平成19年7月 第2279号(7月4日)
■平成18年度科学技術白書 大学は人材教育機能を強化 ―上―
文部科学省は、このたび、平成十八年度科学技術の振興に関する年次報告(科学技術白書)を発行した。第三期科学技術基本計画では、科学技術振興に当たっての基本姿勢として、「社会・国民から支持され、成果を還元する科学技術」を掲げており、そこで本報告では、この基本姿勢に沿って、科学技術の振興の成果を、知の創造、活用、継承の三つの観点から具体的な事例に即して紹介している。ここでは、第三部第三章「科学技術システム改革」の大学に関する事項の一部を掲載する。
大学における人材育成機能の強化
大学における人材育成
知の創造と活用において創造性豊かで国際的にリーダーシップを発揮できる広い視野と柔軟な発想を持つ人材を育成するに当たり、その要である大学の人材育成機能に求められる役割は大きい。各大学においては、教育内容の改善を図る取組が積極的に行われているが、例えば、専攻分野以外の授業科目を体系的に履修させる主専攻・副専攻制を導入する大学は年々増加し、平成十七年度現在一二八大学となっている。また、文部科学省においては、特色を生かした教育研究の展開を促すため、大学教育改革への取組を支援している。教員の教育・研究指導能力の向上については、平成十七年度現在五七五大学がファカルティ・ディベロップメント(FD)を実施しており、教員の教育面の業績評価についても平成十七年度現在二五五大学が実施している。
大学院教育の抜本的強化
高度に科学技術が発展するとともに、知の専門化、細分化が進み、国際競争が激化する現代社会においては、新たな学問分野や急速な技術革新に対応できる深い専門知識と幅広い応用力を持つ人材の育成が緊迫の課題である。その人材育成に中核的な役割を果たす大学院は、平成九年度から十八年度の一〇年間で、大学院学生が約九万人増加するなど、量的な整備は順調に行われてきたが、今後はその教育の質の一層の向上を図ることが必要である。
このような状況を踏まえると、各大学院において社会ニーズをくみ取りつつ自らの課程の目的を明確化した上で、体系的な教育プログラムを編成して学位授与へと導くプロセス管理を徹底できるよう、教育課程の組織的展開の強化を図ることに焦点を当てた改革の推進が必要であり、文部科学省では、平成十七年度から、大学院における意欲的・独創的な教育の取組を支援することを目的とした「魅力ある大学院教育」イニシアティブを実施している。
大学院の改革に係る取り組み計画の策定
文部科学省では、中央教育審議会答申「新時代の大学院教育」(平成十七年九月五日)の提言や「科学技術基本計画」(平成十八年三月二十八日閣議決定)を踏まえ、大学院の充実・強化に向けた五年間の体系的・集中的な取組計画である「大学院教育振興施策要綱」を平成十八年三月三十日に策定した。この要綱では、@大学院教育音実質化、A国際的な通用性、信頼性の確保、B国際競争力ある卓越した教育研究拠点の形成、の改革の方向性を示しており、これに基づき、国際的な魅力ある大学院づくりを推進している。
博士課程在学者への経済的支援の拡充
優れた資質や能力を有する人材が博士課程(後期)進学に伴う経済的負担を過度に懸念せず進学できることは、博士課程在学者の二割程度が生活費相当額程度を受給できることを目指すとされている。
このため、文部科学省では、日本学術振興会が実施する特別研究員事業における博士課程在学者への支援を重点的に拡充するとともに、大学院生に教育的配慮の下に教育補助業務を行わせるティーチング・アシスタントや、大学等が行う研究プロジェクトに博士課程在学者を参画させるリサーチ・アシスタントとしても活用できる競争的資金の拡充等を行っている。
また、優れた学生で経済的理由により修学が困難な者に対して奨学金の貸与等を行うことにより、次代を担う意欲と能力のある人材を育てるため、日本学生支援機構の奨学金事業を実施している。
大学の競争力の強化
世界の科学技術をリードする大学の形成
国際競争力のある大学づくりのためには、国公私立大学を問わず、競争的環境の醸成を一層促進することが必要であり、文部科学省では、平成十四年度より「二十一世紀COEプログラム」を実施し、第三者評価に基づく競争原理により、世界的な研究教育拠点形成を重点的に支援している。この事業により、これまで、学長を中心にとした全学的観点からの大学づくりなど大学改革の推進、優れた研究者養成機能の活性化、研究水準の向上等が推進されており、中央教育審議会答申「新時代の大学院教育」(平成十七年九月五日)や「第三期科学技術基本計画」(平成十八年三月二十八日閣議決定)において、「二十一世紀COEプログラム」をより充実・発展した形でポスト「二十一世紀COEプログラム」を実施することが求められている。
個性・特色を活かした大学の活性化(地域に開かれた大学の育成)
地域における大学は、地域の重要な知的・人的資源であり、地域に開かれた存在として地域の発展に一層寄与すべきである。
平成十八年二月に、文部科学省、地域再生本部、総合科学技術会議などが連携し、地域の人材、知識が集積する知の拠点である大学等と連携した地域の自主的な取組を省庁連携により支援する「地域の知の拠点再生プログラム」を、地域再生本部で決定した。
これを受け、平成十九年三月までに、本プログラムを活用した地域再生計画を三二件認定し、山梨大学・山梨県・地場ワイン産業・生産農家等が一体となり、ワインに関する人材の生涯養成拠点の整備等の取組を推進し、地域ブランドの確立を図る「山梨県ワイン人材活性化計画」や、神戸大学を中心に、兵庫県・神戸市・NPO・民間事業者等の連携により、高齢者の活力創造と生活習慣病予防のための歩く健康づくりを推進する「こうべ『健康を楽しむまちづくり』構想」等、大学等と地域が連携した様々な取組が進展している。また、平成十九年二月には、高度人材に対する永住許可弾力化事業、地域バイオマス利活用交付金等、新規施策を導入するなど、本プログラムを充実させたところである。
また、文部科学省では、本プログラムの支援措置の一環として、科学技術振興調整費による新規プログラム「地域再生人材創出拠点の形成」において、地域の大学等が地元の自治体との連携により科学技術を活用して地域に貢献する優秀な人材を輩出する「地域の知の拠点」を形成する取組を公募し、認定地域再生計画に基づいて優れた提案を支援しており、現在山梨大学の取組をはじめ、一〇大学において取組みが進められている。(つづく)