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平成19年6月 第2277号(6月13日)

授業における出欠管理の教育効果 −下−
  −携帯電話での出欠確認2年間の効果と今後− 

青森大学経営学部 准教授 福永栄一

 学生の授業出席率を上げるために、これまで多くの試みが大学でなされてきたが、大規模システムの導入はコストがかかり過ぎたり、「代返」が容易にできてしまったりと、今も頭を悩ます問題である。青森大学では、学生の携帯電話を使って出欠確認するシステムを開発。メディアで報道されたこともあり、二年以上経った今日まで、問合せや見学が後を絶たない。同大学経営学部の福永栄一准教授に仕組みや導入の経緯を寄稿して頂いた。

 【良い講義と出席】
 「良い講義をすれば、学生は出席を取らなくても授業に出てくる」。
 青森大学で携帯電話での出席管理システムを二〇〇五年度に導入したとき、このように多くの方々から言われた。しかし、良い講義をすれば本当に出席するだろうか。一二四単位を六五講義で取得すると仮定すると、六五×一五回=九七五回の授業に、大学に在籍する学生全員が遅刻せずに出席するであろうか。授業は退屈であるが、映画なら楽しいであろう。では、大学四年間で九七五本の映画を上映すれば、学生全員が遅刻せずに見に来るだろうか。四年間通して視聴率一〇〇%は不可能であろう。
 では、その学生が高校生だったときの出席率と大学での出席率を比較したらどちらが高いであろうか。非常に真面目な学生はどちらも同じかもしれないが、全学生を平均すれば高校時代のほうが高いのではなかろうか。高校生には、保護者や学校からの出席への強制力が働くが、大学生には強制力が働かないからだ。
 一部の学生を除けば、勉強は楽しくないはずである。遊びたいはずである。勉強しなければならないことも、勉強により習得した知識が将来のためになることも分かっているが、それでも勉強は辛いものである。だからこそ、勉強にはある程度の強制力が必要なのではなかろうか。その強制力が試験であり、単位である。さらに留年というハードルや卒業という栄誉である。しかし、試験は期末までやってこない。一科目や二科目程度なら単位が取得できなくても留年することはない。大学生への強制力は、高校生に比べると弱いのである。
 大学生に限らず社会人でも、規制されないと自らの行動を律し難いものである。我々は自由であるが、自動車の運転には速度制限がある。それは我々の自由を奪うためではなく、制限速度を守ることでみんなが安全を得るためである。右側通行も信号も法律で決まっている。銀行のATMの前には紐が引いてあり、並んで順番を待たされる。これらは我々を子ども扱いして自由を奪っているのではない。このような法律やマナーで我々を律するほうが、安全に心地よく生活できるからである。同様に、授業にも規制が必要ではなかろうか。出欠確認をするのは、学生を子供扱いして自由を奪うためではなく、より多くの学生に講義を聴いてもらい学力を向上させるためである。

【学生との信頼関係】
 出欠確認のシステム化で最も重視したことは、学生と教員の信頼関係である。代返防止に目が行き過ぎると、GPS(全地球測位システム)での学生の位置確認などの機能を考えるが、これは、学生が代返することを前提にしたシステムである。最初から学生を疑ったシステムである。教員は学生を疑ってはいけない。本学の出欠確認の目的は、学生の教育支援であり、代返する学生を見つけて罰することではない。学生に四年間とことん勉強してもらうことが目的である。学生を疑った機能で出欠確認すれば教員と学生の信頼関係が壊れてしまい、教員の支援を学生が受入れなくなってしまう。だから従来の出欠確認を真似てシステムを作った。このシステムでは、教員が一桁の数字を学生に告げ、それを学生が携帯電話の画面で選択し、教員の指示に合わせて同時に出席登録する。これは、教員が学生の名前を呼んで、学生が「はい」と答える従来の方法を真似たのだ。それを一斉にやることを考えたのである。教員が学生ひとり一人の名前を呼ぶ代わりに、全員に番号を告げる。学生一人ひとりが「はい」と答える代わりに、学生全員が番号を選択して同時に登録する。
 しかし、友人の携帯電話と自分の携帯電話を一人で同時に操作すれば代返できる。GPSを使っても、両方の携帯電話が教室にあるのでチェックできない。この方法を防止することは出来ない。不可能である。しかし、このシステムはこれも防止している。そこで考えたのが、やはり従来の方法である。名前を呼ぶのだ。学生が登録したら「出席を受け付けました」という確認画面を返すが、ごく一部の学生には「あなたは、立って自分の名前と学籍番号を教員に告げてください。告げないと代返とみなされるかもしれません」というメッセージが返るようにした。もし、友人の携帯電話にこのメッセージが返ってきたら、立って名前を告げることはできないはずである。
 このように配慮したが、二〇〇五年に導入したときは賛否両論だった。「学生を締め付ける」という意見も多く聞かれた。何度も説明したが、なかなか理解してもらえなかった。インターネット上にも、厳しい意見が多く書かれた。しかし、実際に導入すると、その簡単さと速さにみな驚き、短期間の内に大学全体に普及した。また、「学生の携帯電話のパケット通信料負担」が議論されたが、携帯電話でのWeb使い放題契約が普及したこともあり、最近は話題にならない。

【現状の効果と今後】
 「とにかく出欠確認を実現したい」という思いで開発した携帯電話のシステムであるが、二年三ヶ月運用して、思ってもみなかった効果が分かってきた。その一つが、同時に登録する効果である。同時に登録するので、それ以降は遅刻ということが学生に分かりやすいのである。二つ目が、学生が授業に遅れなくなることだ。一分で出欠確認できるので、出席を授業開始直後に確認し、遅刻を後で確認することができる。だからチャイムがなる前に学生が来るようになる。自分の授業は遅刻が激減した。三つ目が、授業開始直後に出欠確認すると、真面目に来る学生が喜ぶことである。従来であれば出欠確認には時間がかかるため、どうしても授業の後半になりがちであった。それにより、真面目にチャイムがなる前に来た学生と、授業終了直前に来た学生を同じに扱っていたのである。
 今後は、携帯電話のネットワークを生かしたコミュニケーションを充実させたいと考えている。休みがちの学生が分かると、話をするために彼らを呼び出すが、なかなか会えないからだ。学生にも都合があるので直ぐに会えるとは限らない。だから学生の携帯電話に話しかけるのである。携帯電話での出欠確認システムを使っていれば、学生は出席登録の度に大学のネットワークにアクセスしている。教員のパソコンも常に大学のネットワークにつながっている。これを利用すれば、教員が研究室から、直接学生の携帯電話に連絡することができるのだ。連絡を受けた学生も、直ぐ教員に返事ができる。しばらくお互いの都合が会わなければ、学生の携帯電話と教員のパソコンでコミュニケーションすればいい。「しばらく授業に来ないけど、何かあった?」とメッセージを送る事ができるのだ。全学生と全教員、全事務職員が携帯電話を介して常時つながっているのだ。そのためには、学生が毎日大学のネットワークにアクセスするシステムでなければならない。出欠確認をシステム化するからこそ、それも実現できるのである。私は、携帯電話での出欠確認を学生とのコミュニケーションのスタートだと考えている。(おわり)

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