平成19年4月 第2271号(4月25日)
■高等教育への公財政支出拡充を 教育振興基本計画特別部会の審議動向
具体的な数値目標の明記必要
中央教育審議会(山崎正和会長)の教育振興基本計画特別部会(部会長=三村明夫日本経団連副会長)は、昨年末に改正された教育基本法の第十七条に規定されている教育振興基本計画の策定に向け、委員からの意見発表、意見交換を行うとともに、同審議会の大学分科会等における同基本計画の在り方についての議論等も受け、精力的な審議を重ねている。特別部会でのこれまでの主な意見等は次のとおりである。
●教育の目標(教育基本法第二条関連)
▽人と人との関わり方やコミュニケーションスキルを育てる場として、学校体育の重要性は高まっていると思うが、体育の授業時間は削減され、教育課程の中でクラブ活動や部活動の位置づけが曖昧になっていることなどを検討すべきだ。
▽七割が高等教育機関へ進学する社会的背景の中で大学におけるキャリア教育が重視されつつあり、高等教育の質的変化や構造改革が迫られているが、専門的な職業教育だけではなく、意欲や一般的なコンピテンス(教養教育)を育て人格を形成することが重要となっている。
▽日本の文化を理解し、大事にすることは、同時に外国人がそれぞれの国の文化を大事にしていくということに通じる。
●生涯学習社会の実現(教育基本法第三条関連)
▽生涯学習社会の構築のためには、@教育・学習機会等の提供の仕組み、A学習機会の選択を援助するための学習相談の仕組み、B学習成果の評価・活用の仕組みの三つの仕組みが必要である。
▽六〇歳になって高校へ行きたい、定年になってから大学へ行きたいといった人々をどのような形で受け入れるかを検討すべきではないか。
▽大学にとってインパクトのある成人教育をしなければならない。大学では経営上役に立つ、一つのリソースになるような成人教育を行っていくことが必要である。
●信頼される学校の確立(教育基本法第五条〜第九条関連)
▽義務教育費国庫負担法の問題がなし崩しになってきているので、中身を充実させる必要がある。
▽学校施設の耐震化の推進は重要である。
▽社会的な背景を踏まえ今後、高等教育の質的向上を図る、成人教育を拡大する、国際的な流動性を高めるなど、高等教育の構造改革を支えるため、必要な投資が求められる。
▽競争的資金のみで大学の教育研究を支えるというのはかなり難しく、人材育成にとっての基盤的経費は欠かせない。
●家庭教育、幼児期の教育、社会教育、学校・家庭・地域の連携協力(教育基本法第十条〜十三条関連)
▽地域の教育力の向上、地域への学校開放、あるいは学校マネジメントを考えた際に、地域が一体となって学校づくりをしていくことが必要ではないか。
▽保育所、幼稚園、小学校の保幼小連携が重要であり、縦割りを排して議論すべきである。
▽図書館については、広い意味での自立支援の機能をもっと発揮する生涯学習の拠点として位置づけるべきである。
●教育行政(教育基本法第十六条関連)
▽(特に市町村の)教育委員会がもう少しアカウンタブルになるべきであり、地方自治制度というものを教育の分野で見直し、点検する必要がある。
●計画の策定、推進に際しての必要事項(教育基本法第十七条関連)
▽我が国の予算全体が単年度主義であり、その時々の財政事情によって予算措置が制約を受けてきた。教育振興基本計画は中長期的な視点から財政の充実を図ることが必要である。
▽高等教育について地方(特に市町村レベル)は今まで投資をほとんど行ってこなかった。今後は地方政府としても高等教育機関に投資をしていくということは今後の地域の成長を目指す中で非常に重要である。
▽地方が創意工夫を生かした改革をしていけるような国の計画でなければならない。地域社会にある潜在力を引き出していく計画を策定すべきである。
▽評価においては、定量的な指標だけでなく、定性的な指標を多様化し把握することが必要である。
▽数値目標を検討する際には、背景にある人的・物的な条件整備を裏付けていくことが必要である。
なお、四月二十日の第四回会合では、橘木俊詔委員(京都大学大学院経済学研究科教授)が「今後の教育のあり方」と題して、教育投資の収益率、教育費負担と「インセンティブ・ディバイド」、公財政教育費支出拡充の必要性などについて意見発表した。また、吉野直行委員(慶應義塾大学経済学部教授)が「教育の経済効果に関する計量分析」を図表等を中心に意見発表した。
そのほか、当日の意見交換では、前日の十九日に開催された大学分科会での教育振興基本計画の議論について、同分科会の副分科会長でもある郷 通子委員より報告があった。郷委員は@高等教育への公財政支出の縮減は問題であること、A科学技術基本計画での二五兆円の財政支出の明記のように目標設定すること、B質の向上に当たっては文科省の一定の関与が必要であることなど、大学分科会での議論を紹介した。
次回は、五月十日に開催される予定である。