平成19年7月 第2281号(7月18日)
■平成18年度科学技術白書 大学などの知的財産の整備 ―下―
文部科学省は、このたび、平成十八年度科学技術の振興に関する年次報告(科学技術白書)を発行した。第三期科学技術基本計画では、科学技術振興に当たっての基本姿勢として、「社会・国民から支持され、成果を還元する科学技術」を掲げており、そこで本報告では、この基本姿勢に沿って、科学技術の振興の成果を、知の創造、活用、継承の三つの観点から具体的な事例に即して紹介している。ここでは、第三部第三章「科学技術システム改革」の大学に関する事項の一部を掲載する。
施設・設備の計画的・重点的整備
国立大学等の施設の整備
国立大学等の施設は、世界一流の優れた人材の育成や創造的・先端的な研究開発を推進する拠点であり、科学技術創造立国を目指す我が国にとって不可欠な基盤である。
平成十三年に策定した「国立大学等施設緊急整備五か年計画」において、PFIによる整備を含めて優先的に取り組んできた狭隘(きょうあい)解消整備等の実施及び弾力的・流動的に利用できる共同利用スペースの確保等により、教育研究環境が充実向上した。その結果、教育研究の進展、先端技術を取得した研究者の養成、新技術の開発等において一定の効果が現れてきている。一方で、多くの既存施設は、改善が進まず一層老朽化が進み、次世代を担う学生や若手研究者等の多くにとって、教育研究環境が必ずしも十分でないという課題を生じている。
このような状況を踏まえ、文部科学省では、第三期科学技術基本計画を受け、「第二次国立大学等施設緊急整備五か年計画」を策定し、国立大学等施設の重点的・計画的整備を推進している。本計画は、老朽化した施設の再生を最重要課題とし、これと併せて施設の狭隘化の解消を図ることで、優れた人材の養成の基盤となる施設や、世界水準の先端的な研究等を行う卓越した研究拠点等の再生を図ることとしている。また、施設の整備と併せて、施設の効率的・弾力的利用等を目指した施設マネジメントや寄附の受入れによる施設整備等の新たな整備手法による整備等のシステム改革の一層の推進を国立大学に求めている。
国立大学法人・公的研究機関等の設備の整備
学術研究を推進していくためには、その基盤となる研究設備の整備充実が必要不可欠であるため、国立大学法人等における中・長期的な視野の下で計画された研究基盤としての設備や、特色ある研究の推進に必要な設備の整備への取組に対して、より効果的な支援の充実を図っている。
私立大学の施設・設備の整備
我が国にとって、学術研究の高度化等を推進するための施設や設備等の研究環境を整備することは極めて重要である。私立大学等は、我が国の高等教育の約八割を占め、多様な研究者を有するとともに、特色ある研究活動を積極的に展開するなど、高等教育の発展に大きな役割を果たしており、今後、ますます期待が寄せられているものと考えている。このような状況を踏まえ、優れた研究プロジェクトに対し研究施設・設備等の一体的な支援を行う「私立大学学術研究高度化推進事業」を推進し、私立大学等の研究基盤の強化を図っている。
知的財産の創造・保護・活用
独創的かつ革新的な研究開発成果を生み出し、それを社会・国民に還元するためには、知的財産の創造・保護・活用という知的創造サイクルの活性化が不可欠であり、そのための様々な取組を推進している。
総合科学技術会議では、基本特許につながる国際的な権利取得、論文と特許情報の統合検索システムの整備、大学知的財産本部の国際機能の強化、国際的な知的財産専門人材の育成・確保等の取組を盛り込んだ「知的財産戦略について」を決定し、関係大臣に意見具申した。また、併せて、大学等の研究における知的財産権の使用の円滑化を図るため、「大学等における政府資金を原資とする研究開発から生じた知的財産権についての研究ライセンスに関する指針」を決定し、関係大臣に意見具申した。
大学等における知的財産体制等の整備
大学等においては、平成十五年度より大学知的財産本部整備事業等により、モデルとなる知的財産の創出・保護・活用を戦略的にマネジメントする体制整備が行われており、大学における特許出願件数や実施件数は年々増加している。さらに平成十八年度においては、我が国の国際競争力の強化に向けて科学技術・学術審議会産学官連携委員会において大学知的財産本部の国際機能の強化等、我が国の国際競争力の強化に向けた国際的な産学官連携を進める上での諸課題について検討が行われた。
経済産業省では、大学等における研究成果の民間事業者への移転の促進、大学等の研究成果を活用した新産業・新市場の創出及び大学等の研究活動の活性化を図るため、平成十年に施行された「大学等における技術に関する研究成果の民間事業者への移転の促進に関する法律」に基づき、実施計画が承認されたTLO(承認TLO)に対して、大学等における研究成果の特許化や産業界への移転の促進を支援するために、技術移転事業に必要な資金及び大学研究成果の海外特許出願に関する費用の一部補助を行っている。現在、承認TLOは四二機関となっており、ライセンス収入も八・四億円(平成十七年度)に上るなど着実に成果を上げてきている。
知的財産活動の推進
大学等が優れた知的財産について適切に権利を取得し活用していくことができるよう、文部科学省では科学技術振興機構の実施する技術移転支援センター事業により海外特許出願関連の支援を行っている。また、質の高い優れた研究成果が得られるよう、科学技術振興機構では、様々な研究開発支援情報及び研究成果情報をデータベース化し、インターネットを通して広く情報提供を行っている。
具体的には、大学等に関する機関情報、研究者情報、研究課題情報、研究資源情報をデータベース化した情報提供システム(ReaD)や、大学等で得られた研究成果を、関連の特許と併せてデータベース化した情報提供システム(J―STORE)があり、インターネットを用いて大学等が公開している技術シーズ情報集の一元的な検索と企業による研究者等への直接アクセスを可能とするシステム(e-seeds.jp)を開始した。
大学等における知的財産活動については、その実効性を高めるため、重要な発明については海外でも積極的に権利を取得するとともに、取得した権利の活用を図るといった特許戦略の構築に向けた取組が重要となっている。
特許庁では、大学における知的財産活動の実践的な取組を示した「大学における知的財産管理体制構築マニュアル」を公表するとともに、これから知的財産管理体制を構築する大学に「大学知的財産アドバイザー」を派遣し、大学独自の知的財産管理体制の構築を促している(平成十八年度は二三大学に派遣。当該事業は、平成十九年より工業所有権情報・研修館で実施)。さらに、特許庁では、工業所有権情報・研修館を通じ、大学等が取得した特許であって他者の実施に供する用意のあるもの(開放特許)が、中小・ベンチャー企業等において有効に活用されるよう、TLOや自治体等に対し、特許流通アドバイザーを派遣して(平成十九年三月現在一一〇名)両者のマッチングを図るとともに、開放特許の情報を、特許流通データベースを通じて広く公開している。
さらに、第三期科学技術基本計画の重点推進四分野、推進四分野や近年成長が著しい産業や技術革新の影響が大きい産業を中心に注目技術を取り上げ、その技術に関する特許情報を分析し特許出願状況や研究開発の方向性を明らかにする技術動向調査を行い、企業や大学等の研究・技術開発や特許戦略の構築に資するため、その結果を公表した。特許庁では、工業所有権情報・研修館を通じ、企業・大学等が優れた研究成果を質の高い特許として権利取得し活用していけるように、インターネット上で特許情報等の検索・抽出を可能にする特許電子図書館(IPDL)の整備、運用を行っている。特許電子図書館では、毎年、ユーザーの利便性向上やサービスの拡充を図っており、平成十八年度には、国内公報と外国公報(和文抄録)とを同時に検索するサービスの追加等を行った。
また総合科学技術会議において、我が国の知の創造拠点である大学等が知的財産権を円滑に使用し、自由な研究活動を推進するため、「大学等における政府資金を原資とする研究開発から生じた知的財産権についての研究ライセンスに関する指針」が取りまとめられた。
(おわり)