平成19年8月 第2284号(8月8日)
■経営困難への対応を提言 学校法人活性化・再生研が最終報告
日本私立学校振興・共済事業団(鳥居泰彦理事長)は、このほど「私立学校の経営革新と経営困難への対応(最終報告)」を公表した。同報告は、昨年七月に同事業団に置かれた学校法人活性化・再生研究会が取りまとめた「中間まとめ」を、関係団体等からの意見等も踏まえ更に検討したもの。概要は次のとおり。
一、私立学校の果たすべき役割
私立大学等は高等教育機関の約八割を擁し、幅広い層の学生を教育して、有為な人材として社会に供給することで、我が国の高等教育の普及と社会基盤の形成に大きく貢献している。これからの知識基盤社会では人格形成と人材育成だけでなく、国際競争力の確保の面においても、高等教育の重要性は増している。そうした中で、私立大学等の個性豊かな教育研究を通じてどの地域でも多様な高等教育を享受できる環境を作ることが望まれる。
二、私立学校の現況
(1)私立学校を取り巻く環境=@少子化により一八歳人口は、平成四年の二〇五万人をピークに、同十九年度には一三〇万人に減少している。A国大法人化による学生募集等の強化、株式会社立大学の参入、また、短大から四大への改組など競争は激化の一途である。B自己点検・評価による質の維持向上への努力、C高等教育への公財政支出が対GDP比で、OECD各国平均の一・一%に比べて、我が国は〇・五%と極めて低水準である。また、OECD調査によると教育費の私費負担割合は、OECD各国平均の二三・六%に比べて、我が国は六〇・三%となっている。
(2)私立大学の現況=@入学定員を充足していない学校数が五五九校中二二一校であり、さらに、定員が五〇%未満の大学は一七校あり、地方での悪化傾向が強い。A帰属収入で消費支出を賄えない学校法人は五〇四法人中一三八法人で二七・四%(平成十七年度決算値)に達している。このような状況が長期間続くと深刻な経営困難状態に至る可能性がある。
三、私立学校の経営革新と教育改革
ガバナンスの確立をはじめ、学生確保を図ることや教職員の役割と資質向上などの教学面の改革が不可欠である。また、外部資金の導入のほか支出の抑制、法人規模の縮小、資産売却等の財務状況の改善に向けた改革も求められる。さらに、説明責任を果たし、風評被害等の起こらないように積極的な情報公開に努めることが望まれる。
四、学校法人の経営困難状態の克服
(1)定量的な経営判断指標による破綻予防スキーム=経営困難な学校法人を安易に切り捨てることではなく、再生の可能性があり、自ら意欲的に再建に取り組む学校法人に対しては、その再生を積極的に支援する。一方で再生が不可能な場合には、募集停止等による円滑な整理促進を図ることも避けられない。
(2)経営判断指標の設定=私立学校の財務情報を集約する私学事業団が経営状態のモニタリングを行い、一定レベルに至った場合に私学事業団や文科省が指導・助言をすることが望ましい。基礎指標としては、キャッシュフローを重視する。資金収支計算書から施設設備、財務活動の収支を除いた教育研究活動のキャッシュフローを基に経営状態を分類する。なお、この指標だけでなく、学生数の推移、支援団体等からの寄附など他のデータも含めて総合的に分析する必要がある。
(3)正常状態=教育研究活動によるキャッシュフローが黒字であり、かつ外部負債も一〇年以内で返済が可能な状態であり、更に帰属収入から消費支出を控除した帰属収支差額もプラスであること。正常状態であっても、学校法人が経営状態の問題点を診断できる「自己診断チェックリスト」によって「経営困難状態(イエローゾーン)」に陥る前に自主的な改善を図るとともに私学事業団に相談し、コンソーシアム等の推進、経営人材等の育成、成功事例の紹介等の助言・指導を受ける。
(4)経営困難状態=教育研究活動によるキャッシュフローが二年連続赤字か、又は過大な外部負債を抱え一〇年以内の返済が不可能な状態であるが、学校法人自ら経営改革努力を行うことにより経営改善が可能な状態であること。イエローゾーンにおける取組みとしては、経営改善計画の作成と指導・助言、また融資と連動した効果的な指導・助言、補助金による経営改善への支援(平成十九年度から特別補助において、定員割れだが具体的な経営改善に取り組んでいる大学等へ支援)、文科省に設置されている学校法人運営調査委員制度の活用、経営者の責任(経営改善計画の実行)、早期決断(部門の募集停止、支援法人探し)、再生を支援する諸方策(再生に向けた人材育成、合併等の情報提供、再生事例紹介)などに取り組む。
(5)自力再生が極めて困難な状態(レッドゾーン)=私的整理による債務整理(債務整理を円滑に行う仕組みを検討、私学事業団と整理回収機構との連携を検討)、民事再生による債務整理(適切なスポンサー探し)があるが、有効な解決策が見つからず、破綻が不可避である場合、自主的な募集停止が必要となる。募集停止をしてから学生が卒業するまで大学は最低三年、短大で一年の期間を必要とする。募集停止する場合、資金ショートを防ぎ円滑に閉鎖する支援措置も検討すべきである。
五、破綻後の対応
学生が在学した状態で学校法人が破綻した場合には近隣の大学の協力等による学生の修学機会の確保が重要な課題となる。積極的に転学生を受入れた学校への補助金の優遇措置を検討すべきである。その他、学籍簿の管理、教職員の転職支援方策の検討も望まれる。
六、関連して取り組むべき課題
改正された教育基本法第八条において、国等は私学教育の振興に努めなければならないと定められた。我が国経済社会全体の発展を可能とするためには、高等教育機関の大部分を占め、多様な教育を展開する私立大学等の発展が欠かせない。
今後、私学事業団が新たな経営支援業務を実施するために、文科省からの業務の委託、経営支援業務に特化した基金の設立又は出資金等による財政基盤の一層の強化も必要である。