平成19年6月 第2278号(6月27日)
■"技術移転"の成果を紹介 文科省が事例集を発刊
文部科学省では、このたび、産学官連携の成果を紹介することを目的に、「イノベーション創出へ向けた技術移転事例集〜国公私立大学・独立行政法人・高等専門学校の“知識と知恵”で国民の生活の質の向上へ」を発刊した。同書は、大学知財本部整備事業の実施機関等における技術移転の九三事例を集め、ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料、エネルギー、ものづくり技術、社会基盤、フロンティア、その他の九分野の事例から構成している。私立大学の事例の一部を掲載する。
●事例一:青ミカンに抗アレルギー作用を発見!
連携機関:近畿大学薬学部薬用資源学研究室松田秀秋教授、株式会社ア・ファーマ近大大原 司社長
【要約】同研究室では、抗アレルギー作用がある食品素材を探索、未熟な時期の温州ミカン(青ミカン)を見出した。この研究成果を技術移転し、同大学発ベンチャーの同社で栄養機能補助食品として商品化し、販売。
【きっかけ】知財を活用するために、同大が同社を設立し、そこでエビデンスの確かな商品を販売し、少しでも人の役に立つものを世に出そうとしたこと。
【成功・失敗の分かれ道】青ミカンの機能性をどのように表現し、消費者に広めるか。大学研究成果に基づいた信頼性、安全性を的確に消費者へ訴える。研究段階から消費者のニーズを的確に反映した製品開発。
●事例二:アスベストの無害化―ヒューマン・イノベーション型技術移転
連携機関:東京理科大学瀬尾 巌科学技術交流センター長、諏訪東京理科大学システム工学部西山勝廣教授、安曇精工株式会社望月皎代表取締役社長
【要約】西山研究室では非酸化物系セラミック材料の基礎研究を進め、アスベストの廃棄処理として封じ込めを行うために、耐熱塗料、耐熱ボードの研究開発を同社と共同して行い、テルミット反応によるアスベストの無害化技術を最近完成させた。
【産学官連携のきっかけ】望月社長は新事業展開を意図して西山研究室を訪問、新規機能性材料の紹介を受けた。
【成功・失敗の分かれ道】産学の責任者の強い使命感と人間的な絆に基づく成功である。研究者、事業家、スタッフの三位一体の活動がよい結果を生んだ。戦略的な特許出願が必要であった。
●事例三:微小磁場計測技術の技術移転
連携機関:金沢工業大学賀戸 久教授、同大学平間淳司教授、株式会社PFU岩山 暁氏
【要約】同大学は微小磁場のセンシングのための技術をマルチセンサシステムとしてデータを統合して画像化。この成果により、肉眼では見えない磁場を可視化できるようになった。保安検査や集積回路故障分析等、非接触で測定対象の動きや内部構造を推定したいという場面への応用が期待される。
【きっかけ】同大で新しい磁場センサが開発されたとの新聞発表を受けて、同社がセンサのポテンシャルと将来の市場性を理解し、技術供与による自社内開発を決断したこと。
【成功・失敗の分かれ道】新たな研究成果に対して社会のニーズを踏まえた組織的な目利きが必要。空間分解能と磁場分解能の二つの性能のトレードオフの設定が必要。
同書は七月に同省のホームページに掲載される予定。