平成19年2月 第2262号(2月14日)
■芸術による社会への貢献
生まれて六回目の亥年を迎えることになった。このように馬齢を重ねるとは思いもしなかった。これに比べて本学の歴史は浅い。
一九九三年に滋賀県で初の芸術系大学として呱々の声をあげて、本年四月でちょうど一五年目にあたる。初代学長・井筒與兵衛氏は、そのとき「響心創象」という建学の言葉をつくられた。観る人の心に響くもの(こと)を心のままに形に創る。いわゆる造形の意味だろう。私は今も芸術を語ったり、認識するうえにおいて含蓄のある造語であると思っている。ちなみに本学の大学祭は「響心祭」とその名称を冠している。
ところで、開学以来、本学は社会に即応する創造性豊かな人材の養成を目指す芸術教育の場であり、芸術は心を豊かにすると位置付けている。そして、学生たちが具体的な造形表現の方法を学び、研究する喜びを実感できるように、個人対応を綿密に行うことを基本姿勢に掲げる。一般的に、ややもすると学生と教員との距離感が遠いという声をよく仄聞するが、小規模な単科大学ならではの特性を生かして、その実践に努めている。
一方、大学は今、地域における有り様や、生涯学習の拠点づくりとしての役割を含めて、いかに地域社会に根付いているかが問われている。それに少しでも対応するために、昨年度から大学の新たな方針として「芸術による社会への貢献」を掲げた。
芸術行為には当然、表現性・創造性・社会性が強く求められている。その一環として、キャンパス以外の活動を通じて学生たちが地域や社会において多くの実体験を積み、社会と芸術の有り様を具体的に模索する機会を充実させるかである。
幸い本学は、眼前に大湖の琵琶湖、背後に比叡・比良の山並みを控える。その間に、里山、棚田、旧門前町、旧港町、旧宿場町、著名な神社仏閣、湖畔の風景が連なり、特異な景観を呈し、学生たちの研究調査素材に恵まれる。
このような立地条件及び京都と至近距離にあることを踏まえて、来年度から「芸術による社会への貢献」をテーマに、芸術を通じて社会との架け橋を担う文化コーディネーターを育成するための「芸術文化デザインクラス」を立ち上げる予定である。新しい年にあたり、その具現化に努めたいと思っている。