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平成19年3月 第2267号(3月28日)

地域をキャンパスにすれば〜豊かな学びを地域で創る −2−

松本大学 総合経営学部 観光ホスピタリティ学科教授 白戸 洋

  松本大学(中野和朗学長)は、「地域を活かす、ひとづくり大学」をコンセプトに二〇〇二年に誕生した。松商学園の一〇七年の歴史に裏づけられた地域との信頼関係をベースに、地域に根ざし、地域に貢献できる人材を育成するための教育を展開している。同大学では、「アウトキャンパス・スタディ」という地域に出て実践的に学ぶプログラムを推進するとともに学外から講師を招く「教育サポーター」を定着させるなど、さらに地域社会との連携を強めている。このたびは、同大学の地域連携の取り組みについて、総合経営学部観光ホスピタリティ学科の白戸 洋教授に執筆して頂いた。三回連載。

  地域で学ぶ場としての「社会活動」
  地域を学びの場にしていこうという取り組みが、カリキュラムとして具体化されたのが、「社会活動」という講義の開講であった。一九九九年の夏、松商短大(現松本大学松商短期大学部)の教授会での議論がそのきっかけとなった。当時、松本市が取り組んでいた国宝・松本城太鼓門復元記念まつりに、ボランティアとして学生の参加が要請された。教授会の議題として取り上げられ、学生が地域で学ぶ意義を評価し、その活動を単位化してみてはどうかという意見が出された。
  賛成も多かったが、ボランティアを単位化するのはいかがなものかという意見や、そもそも大学のカリキュラムとして妥当でない等、議論が迷走し単位化は見送られた。しかし、夏休み中に参加した学生たちの成長していく姿が、消極的だった教員の意識を変えた。喧々諤々の議論を経て、二〇〇〇年から地域で学生が活動し学ぶことを目的とした「社会活動」という講義が開設された。
  学生が自らの関心や興味で主体的に地域において活動を行い、その中で何を学び、どう成長したかを教員が面接やレポート等で評価し、単位を与えるというものである。対象となる活動は公民館での地域の人との交流や吹奏楽サークルの保育園などでの出前演奏、イベントの企画への参加、少年野球のコーチや社会人バスケットボールチームでの活動など、ボランティア活動に限らず、地域で行われる様々な活動をその対象とした。特に地域との関係を築くこと、その中で学ぶことを目的とし、あえて地域に貢献することを強調しなかった。あくまでもボランティア活動は自主的な行為であり、「社会活動」では、何をしたかではなく、何を学んだかを大切にしたからである。地域の教育力を大学の教育に活かす試みでもあった。「社会活動」は、教室での講義のない一単位の実習科目としてスタートし、やる気のある学生の背中を押してあげるという考え方から選択科目として位置づけた。
  「社会活動」の成果は、地域で学ぶ意義を大学として積極的に評価していこうという意識を浸透させ、二〇〇二年に開学した松本大学では、松本大学松商短期大学部とともに、当初から「社会活動」を専門科目として設置した。地域で学ぶ準備と事後的なフォローアップを加えて二単位として講義科目としたため、履修人数が急増し、多くの学生が様々な活動に参画し、学生の地域との最初の出会いの場として重要な役割を果たした。二〇〇六年度に開設された観光ホスピタリティ学科においては、「社会活動」を充実させ、必修科目として「インターンシップ」を開講している。

  コミュニティ・ビジネスへの取り組み
  二〇〇二年には、「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)」に松商短期大学部の「多チャンネルを通じて培う地域社会との連携」が採択され、地域での学びを大学を挙げて取り組むことが本格化することとなった。しかし、地域での学びが本格的に展開される一方で、様々な課題に直面することとなった。「社会活動」が中核的な科目として位置づけられ、履修人数が増加する一方、学生の主体性にばらつきも見られるようになった。単位目当ての学生が地域でトラブルを起こしその解決に苦慮し、また地域と学生のニーズの食い違いの調整も、履修人数の増加によって困難を極めた。地域での学びが教育の中で重要なファクターになっていく一方で、従来の大学教育のカリキュラムでは対応できない現実に直面したのである。そこで、学生と地域のニーズを一致させ、学生がより主体的に取り組むことができる環境整備として我々が注目したのが、コミュニティ・ビジネスである。
  コミュニティ・ビジネスとは、地域の住民が自らの課題を主体的に解決するための事業や活動を、継続性を重視して、ビジネスの手法を取り入れて進めるという概念で、市場経済にはそぐわない地域の課題の解決を、行政に依存せず、ボランティアに頼ることもなく、自ら継続的に行うシステムである。経営や地域などの学生の専門性を活かし地域の課題解決を進める点で、コミュニティ・ビジネスは最適なテーマである。そこで二〇〇四年春、教員と学生有志によって、NPO法人化を前提に「ながのコミュニティ・ビジネス支援センター」を立ち上げた。学生の地域での活動の場づくりと大学の知見を地域づくりに活かすことを目的としたセンターは、地域の要望の多くが学生との連携であることを踏まえ、学生の教育を目的とする学内組織として教務課に位置づけ、「地域づくり考房ゆめ」として、二〇〇五年に再スタートを切った。
  「ゆめ」は、@地域づくりの活動を通して学生の「地域人」教育を進める、A大学における学問と、「地域人」教育を結びつける、B大学の社会貢献を推進するとともに、大学の価値を高めることの三点をミッションとして掲げ、地域と大学をつなぎ、その中で学生のやる気を伸ばすために、専任の教員がコーディネータとして配置された、地域での学びをコーディネートする組織である。その活動は一般のボランティア・センターの機能に加え、様々な分野の事業を通じて地域住民と学生が一緒に地域づくりを展開するセンターでもある。特に信州松本という地域性を活かし、地域の資源を学生の視点から活かす事業が展開されている。

  地域で学び、地域を創る
  「ゆめ」は学生への教育を目的に講義で学んだ知識や技術を、地域づくりの中で実践的に活かしていくことを目指し、地域社会の中で生きた学習活動を地域の方々と一緒になって行う学生主体の多様な事業の支援を行っている。例えば、学生と地域の方々が和太鼓を通じて仲間づくりを目指す地域交流和太鼓プロジェクト「松風連」、地域の子ども達の健全な発育とサッカーの浸透、普及とそれを通じたコーチング技術の習得・向上を目的とする「松本大学キッズサッカースクール」、大学の地元の地域の方々を対象に有償のパソコン講座を企画・運営・実施する「ものぐさパソコン教室」などの学生の想いを地域で形にする事業が行われている。
  また、山芋の特産地山形村で、捨てられている山芋の肉芽「むかご」を採取して商品化し、地域の自立とネットワークを創造する「むかごちゃんプロジェクト」、松本地方の特産である「松本いっぽんネギ」の復興を通じて、地産地消や食育、農村の活性化を目指す、大学・生協・農協・地域が連携した「松本一本ねぎ復興プロジェクト」、松本市内の伝統野菜を農家を訪ねて取材しパンフレットにまとめた「野菜マッププロジェクト」などの地域の資源を活かした事業も松本大学ならではの事業である。一方、市街地の活性化をテーマにした「中心市街地タウンマッププロジェクト」や環境や福祉の観点から新しい都市交通を提起する人力自転車を使った「ベロタクシー事業」なども商工会議所やNPO、市民グループなどと連携して取り組まれている。
  さらに本来捨ててしまう廃油をリサイクルして走る車を作り、環境負荷に配慮した生活スタイルを社会に向けて発信する「天ぷら廃油Carプロジェクト」や松本大学で平和や非戦に関連した講演会や展覧会を開き、学校外や地域の人にも足を運んでもらい、学生が松本大学をフィールドに平和などを考えていく場や情報を発信する「松本大学平和を考える会」などの足元の地域からより視野を拡げ、平和や地球環境の問題に取り組む事業も実施されている。「ゆめ」ではコーディネートや相談に加えて、研修や講座などを学内外を対象として実施し、学生や地域住民を支援している。
  松本大学は、「ゆめ」を中心として、大学のキャンパスと地域を学生の教育でつなぎ、地域とともに学生を育てつつ、学生が参画した地域づくりの拠点としての大学の可能性を模索している。(つづく)

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