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平成19年7月 第2280号(7月11日)

イノベーションを測定する 科学技術政策研が基礎的調査

 科学技術政策研究所では、このたび、「イノベーションの測定に向けた基礎的調査」を取りまとめた。科学技術研究がイノベーション創出を通じ社会にどのようなインパクトをもたらしたかについて測定・評価する手法の構築への貢献を目的として調査を行った。概要は次のとおり。

 このたびの調査における目標は、経済、統計、評価、科学技術等の専門家を結集した調査体制の確立、海外動向や先行研究等の調査検討及び我が国のイノベーション計測・評価の確立に向けた二〇〇七年度以降の調査研究提案の取りまとめを行うことで、次の四つの検討を行っている。
 @企業のイノベーション活動と科学技術や知識との結びつきの明確化、Aイノベーション・プロセスに即したミクロな指標体系の構築、Bイノベーションのインパクトの定量的把握に向けたミクロ軽量経済モデルの拡張、Cナショナル・イノベーション・システムのガバナンスの影響とパフォーマンス
 調査の背景としては、我が国では、第三期科学技術基本計画や長期戦略指針「イノベーション25」、米国では、「パルミサーノ・レポート」、全米競争力イニシアティブが策定されているように、グローバリゼーションの進展、新興工業国の台頭と国際競争の激化の下、イノベーションの創出は世界各国において喫緊の政策課題となっている。
 こうした中で、従来の静的でマクロな指標ではイノベーションのダイナミズムを充分に捉えられないとの認識に立ち、社会科学や情報科学を結集した学際的取組みによりイノベーションの動態を明らかにし、政策がイノベーションに与える効果を測定・評価する手法や指標を開発し、エビデンスに基づいた政策の構築や評価に生かそうという動きが出てきている。
 調査の結果、まず、検討の@に関しては、サイエンス型産業を例に、基礎・応用研究から製品化に至る組織を超えた知の結集と連鎖を解明する必要性が示唆された。また、企業が学会活動を技術知識の交換の場として技術戦略に位置づけ活用している可能性も指摘された。さらに、企業の特許のサイエンス・リンケージ等各種特許関連指標を用いて知的資本を計測する手法の可能性が示唆された。
 Aに関しては、特許における論文の引用分析による科学研究の技術への波及の定量化やこれと研究資金データの組み合わせによる科学技術政策・科学研究・技術開発の連関の定量的把握の可能性等が示唆された。また、企業のイノベーション活動を把握する「全国イノベーション調査」の改善の必要性、さらに、分散したイノベーション関連データの企業/事業等(ミクロ/サブミクロ)レベルでの接続・集約と時系列データ化の必要性が指摘された。
 Bについては、イノベーション関連指標と生産性の推計を組み合わせ、技術知識ストックが生産性を上昇させる過程を明らかにし、科学技術と生産性の関係を分析するモデルの構築の可能性や、プロセス・イノベーションを技術が生産関数に与えた影響により計測するとともに、プロダクト・イノベーションを新製品投入が社会にもたらす便益により計測する可能性も示唆された。
 Cについては、システムのパフォーマンスを階層構造からなるシステム概念に基づき分析する可能性やパフォーマンスに影響する要因としての政府によるイノベーション・システムのガバナンスの調査研究が示唆された。
 これらを踏まえ、次のような調査研究課題が抽出された。
 (1)ミクロ/サブミクロのプロセスに即したイノベーション測定手法の調査研究
 一、企業のイノベーション活動と科学技術・知識の結びつきの分析―▽基礎・応用研究から製品化に至る組織を超えた知の結集と連鎖のプロセスの解明、▽学会活動等を通じた技術知識の交換・結集のプロセスの解明、▽知的資本(企業の特許と科学のリンケージ等)と企業価値の関連分析
 二、イノベーション・プロセスに即したミクロな指標体系の構築―▽科学研究が技術に及ぼした波及効果の定量化:論文と特許のリンケージ解析、▽企業におけるイノベーション活動の観測手法の改善、▽イノベーション関連ミクロ/サブミクロデータの接続・集約と時系列データ化手法の確立
 三、科学技術イノベーションの効果のミクロな計量―▽生産性、生産関数、社会への便益における科学技術イノベーションの効果の計量
 (2)ナショナル・イノベーション・システムのガバナンスの影響とパフォーマンス―▽定量的なパフォーマンスの把握とシステムへのガバナンスの影響に関する比較制度研究
 二〇〇七年度は、これらの課題についてまずサイエンス型産業(半導体産業とライフサイエンス産業)と既存産業として家電産業(ディスプレイ産業)関連科学技術を中心に調査研究を行うことが適当である。その後はこれらアプローチの有効性を確かめるとともに、「プロセスの理解」、「指標体系の構築」、「モデルでの計量(測定)」、「計量(測定)結果による修正」といったアプローチ間での連携や成果に基づく相互検証・すりあわせを行いながら、他の分野への適用・拡大に向けた一般化に取り組むことが適当である。
 また、これら調査研究に際しては、国内外のイノベーション研究者や研究イニシアティブの継続的な結集と連携関係の構築や科学技術政策担当者とイノベーション研究者の対話の深化を図ることが重要である。

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