸びをみると、一九九〇〜二〇〇六年度にかけて全体の入学者数は二・五倍へと増加している。主要専攻別では、保健系が四・二倍と最も大きく伸びており、理学系は二・一倍、工学系も二・一倍と、全体の伸びをやや下回っている。

A博士課程
 二〇〇六年度には一・七万人となっている。主要専攻別の内訳は、保健系が〇・五万人(三〇・九%)、工学系〇・三万人(一九・九%)、理学系〇・一万人(八・五%)、人文科学系〇・二万人(九・一%)、社会科学系〇・二万人(九・〇%)となっている。
 入学者数の推移をみると、一九八一年度には〇・五万人、一九九〇年度には〇・八万人へと、修士課程入学者と同様、大きく増加した。一九九〇年代から更に増勢を強めたが、最近はやや伸びが鈍化しており、修士課程入学者とほぼ同じ動きを示している。二〇〇六年度の入学者数は一九九〇年度の二・二倍で、主要専攻別では、社会科学系の伸びが二・五倍、工学系二・四倍、理学系一・六倍となっている。
 大学院への進学率の動向
 近年、大学院入学者数が大きく伸びている状況がみられる。理工系の進学率の推移をみると、理学系では、一九八〇年代前半に、学部から修士への進学率(修士進学率)は一七〜二〇%程度とほぼ一定の水準で推移するなかで、修士課程から博士課程への進学率(博士進学率)は、三六%台から三〇%台へ低下した。その後、一九九五年頃までは、博士進学率は概ね三〇%台前半の水準で推移する一方、修士進学率は、約二〇%から三〇%台半ばの水準にまで上昇した。また、一九九〇年代後半から博士進学率は再び低下し、二〇〇六年には二一・七%にまで落ち込んでいるのに対して、修士進学率は更なる上昇傾向を示し、二〇〇六年には四二・三%に達している。
 工学系はいずれの進学率も理学系に比べ相対的に低く、博士進学率は七〜九%台で推移している。修士進学率は一九八〇年代以降、上昇している。
 大学院修了者の就職状況

一、産業別の就職状況
@修士課程

 二〇〇六年三月に自然科学系の修士課程を修了した者の数は四・六万人で、その内訳は、進学者が〇・五万人(一一・一%)、就職者が三・七万人(八一・三%)、無業者が〇・三万人(六・二%)、その他不詳者等が〇・一万人(一・四%)となっている。このうち、就職者三・七万人を主要産業別の構成比でみると、製造業が五七・四%と大きな部分を占めており、次いで、サービス業関連が二六・〇%、建設業が五・一%となっている。
 主要産業別の就職割合の推移をみると、理工系の製造業への就職割合は、一九九四年までは概ね七〇%台で推移していたが、一九九五年以降、六〇%台前半へと落ち込んだ。これに対応するように、近年、サービス業への就職割合が上昇しており、二〇〇三年以降は二〇%を超える水準で推移している。
 一方、農学系では、一九八〇年代半ばには製造業への就職割合とサービス業の就職割合が拮抗していた。これは、この間、獣医学研究科の修士課程修了者数が大きく増加し、これらの者の多くがサービス業に分類される「獣医業を行う事業所」等へ就職したことによるものといえる。
 一九九〇年代初頭に製造業への就職割合が急上昇したのに対応してサービス業への就職割合が急低下したが、近年、両者の就職割合の差は小さくなっている。
 また、保健系では、以前は製造業への就職割合が最も大きかったが、一九九〇年代に入り、製造業への就職割合が急低下したのに対応してサービス業への就職割合が急上昇しており、二〇〇〇年にはサービス業への就職割合が製造業への就職割合を上回った。

A博士課程
 二〇〇六年三月に自然科学系の博士課程を修了した者の数は一・一万人で、主な内訳は、就職者が〇・七万人(六四・四%)、無業者が〇・三万人(二八・九%)となっている。就職者〇・七万人の産業別の内訳は、最多がサービス業関連で七五・三%、次いで製造業が一六・五%となった。
 主要産業別の就職割合の推移をみると、理工系では、一九八〇年代後半から二〇〇二年頃までサービス業、製造業ともにほぼ横ばいだが、二〇〇三年以降、サービス業への就職割合はそれまでに比べて高くなっている。農学系では、一九九〇年代中頃以降、サービス業への就職割合は急上昇しており、一方、製造業への就職割合はゆるやかな減少傾向である。一方、保健系では、医療業や教育業等のサービス業への就職割合が一貫して九〇%を超える水準で推移している。

B博士課程修了者に占める無業者の割合
 一九八一年には理学系で五一・六%、農学系で五一・七%、工学系で二三・二%と一時高い水準にあったものの、しばらくは概ね低下傾向で推移してきた。しかしながら、一九九〇年代後半に入り経済情勢が悪化するなかで再び上昇している。一方、保健系は、一九八二年以降、上昇傾向にあるものの、依然として、自然科学系の他の専攻と比較すると低い水準にとどまっている。

二、職業別の就職状況
@修士課程

 二〇〇六年三月に自然科学系を修了し就職した者の数は三・七万人であるが、その主要職業別の構成比をみると、専門的・技術的職業従事者が八九・四%と大多数を占めており、なかでも、機械・電気技術者や情報処理技術者等の技術者が八三・三%を占めている。
 主要職業別の就職割合の推移をみると、理工系の専門的・技術的職業従事者では、就職割合は一貫して高水準で推移しており、また、就職者数自体もほぼ一貫して増加。このうち、技術者の割合は全期間を通じて八〇%前後の高水準で推移している。教員の割合は低下傾向を示しており、近年では一%台の低水準で推移している。また、科学研究者の割合は、近年では四〜六%台で推移している。
 農学系では、専門的・技術的職業従事者の割合が低く、特に、一九九七年以降、八〇%を下回る水準にまで低下している。その内訳は、技術者が、一九八四〜一九八九年に四〇%を下回る水準にまで落ち込んだが、その後六〇%前後までいったん増加し、その後はゆるやかな減少傾向。一方、医療従事者は、一九八四〜一九八九年のみ就職割合が高くなっている。このように一九八四〜一九八九年に医療従事者の割合が高くなっているのは、この間、獣医学研究科の修士課程修了者数が大きく増加し、これらの者の多くが獣医師等(医療従事者)になっていることによる。これは、一九八四年四月一日から、学校教育法の改正により獣医学部の修業年限が六年となり、また、一九九〇年四月一日から、大学院設置基準の改正により獣医学研究科の修士課程が廃止され、博士課程の修業年限が四年となったことに伴う、一時的な傾向といえる。なお、専門的・技術的職業従事者の割合が近年減少傾向を示しているのと対照的に、事務従事者の割合は増加傾向を示しており、最近では一〇%を超える水準で推移している。
 一方、保健系では、専門的・技術的職業従事者の割合は、全期間を通じほぼ一貫して九〇%を上回る高水準で推移し、上昇傾向にある。また、科学研究者は、一九八〇年代から一九九〇年代半ばにかけて上昇したが、最近、急激に低下している。なお、教員は、全ての自然科学系専攻で低下傾向にあるが、保健系では、最近やや上昇してきている。

A博士課程
 二〇〇六年三月に自然科学系を修了し就職した者の数は〇・七万人であるが、その主要職業別の構成比をみると、専門的・技術的職業従事者が九五・一%と大多数を占めており、この就職割合は、一貫して高水準で推移している。主要職業別の就職割合の推移をみると、理工系の専門的・技術的職業従事者の割合は、九〇%を超える高水準で推移している。この内訳では、教員の割合は、ほぼ一貫して低下傾向を示すのに対して、科学研究者の割合は増加傾向を示している。近年、技術者や科学研究者の割合が教員を上回っている。
 農学系では、一九九〇年以降、科学研究者の割合は上昇傾向にあり、技術者は漸減傾向で推移している。
 一方、保健系は、医療従事者の割合が圧倒的に大きく、最近では六〇〜七〇%で推移しているのに対して、技術者の割合は一〜二%と極めて低く、また、科学研究者の割合は、上昇傾向にあるものの、二〇〇六年においても一二%程度の水準に留まっている。(おわり)

Page Top