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平成19年1月 第2257号(1月1日) 2007年新春特別号

2007年―年頭所感
  改正教育基本法を基軸として日本の教育の再生を願う

日本私立大学協会副会長/北海学園大学理事長 森本 正夫

 新年おめでとうございます。
 過ぎし一年を振り返ると、国内では「官から民へ、中央から地方へ」のスローガンによる小泉内閣の構造改革路線を引き継ぎながらも、「品格ある美しい日本」や「再チャレンジ可能な社会」を目指すとする安倍内閣の誕生、国外ではアメリカの市場原理主義的な世界戦略の混迷や、相対的に増大する中国、インドの発言力、あるいはEU、ロシア、南米圏の動きなど、激動の年でありました。新しい年も、統一地方選挙や参議院議員選挙を挟みながらの国内政局の動きや、北朝鮮の主体性論による世界平和への挑戦など、課題山積の年となりましょう。
 その中で私ども教育界にとっての朗報は、昭和二十年代以来の宿題であった教育基本法の改正の目途が、ようやくついてきたことです。マスコミや国会の論議は「愛国心」の問題に集中しがちでしたが、私としては、改正案全体を素直に読んでみて、戦後六〇年の時代の変化や社会の進展、あるいは教育概念の拡大などに即した必然かつ必要な改正であると思います。特に、現行法ではまったく触れていない生涯学習の理念や、幼児教育、障害者教育、大学や私学の教育などについて、すべて取り上げられております。また、「父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有する」と明示したうえで、学校・家庭・地域住民等の連携協力の必要性を強調していることは、少子化社会で発生する教育諸問題への対応のためにも不可欠の内容であります。さらに、国や地方公共団体に対して、それぞれの教育振興基本計画の作成の義務規定を設けたことも、厳しい財政事情の下での教育予算の安定確保のうえで大いに役立つことでしょう。
 ともあれ、私ども私学や大学関係者としては、公立学校初等中等教育基本法の如きであった現行法が、教育すべてを包括する真の基本法に進化・発展することを待望しておりました。特に、憲法第八十九条との関連から今なお無用の論議がなされている、学校法人が設置する私立学校への助成について、「私立学校の有する公の性質及び学校教育において果たす重要な役割に鑑み、国及び地方公共団体は、その自主性を尊重しつつ、助成その他の適当な方法によって私立学校教育の振興に努めなければならない」と規定されたことは、当然のこととは言え心強いことです。
 教育を最重要政策に位置付けている安倍内閣が、この改正教育基本法を皮切りとして、新しい年の中で関連法規の整備や教育予算の拡充など、国家存立の基盤となる教育の全面的な再生に向けて、それこそ小泉流の蛮勇をふるっていただきたいものです。特に、教育への公的支出のGDP比率が先進国の中で極めて低く、とりわけ高等教育面では最下位であることについて、大学生の四分の三を私学が担っている現状に政府が安住し、更に公費投入における国公私立間の信じられないほどの格差を放置してきたことなど、多年にわたる文教行政の無策ぶりは厳しく批判されるべきでありましょう。
 私立大学を取り巻く課題の多くが、直接・間接に新しい教育基本法に関連するであろうという観点から、今年の年頭所感は教育基本法についてのみ述べましたが、終わりに付言するならば、ここ数年、教育をも巻き込んで吹き荒れた経済論理に基づく構造改革、規制緩和、効率化、自由競争などの市場主義の流れに対し、私どもは教育の論理を再構築し、社会に対して説明力を強化する年でもあろうかと思います。

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