平成19年3月 第2265号(3月7日)
■私大財政基盤充実の研究協議会開催 文科省担当課長5氏が詳細に解説
競争的研究資金など私学振興関連予算の活用を
日本私立大学協会(大沼 淳会長)は、去る二月二十七日、東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷において、「平成十八年度私立大学財政基盤の充実に関する研究協議会」を開催した。同研究協議会は、平成十九年度の政府予算案において、私立大学の基盤的助成である経常費補助金が減額されたことを受け、加盟各大学が全国で建学の精神に基づいた教育・研究の個性化・特色化・高度化を図り、地域社会において一層の活性化を期すためには、科学研究費補助金や国公私立大学を通じた大学教育改革への支援等の私学振興関連予算を積極的かつ有効に活用することが不可欠となっていることから、文部科学省の担当課長から詳細な解説を聞くとともに協議を行った。また、協議の終了後には、情報交換会が行われた。
協議に先立ち、同協会の小出秀文事務局長は「国の財政の厳しい中、聖域なき歳出改革が進められており、私学経営も非常に厳しい状況下にある。基盤的経費である経常費補助金が最重要であることは言を待たないが、各種の競争的な補助金等にもしっかりと目配りをすることも忘れてはならない。昨年の七月に「競争的研究資金制度に関する協議会」を開催したが、平成十九年度の政府予算案がほぼ定まったこの時機に、その第二段を開催し、各大学におかれては、科学研究費補助金や国公私立大学を通じた大学改革支援事業、さらには産学連携事業等に、各大学の特色を十分に発揮してチャレンジされることを大いに期待したい」と挨拶した。
協議に入り、次の各課題について文科省の担当課長から解説が行われた。
▽高等教育政策と私学行政に係る基本問題/高等教育局私学部・杉野 剛私学行政課長
まず“教育基本法改正と私学助成一%減”についての経緯のほか、科学研究費の間接補助の充実、寄付金控除枠の拡大等に触れ、私学振興策は否応なしに競争的な環境の中で多様化せざるを得ない。今後、各大学は特色を明確にしつつ効果的な展開を図る必要があること、また、今後約一五年間の一八歳人口の踊り場的局面で足元を固めること、それぞれの地域・分野で大学文化を育てていくこと、さらに“長期的な課題”として、人文科学、リベラルアーツをしっかり育てること、などを語った上で、日本的な大学風土を発展させてほしいと総括した。
▽私学助成をめぐる多様な議論から何を読み取るか/同私学部・芦立 訓私学助成課長
昭和四十五年の経常費補助制度の開始、同五十一年の私立学校振興助成法施行、同五十九年の特別補助の確立など、我が国の私学助成の経緯、経常的経費と補助金額の割合、歳出改革プロジェクトチームの意見や骨太の方針二〇〇六などの背景を解説した上で、私学の原点・建学の精神(創設者の志)に立ち返ること、知識基盤社会・人口減少の中で人材育成が将来にわたって重要であること、科学技術創造立国の実現及び地域再生・地域振興等に果たす私学の役割を強く社会に情報発信していくことなどが必要ではないかと力を込めた。
▽個性豊かで活力ある私立大学の振興を目指して/同芦立私学助成課長
厳しい予算の中で、私学を取り巻く諸情勢の下、@大学の満足度・効用の拡大を図る、A競争的環境を求める社会の要望に沿う、B経営改善への意欲的取組を支援する、C競争的資金獲得に向けて土壌の涵養を図る、ことなどを視点に、従来の特別補助・私立大学教育研究高度化推進特別補助を全面的に改編し、新しい「特別補助」〈表@参照〉に統合する。
特に、「各大学の特色を活かせるきめ細かな支援」に導入するゾーン制、メニュー化については、詳細に解説した。
ゾーンAは、多くの短期大学や学部数の少ない比較的小規模の大学を念頭に置いたもので、補助金の上限額・下限額とも小さいメニュー群で構成されている。
ゾーンBは、広範なメニューの中で多様な教育を展開する中規模の大学を念頭に置いたもの。
ゾーンCは、補助金の上限額・下限額の大きなメニュー群があり、比較的規模の大きな大学(八〇大学ほど)を念頭に置いたもの。
なお、各ゾーンの個別メニュー群については、今後更に検討していくこととしている。また、申請に当たっては、ゾーンA、B、Cを選択するが、学部の力量によっては他のゾーンのメニューを申請することも可能にしている。
併せて、定員割れ大学の助成の見直しについては、減額幅・スケジュールなど今後検討される。一方、定員割れ解消に向け改善に取組んでいる大学等に対しては、初年度二〇大学程度を考えている(五年間補助、三年目に中間評価)。
▽大学教育のあり方を考える―教育改革と支援プログラム/高等教育局・中岡司大学振興課長
大学教育改革に向け、制度面でのアプローチとして、トップのリーダーシップ、柔軟な教員組織、大学評価システムの整備等の改善、また財政面でのアプローチとして、大学の組織的取組を促進する資金の充実があると語った。
財政面でのアプローチでは、競争的環境の中で国公私各大学の多様な機能に応じた多元的できめ細やかな財政支援を推進していくとし、特色GP、現代GP、社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム、新たな社会的ニーズに対応した学習支援プログラム、グローバルCOEプログラム、大学院教育改革支援プログラム等を解説した。最後に、競争的資金の獲得にはまず申請すること、申請倍増を期待したいと結んだ。
▽科学研究費補助金の拡充と改革/研究振興局・磯谷桂介学術研究助成課長
研究者の自由な発想に基づく学術研究を対象に、人文・社会科学から自然科学までの全分野にわたり、一八九五億円(十八年度)の予算規模で、新規応募は約一〇万件に達している。また第三期科学技術基本計画にも科研費の拡充が明記されている。
十九年度予算案では、私立大学からの申請の多い基盤研究(B)(五〇〇万円以上二〇〇〇万円以下)と基盤研究(C)(五〇〇万円以下)についても、研究者の研究開発環境の改善や研究機関全体の機能向上に活用できる三〇%の間接補助が措置されるようになった。なお、研究費の不正使用等の起こらないように管理には十分に注意するように促した。
▽イノベーション創出に向けた私立大学の新たな展開/研究振興局・佐野 太研究環境・産業連携課長
第三期科学技術基本計画におけるイノベーションの位置づけ、そのイノベーションを創出する産学官連携の重要性などを述べ、具体的な「日本発のイノベーション創出例」を紹介するとともに、地域発のイノベーション創出へ向けた改革の必要性を強調した。さらに二十一世紀の知識基盤社会を支える国公私立大学・高等専門学校等の多様性・創造性こそが国力の源泉であることから、高等教育に対する公財政支出の対GDP比〇・五%の拡大が望まれるとした。
研究協議の終了後には、私学助成予算、大学教育改革支援予算、科学技術関連施策の三つの分野別の熱心な情報交換会が行われた。
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