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平成19年2月 第2264号(2月28日)

駿河台大学の地域との連携 −3−

駿河台大学副学長 地域ネットワーク推進支援室長 吉田邦久

駿河台大学(埼玉県・竹下守夫学長)は一九八七年に設立され、開学。当初から「開かれた大学・地域に密着した大学」を目標として掲げている。以来、地域での取組を加速させ、「学生参加による<入間(いるま)>活性化プロジェクト」としてそれまでの取組を組織化し、平成十六年度(第一回)の「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」に採択されている。このたびは、同プロジェクトの中核を担う地域ネットワーク推進支援室の室長である、吉田邦久同大学副学長に、多様な取組と教育の効果について、寄稿して頂いた。

 そのため、「開かれた大学・地域に密着した大学」を目標に、学則にも「社会人の教養・知識を高め、文化の向上に資するため、本学に公開講座を開設する」と書かれた。そして開学当初から、「日本語ワープロ講座」「暮らしの法律」「英語と国際教養」などの公開講座や国内外で活躍する学者、芸術家、企業人を招いて公開講演会を開いてきた。これらは当初から大好評を博し、受講者を抽選で選抜しなければならないことも度々で、地域の期待がいかに強いかを認識させられた。
 こうして、公開講座や公開講演会は、その後も、学部や大学院の増設に伴って、拡大し、充実を図ってきた。近年は、「飯能学」や「彩・ふるさと喜楽学」という統一テーマを掲げて、地域の中からの講師も加えて充実化を図り、受講者は一段と増してきている。また、飯能市への貢献としては、法学部教員と学生による「市民のための法律相談」も、好評のうちに続けられてきた。さらに、数人の教員は、飯能市や入間市の各種の委員として貢献してきた。
 A「地域貢献=知の提供」の限界
 しかし、一方では、大学は地域に対して、知識を授与することが地域貢献であるという固定観念を生むことにもなった。「地元の誘致を受けてできたのだから、学生を教えるだけでなく、地域の社会人にも、おすそ分けをしなければ」という考え方が一般的であったし、今もそういう認識は強いと思う。そこには、やはり「象牙の塔」的な意識が垣間見える。地元の人々にとっては、大学はそこに聳えていて、時々は「施し」をいただけるけれども、「自分達の身近な存在」ではなかったし、大学としては「公開講座を行えば、サービスとしてほぼ十分」という考えであったと思う。そこには、大学が地域の力を借りる、大学が地域に根を張って地域の教育力を活用する、そして、大学が地域の抱えている課題に取り組み、地域の歴史や文化の維持・発展に重要な役割を果たすという「共生」の考えはほとんどなかったように思う。
 また、学生を社会に送り出すという役割を果たしていながら、「できるだけ都内などの大手企業に入れる」、「リーダー的な存在になる卒業生を輩出する」ことを成果として考える向きも強かった。そして、たしかに、上級公務員試験合格者や司法試験の合格者を何人かは輩出した。しかし、大きな企業などへ就職した学生は評価の対象とするけれども、近隣地域などの中小企業への就職は、あまり評価の対象として取り上げることはなかった。そのあたりでも、意識が中央に、上層に向いていた。実態は、そのような学生は非常に少なかったのに、である。
 しかし、卒業生がそのような尺度だけで測られるべきものではなく、中小企業であれ、地域企業であれ、卒業生の一人ひとりが、一人前の社会人として、自分の職業に生きがいを見出しながら、社会に貢献しているかどうかがより重要であると思われる。そして、議論を繰り返す中で、そのように考える教員が徐々に増え、「教員がもっと学生の進路決定に積極的に関わるべきだ」という声が高まり、ゼミを中心に、一年生から、自分の進路を考えながら学ぶようにする、また、現実社会に関心を持たせるように取り組むという方向で、議論がまとまっていった。それはキャリア育成支援が重要であるという認識の芽生えということもできる。
 そして、そのような議論の中で、何人かの教員の間で、学生に職業観や社会性を身につけさせるため、もっと我々は地域を知り、地域社会の中核になっている人達と交流し、彼らの力を借りなければならないのではないかとの思いが強まっていった。こうして、五、六年前から経済学部教員を中心に、地域との交流・連携を強めることが目標として掲げられるようになり、少しずつ実績が積み上げられ始めた。
 折しも、一八歳人口の長期的な減少が始まり、大学の個性化が叫ばれるようになった。行政においては、「地方の時代」が強調され、今日では地域社会を支えていた共同性や連帯性が、都市化や工業化といった一連の社会変化によって衰退し、その結果、社会的疎外が拡大し、人々の自主性や主体性を喪失させてきたのではないかとの指摘がされるようになった。この失われた連帯性を回復し、地域社会を再構築していくことが、社会的な課題となりつつあった。
 B地域との連携・交流の開始
 こうして、本学においては、経済学部の教員数名が中心になり、地域社会で中核になっている中小の企業人、自治体職員、地域活性化を目指している市民団体の人々との交流が始まった。それは「駿大・地域フォーラム」という名称を名乗り、二か月に一度ぐらいの例会をもって、地域活性化と大学活性化のために、自分達に何ができるか勉強会をはじめた。もちろん、例会の最後は飲み会になるのが常であったが…。
 この話し合いの中から、いろいろなアイデアが生まれ、機関誌も発行するようになった。その会員達のつながりで、入間市商工会に属していた中小企業が中心になって、産・官・学連携の「元気な入間ものづくりネットワーク」という組織がつくられ、経済学部の教員複数で参加して活動を始めた。また、入間市に地域通貨を広めて活性化を図る活動を行っていた「地域ふれあい通貨元気」という市民団体にも教員が参加した。そして、これらの連携が「学生参加による〈入間〉活性化プロジェクト」へとつながっていったのである。
 ちょうどその頃、大学生が正規の社員として企業に就職することが決まらないまま卒業、その後はフリーターになる者が増えていることが問題となっていた。このことは、入学して三年間ほどは将来のことを考えずにアルバイトや遊びに時間を費やし、いざ就職活動を始める段になって、初めて自分の将来の方向を考え出す学生が増えているように思えた。そこで、地域の企業人に、地域人講師団として、職業観や社会性を身につけるのを手伝ってもらうことにしてはどうかという考えが生まれ、実践に移されたのである。地域インターンシップにおいても、駿大・地域フォーラムの協力を仰いだ。
 C全学的な方針の確立へ
 駿大・地域フォーラムへの本学教員の参加は、経済学部以外にも広がり、二〇名を超える教員が参加するようになり、大学の正規の講義への地域人講師団の協力も広がっていった。こうして、本学の教育目標として、「学生一人ひとりの将来設計を支援すること」、「地域社会の中核となる人材を養成すること」が全学的に確認されるようになった。
 もちろん、このような地域との連携、共生関係に非協力的あるいは無関心な教職員、地域との関係を深めることは学生受け入れもローカルに限定されていってしまうのではないかという誤解をもつ教員も多かった。そして、相変わらず、自分の担当科目と以前からの研究テーマにだけ関心を持っている教員もかなりいた。そのような中で、文部科学省の方針として「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」(現代GP)が始まったのであった。
 学長をリーダーとする当時の本学の執行部は、十分な認識をもって積極的に動いたとは言い難いが、経済学部から提起された地域重視の方向性を理解し、全学態勢の計画の推進を決め、地域連携の窓口として地域ネットワーク推進支援室を設置した。こうして、現代GPに「いるプロ」を応募し、採択されるに至ったのである。採択されてからすぐに、全学教職員集会が開かれ、学長から「いるプロ」を全学の協力体制の下で実行していきたいとの呼びかけがなされた。
 しかし、いくつかの課題は残っている。一つは、未だ「いるプロ」などの地域連携活動に参加する教員に対して適切な待遇が確立しておらず、多くの教員がボランティア的に働いていることである。そして、もう一つは、大学のこの新しい方向性、地域との共生の考えに対して十分な理解を持っていない教職員がまだ相当数いることである。
 しかし、「いるプロ」に参加した学生や、地域と連携して行うキャリア教育科目を受けた学生は、確実に成果を身につけて、卒業していっており、この方向はさらに強い流れとして、本学を特色付けて行くことになるのは間違いないと、筆者は確信している。
 D「いるプロ」から森林環境プロジェクトへ
 今、二〇周年記念事業として、もう一つの地域連携プロジェクトが始まった。それは、「森林環境プロジェクト」である。これも元は駿大・地域フォーラムの提起した取組である。大学が立地している飯能市には広大な森林が広がっている。しかし、林業は衰退し、森林は荒廃するにまかされている。わが国の歴史、文化、風土を育てた森林をどのように再生させたらよいかは、日本全体の緊急の課題である。これはまた、地球温暖化の対策とも重なり合うところがある。市の保有する森林を「駿大の森」として一〇〇年にわたって借り受け、全学共通科目の「森林文化」という科目を設置し、その中で森林の維持管理、間伐材利用について体験学習するとともに、森林を中心とした地域文化を学ぶというのがこのプロジェクトである。これには、もちろん市の職員の「森の番人」のサポートや地域住民の支援が必要である。これが、今本学において始まっている「地域との共生」の新しいプロジェクトである。
 地域の自治体も、大学との連携については、評価を高めつつはあるが、まだ戸惑いが見られる。自治体は、市内に立地する大学との関係を特別視する傾向が見られる。大学としては自治体の境界にしばられるという意識はなく、教育的効果が得られるプロジェクトならば連携・協力していく用意があるのではあるが。
 最後に、まだ本学も充実化の途中でおこがましいが、これから地域との連携を強めたいと思っている大学にアドバイスするとすれば、まず考え方として、「地域に与える」という意識ではなく、「地域に学ぶ」という意識を持つことである。教員の多くは(私自身を含めて)十分な社会性をもっていない。学生に社会性を身につけさせるのに、大学の中だけでやることは不可能に近い。そして、その重要性を認識した複数の教員が地域の企業家や市民、自治体職員に呼びかけ、人と人とのつながりを築くことである。話し合っていく(「飲み」ニケーション)の中で、必ず、進むべき方向が見えてくると思われる。そして、まず、限定的でもいいから、学生が参加して行う何らかの地域連携の取組を企画し、実績を挙げることだろう。そして、それを元に、協力者を増やし、全学的な理解・協力を得るように取り組むことではないかと思う。
(おわり)

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