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平成19年2月 第2264号(2月28日)

大学職員のキャリアパスを考える −下−

 日本福祉大学 常務理事・学長補佐・執行役員・事務局長
 大学行政管理学会会長 福島一政

 大学職員のキャリアパスの在り方について、議論が行われ始めている。大学の冬の時代にあって、職員は自ら能力を高めなければならないし、これまでのように、様々な部課署を経るジェネラリストではなく、特定の分野に特化したスペシャリストとしてのキャリアパス等も考えられる。このたびは、職員のキャリアパスについて、大学行政管理学会の福島一政会長に寄稿して頂いた。

 第二に、大学の計画的な職員の人事異動で、若いうちに複数の部門を三年くらいずつ経験できるようにすることである。経営部門(財務、人事、企画、事業等)、教学部門(教育、研究、社会連携、生涯学習等)、行政管理部門(総務、学長室等)などの業務を実際に担う中で、該当分野の専門性がある程度理解できるようになるし、自分自身の関心の度合いや適性なども一定程度わかってくるだろう。できれば、この三部門全部を経験できるようにすることが望ましい。
 第三に、業務管理の中に「目標による管理のマネジメント手法」の考え方をその大学に適したシステムとして組み込むことである。この中で戦略的プランニングとその実現のためのマネジメント手法を実践的に身につけることができるようにしたい。重要なのは、実現へのマネジメントができる力量を身につけることである。いくら立派なプランニングができてもそれが実現しなければ、何もやっていないに等しいからである。従って、その仕事の結果が処遇に結びつく人事評価制度につなげる。大学の戦略や政策のどこをその職員が担っているのか意識できて、正当な評価がされるようであれば、職員のモチベーションは精神論でない使命感に結びつくだろう。ただ、処遇に結びついた人事評価制度はデリケートな問題も含むので、職員の業務体系全体の中で検討した上で、職員全体が議論に参加し、その多くが納得できる制度を目指すべきである。人事評価制度の提案は、人事部局の責任において行うのは当然だが、もとより完璧な人事評価制度など無いのだから、最初から完璧を目指すのでなく、基本的考え方とある程度の仕組みが出来上がったら実施に移し、問題点が明らかになってきたら改善していけばよいだろう。その全過程で、職員全体の英知を発揮してもらい自らを律する制度をつくりあげるべきである。この議論のプロセスもまた、大学職員としてのセルフガバメントの意識を成長させることになる。理事会の決定だけで上から押し付けることをすれば、その絶好の機会を失い、職員の自律的な成長につなげることができないのは明らかである。多少時間がかかっても、粘り強く、職員たち自身でそのような取り組みができるように仕向けるべきであろう。
 以上のことを通して、全学的な状況が把握でき、単に実務処理だけでない業務ができるようになってくれば、一人ひとりの職員の関心の強い分野や得意分野、特技・特性を生かした領域への配置が考えられるようになるだろうし、その領域のプロフェッショナルとしての成長を促すことも比較的容易になろう。従って、以上の三点が、大学職員にとって必要な資質を身につける必要条件だと考える。
 四、キャリアパス多様化を可能にするには
 上述したことを前提とすれば、ここから先の職員のキャリアパスは、その大学の状況に見合う、組織的で多様なものにすべきであろう。
 これまでのように課長や部長などのポストにつけるキャリアパスだけでは、先述した大学の役割の発展を支える職員を数多く成長させることはできない。大学は、理論と豊富な実践経験を積んだ「骨太」のプロフェッショナルな職員を育てるためにどのようなキャリアパスを準備すべきなのだろうか。
 第一に、職員の専門性を求められる必要なレベルまで高めるためには、専門職あるいはプロフェッショナル職のような制度設計が必要であろう。例えば、教育の分野では、フィールドワークのコーディネートやマネジメントのできる職員である。フィールドワークの重要性が分かっていても、フィールド教育をやったことのない教員が多い中では、そのような専門的力量を持った職員がいなければ実現は覚束ない。また、eラーニングを実際の教育手段として有効に活用しようと思えば、インストラクショナル・デザインのできる職員も必要である。パソコンの画面上での講義を学生たちに最も有効に理解してもらう「演出」の専門人材である。さらには、多様化し、複雑化している学生の学習や生活相談に応じ、自立支援を促すために、学生生活支援ソーシャルワーカーも必要だろう。教育企画やその運営といった教育マネジメントのできる専門的力量を持った人材も必要である。
 研究の分野では、産業界や官庁・自治体あるいは国際的な関係の研究コーディネートや知財マネジメントのできる専門人材が必要である。
 経営や管理の分野では、戦略プランニングのできる専門的力量が求められ、マーケティングやインスティテューショナル・リサーチのできる専門人材も必要となる。現代の大学に要請されている課題を解決するためには、常に新しい事業展開も構想するから、学生満足度の測定を始めとして、現状評価が常時的確に行われていなくてはならないし、環境評価が客観的にできなければならないからである。また、USRや情報保護・リスク管理を含む法務の専門人材、ユニバーサルデザインや環境問題を含むファシリティマネジメントの専門人材も必要である。
 以上いくつかの具体例を挙げたが、これ以外にももちろんたくさんある。問題は、大学が、これらの専門職員の大学業務全体での位置づけと処遇を準備しておくことである。そうでなければ、数多くの職員の成長を促すキャリアパスにならないだろう。
 第二に、従来からある課長や部長などのポストに加え、法人の理事などの役員として登用することである。データがあるわけではないので正確にはわからないが、一〇年ほど以前に比べれば、多くの大学で職員の役員登用はすすんでいるように思う。しかしながら、職員が培ってきた能力をフルに生かして経営責任を果たせるようにするには、まだまだ不十分ではないかと考えている。また、大学や学部の行政管理の領域でも、副学長や学長補佐あるいは副学部長や学部長補佐といった、学長や学部長を補佐してマネジメントの責任を果たすことのできるポストの準備もすべきである。国立大学法人などでは職員が副学長に任命されるのは普通に行われているが、私立大学は、まだそれほど多くはない。大学や学部の行政管理を安定にするために、職員の大いなる成長を促すことは必要不可欠であろう。
 この場合に留意することがある。それは、このようなポストに就任すると、それを「地位」と受け止めて権限を振りかざしたり、守りの姿勢になってしまったりする人間もいるということである。このようなポストは、あくまでも「機能」であって、その役割を果たせなかったり、戦略展開によっては他の人間に担ってもらうほうがよい場合もある。そのような場合は、別の役割すなわちプロフェッショナル職としての活躍の場を設けるべきである。
 上記のようなキャリアパスを設定したときには、第一番目に記述したプロフェッショナル職員として成長する場合もあるだろうし、複数の専門的力量を持った人材として第二番目に記述した管理職やアドミニストレーターになる場合もあるだろう。
 もう一つ、職員のキャリアパスをより確かで高度にするためには、大学として様々なレベルの研修制度を設けたり、自己啓発の支援を行うべきである。大学院進学、高度な資格取得支援、大学行政管理学会などで実践的な研究をする中での「他流試合」の奨励等々職員のチャレンジ精神を育てる制度を多くの大学で作ってほしいものである。
 現代の大学に課せられた、困難で多くの課題を解決していくためには、実務だけでなく、先に示した専門的な力量を持った職員をどれだけ大量に養成できるかにかかっている。そのためには、大学は、職員が展望を持って成長できるキャリアパスを早急に準備すべきと考える。大学として、職員たち自身がどうしたいのか、職員たちに問いかけることもしてほしい。
 五、おわりに
 最近、エンプロイアビリティという言葉を時々聞く。要するに、大学職員としての能力が、学内だけでなく大学の外でも通用するあるいは必要とされるということである。実務しかできないというのであればそれはなかなか難しいであろうが、ここで述べたような形で職員がその能力を身に着けることができれば、自ずとそうなるだろう。ただ、間違っても、外部で通用するために力を磨く、という発想にはならないでほしいと思っている。大学で通用しないものが外部で通用するわけがないからである。もう一点補足すれば、そのような能力を身に着ければ、定年退職後に地域社会などでも重要な役割を担うようになるだろう。コミュニケーション能力にたけ、教養豊かでマネジメントのできるプロフェッショナルな人材というのはそれほど多くはないからである。実例は身近にある。退職した有能な職員だった方が今、どういうことをやられているのか聞かれるとよいと思う。大学の内部で的確に組み込まれたキャリアパスによって成長した職員は、退職後の人生を豊かに送ることのできる条件の一つを自然に身に着けることになるはずである。
(おわり)

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