平成19年8月 第2283号(8月1日)
■科学技術指標 学校教育における科学技術人材の育成 −上−
科学技術政策研究所では、我が国の科学技術活動を客観的・定量的データに基づき体系的に分析をする「科学技術指標」を、平成三年以降、およそ三年毎に公表している。このたび、第五版の更新版として、新たに得られたデータを基に図表を更新したものを公表した。第二部第五章学校教育における科学技術人材の育成の大学学部・大学院について掲載する。
大学学部
志願者数及び入学者数の動向
@志願者数の動向
理工系学部と経済系学部の各延べ入学志願者数と倍率の推移をみると、一九八七年度から一九九〇年代初頭にかけては、経済系学部の志願者数及び倍率が大幅に伸び、最近は逆に大きく低下しているのに対し、理工系学部は大きな変動はみられない。
延べ入学志願者数の学部別の構成比の推移をみると、一九八〇年代後半の時期において、延べ入学志願者数に占める理工系学部の割合の低下、経済系学部の割合の上昇がみられ、一九八〇年代前半及び一九九〇年代半ば頃には逆の傾向がみられる。一九八〇年代後半の「理工系離れ」はバブル好況期における経済系学部へのシフトによるものと考えられる。最近は理工系学部及び経済系学部ともに低下傾向にある。
延べ入学志願者数を学部別にみた場合は、その時の経済情勢等にも大きく影響を受けていると考えられる。
A入学者数の動向
入学者数の推移を、主要学科別にみると、二〇〇六年度に最も入学者数が多いのは社会科学系の二一・九万人で全体の三六・三%を占めており、次いで工学系の九・八万人(一六・二%)、人文科学系の九・四万人(一五・六%)等となっている。また、理学系は二・〇万人で三・三%を占めている。
次に、入学者数の推移変化を一九八一年度と二〇〇六年度の比較で関係学科別にみると、社会科学及び理工系は一・三倍とほぼ同程度の増加、保健系は二・二倍、人文科学系は一・七倍とやや大きく増加し、農学系は一・二倍でほとんど増加していないが、主要学科別の構成比には、総じて大きな変化はみられない。
入学者数の推移をみた場合、一九八一年に比べて女子の増加が著しい。これを学部別にみると、理工系への女子の入学者数は、一九八一年度の〇・四万人から二〇〇五年度の一・六万人へと、三・八倍と大きく増加している。この結果、理工系の入学者数に占める女子の割合は、同期間に四・四%から一三・四%へと高まったものの、他の学部に比べれば低い水準に留まっている。また、一九九〇年代前半まで、理工系の入学者に占める女子の割合は上昇傾向だったが、最近はやや頭打ちの傾向がみられる。
自然科学系学科卒業生の進路
自然科学系学科の卒業生の進路の状況について概観する。
@進学者、就職者の割合等の推移
二〇〇六年三月の理工系の卒業者は一一・六万人で、うち進学者が四・〇万人(三四・〇%)、就職者が六・五万人(五五・七%)、無業者等が一・一万人(一〇・三%)となっており、農学系の卒業者は一・六万人で、うち進学者〇・四万人(二六・五%)、就職者〇・九万人(五九・一%)、無業者等〇・二万人(一三・一%)となっている。一方、保健系の卒業者は三・五万人で、うち進学者〇・四万人(一〇・八%)、就職者一・八万人(五二・六%)、臨床研修医〇・九万人(二六・五%)、無業者等〇・三万人(九・六%)で、他の自然科学系学科とは異なり、無業者等の割合が低くなっている。
卒業生の進路(構成比)の推移について、まず理工系をみると、就職者は、一九八〇年代には概ね八〇%前後で推移したが、一九九〇年代に入り大きく低下した。しかし、ここ数年では、増加傾向にあり、一方、無業者等の割合は減少傾向にある。就職者の割合は、経済情勢の影響等を受け変動しているが、進学者の割合は、一九七〇年代以降ほぼ一貫して上昇してきている。農学系も、理工系の傾向と同様である。しかし、就職者の割合の推移を詳細にみると、二度の石油危機後の急低下やバブル好況期の急上昇など、理工系に比べて経済情勢の影響が大きいと考えられる。
一方、保健系をみると、進学者の割合は近年では横ばい。就職者は、一九九〇年代後半から上昇し、また、二〇〇〇年以降、無業者等が急低下している。
A産業別の就職割合
自然科学系学科を卒業し就職した者は九・三万人であるが、その主要産業別の構成比をみると、サービス業関連への就職者が四二・九%、製造業が二六・六%、金融・保険業が一・七%等となっている。
各分野の産業別の就職割合の推移では、まず、理工系をみると、製造業への就職割合は一九八〇年代から一九九〇年代初頭には五〇%を超える水準で推移してきたが、一九九〇年代半ば以降大きく低下し、二〇〇六年には三二・八%となっている。一方、サービス業への就職割合は、この間ほぼ一貫して上昇傾向で推移し、特に、一九九五年以降の上昇が著しい。二〇〇二年に初めてサービス業への就職割合が製造業を上回った。これは、経済のソフト化、サービス化等の影響を受け、情報サービス業等への就職割合が上昇していることに起因すると考えられる。
次に、農学系をみると、製造業及びサービス業への就職割合の推移は、理工系とほぼ同様の形を示しており、二〇〇二年にはサービス業への就職割合が製造業への就職割合を上回った。
一方、保健系は、他の自然科学系学科と異なり、医療業関連への就職者が多いため、一貫してサービス業への就職割合が製造業への就職割合を上回っている。特に、一九九〇年代以降、製造業への就職割合が急低下したのと対照的にサービス業への就職割合が急上昇しているため、両者への就職割合の差は一段と大きくなっている。
B職業別の就職割合
二〇〇六年三月に自然科学系学科を卒業し就職した者は九・三万人であるが、その主要職業別の構成比をみると、専門的・技術的職業従事者が七三・〇%と大半を占めており、次いで、販売従事者が一一・〇%、事従事者が七・一%となっている。専門的・技術的職業従事者の内訳は、機械・電気技術者や情報処理技術者等の技術者が五一・三%、保健医療関係従事者(医療従事者)が一八・一%、教員が一・三%、科学研究者が〇・四%となっている。
各分野の主要職業別の就職割合の推移において、まず、理工系をみると、就職割合は一貫して高水準で推移しているが、一九九〇年代に入って低下傾向を示しており、二〇〇六年には七三・〇%になっている。このうち技術者の推移は専門的・技術的職業従事者(全体)の推移と同じ形を示している。教員の推移は、一九八〇年代半ば以降は一貫して低下傾向を示している。一方、販売従事者についてみると、増加傾向を示しており、二〇〇三年には一〇%を上回っている。
農学系は、他の自然科学系学科に比べて一貫して専門的・技術的職業従事者の割合が低く、一九九六年以降五〇%を下回る水準で推移しているのに対して、同期間の事務従事者及び販売従事者はいずれも二〇〜二五%で推移している。専門的・技術的職業従事者のうち技術者の割合が最も高いこと、一九八〇年代半ば以降、教員の割合が一貫して低下傾向を示すことは、理工系と同様である。
保健系の専門的・技術的職業従事者の割合は、全期間を通じほぼ一貫して九〇%を上回る高水準で推移している。このうち、教員の割合がほぼ一貫して低下傾向にあることは、他の自然科学系学科と同様である。しかし、他の自然科学系学科とは異なり、医療従事者の割合が最も大きく、最近では八〇%を上回る高水準で推移している。(つづく)