平成19年4月 第2271号(4月25日)
■地域で学ぶ国際文化 プール学院大学のサービス・ラーニング −2−
プール学院大学(井上修一学長)の国際文化学部国際文化学科は、サービス・ラーニングという科目を置いて、単位認定している。サービス・ラーニングは、サービス(貢献)とラーニング(学習)をつなげ、ボランティア活動を学外で行い、その体験を通して学びを獲得することを目指す教育である。大学の地域貢献活動と、教育をどのようにリンクさせるかについて、同学科の中島智子教授に執筆してもらった。三回連載。
二回目は、サービス・ラーニングの活動先や学生の反応、教育効果について述べる。
《活動先の開拓と地域との連携》
学生の活動先は、海外及び国内としたが、本学の場合豊富な海外研修プログラムがあるので、特にコミュニティ・サービス・ラーニングを重視する方針をとった。これからの社会を担う学生には、地域課題を知り、それに対応できる力を蓄え、良き市民に育ってほしいという願いがある。また、従来から行ってきた大学と地域社会との連携を、更に拡大して確実なものにしていきたいからである。
活動先は学生自身が見つけてきてもいいが、大学からいくつか紹介できるようにした。その結果、小中学校での外国人児童生徒の日本語や学習支援、小学校での国際理解教育、不登校児童支援、軽度発達障害児童の支援の他、学童保育、保育所、障害者福祉施設、高齢者福祉施設などでも活動が行われている。このほとんどが、本学が立地する堺市の、特に大学周辺での活動である。
学校での活動は、堺市教育委員会に相談し協力を得た。堺市の不登校児童生徒支援事業を活動対象に組み入れたことで、活動先の紹介や案内、研修は教育委員会で行われ、担当教員の負担を軽減できた。
外国人児童生徒支援活動は、最も派遣人数も多く、中心的な活動となったが、その理由は、大学周辺に中国帰国者の大きなコミュニティがあるためである。これまでにも、学生による中国やペルー出身児童生徒の支援活動の実績があったが、「異文化間教育論」という授業を通して外国にルーツを持つ子どもの教育課題について学んだ学生たちが、何か活動を始めたいという動機を持っていたことも、影響している。
堺市在日外国人教育研究会の事務局に相談して各学校に呼びかけ、ニーズ調査を行い、学生の派遣を求める学校と個々に支援内容の確認などを行って準備を進めた。実際に活動が始まると、その効果を聞いた近隣の学校園から、学生派遣の要請が来るようになった。
《プログラムの実施》
二〇〇五年度四月当初の学生への説明会は、教室いっぱいの学生で埋まった。何か人びとの役に立つようなことがしたい、自分にも何かできるのかもしれない、大学の通常の授業ではない学びを得たい、という動機が多くの学生に共有されていたのである。もちろん、単位認定されることのメリットという側面もあったであろう。
こうして、学生と活動先のマッチング、活動計画書の提出などの手続きが始まった。学生の希望と相手先の求める人材との組み合わせや、時間の都合をつけるマッチングが、最も難しい。二〇〇五年度に活動した学生はのべ四三人、二〇〇六年度は四八人だった。このうち半数が、留学生である。中国ルーツを持つ児童生徒のいる学校では、教職員では担えない子どもたちの母語を大切にした支援活動を期待されたために、中国人留学生へのニーズが高くなっている。
活動先には、できるだけ教員またはコーディネーターが顔を出すようにし、年度末には意見交換会や報告会を開いて、受け入れ先の意見を取り入れるようにしている。学生とのふりかえりは、昼休み時間などを使い、同じ活動先の学生をグループにして、できるだけ毎週か、場合によっては二週に一度行った。
《ジャーナルとふりかえり》
学生は、活動に行く毎にジャーナルを書き、提出することを義務づけられている。ジャーナルは、自身の活動を言語化することで見つめ直し、課題を自覚し、次の活動目標を設定したり心構えを整えたりするのに有効だと考えられている。ふりかえりは、他の学生や教員と情報や意見を交換することで、自身の活動や活動先の状況を相対的に捉え、より広い視点で考えることにつながる。これらの継続は、学生にとっても教員にとっても負担は大きいが、サービス・ラーニングが単なる奉仕体験活動ではなく学びである以上、重要な側面だと考えている。教員にとっても、目の届かない学外の様子をジャーナルやふりかえり時の会話によって知ることができ、非常に有益である。
《学生の評価》
一年目の終了時に行ったアンケート調査によると、参加学生の九割以上が「学びが多かった」と答えている。内容は、「子どもたちへの指導方法」、「子どもや利用者を理解すること」、「日本の学校文化への理解(留学生の場合)」、「障がい概念の深まり」などであった。サービス・ラーニングに対する自身の態度については、「どちらかといえば」も含めて、全員が積極的だったと答え、八割の学生が活動前と後で自身に変化があったとしている。内容は、「他者へのまなざし」や「他者への関わり方」を挙げた者が多く、他者との繋がりの中にいる自分に気づき、その中での自分の責任についての自覚へと高まっている。
《学生の学びと成長》
このプログラムを通して得られた学生の学びや成長は大きい。しかし、一人一人によって異なり、また一人の中でも時間経過とともに変化しているので、ここでひとまとめに述べるのは難しい。以下では、二つの例を挙げるにとどめたい。
ある日本人学生は、中国出身の中学三年生の補習を行うことになった。生徒とはすぐにうち解けたものの、教えるのは自分でも苦手な数学である。そこで、参考書を買いこんで準備をし、分からないことは周囲の助けを得た。どうすれば分かりやすく教えられるのか、動機を高めることができるのか、「自分自身に負けては何も始まらない」と前向きに取り組んだことによって、生徒や先生の信頼を得ることができた。実は、理由あって入学当初に欠席がちになり、周囲になじめなかったこの学生は、サービス・ラーニングを通して自分の居場所と自信を得、多くの人と関わるようになったのである。翌年も活動を継続し、今はリーダーとして活躍している。
多くの学生は、活動先に行けば何をすべきかはっきりしていると考えているが、実はそうでもないことに戸惑うこともある。ある留学生は、渡日したばかりの児童の教室に入り込みで支援することになった。しかし、担任の先生からは具体的な指示がなく、担任が忙しくしているのを見ると、相談することもはばかられた。しかも、渡日児童の支援だけが自分の任務だと考えていたのに、担任の先生は時折「みんなを見てください」と言われることがあり、場合によっては給食や掃除、出張中の担任に代わって終わりの会を任されることもあった。大学の担当教員や同じ学校で活動する他の学生と話し合う中で、日本の学校では特別視を避ける傾向があり、なるべく全体的な関わりを求める文化があることや、学生の派遣目的の理解が大学側と学校の管理職、担任間で微妙にずれていることに気づいていった。こうしてこの留学生は、日本の学校文化を学ぶとともに、現状を打開するための提案を考えるようになったのである。
多くを紹介できないのが残念だが、他にも教職課程履修の学生が学校での活動によってさらに教職への動機を高めたり、本学では取得できない小学校教員免許取得のために卒業後に通信制で学び始めたり、留学生が翻訳や通訳の仕事につくために不足している力に気づいてより学習に意欲的になったりしている。また、自身が中国帰国家族や日系ブラジル人である学生が、自らの経験を踏まえて積極的に関わり、現場や子どもたちとの信頼関係を高めている。活動終了後もボランティアとして関わりを継続する学生や、サービス・ラーニングをもっと学生主体のプログラムにしようとリーダーになる学生もいる。
もちろん、いいことばかりではない。活動内容に自信が持てなかったり、負担の大きさに圧倒されてしまう学生もいる。遅刻時の連絡や服装などの社会的なルールから徹底しなければならない場合もある。それでも、活動を終えた学生が行った報告会では、活動を講義や演習での学びとつなげて、現状を客観的にとらえ、批判的思考を鍛え、建設的な提案をするまでになっている姿を見ることができる。(つづく)