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平成19年1月 第2257号(1月1日) 2007年新春特別号

2007年―年頭所感
  私立学校の原点を見つめ直す

日本私立大学協会会長/文化女子大学理事長・学長 大沼 淳

 全国三七一校の加盟大学の皆様、明けましておめでとうございます。歳出改革等の国家の厳しい財政運営の中で、教育分野もまた例外ではなく、予算等の削減、さらには少子化を背景に、各大学におかれては、これまで以上の創意工夫、全学一致による特色を発揮されて、大学運営をしていかなければなりません。
 更にまた、市場主義、経済主導による規制緩和等も声高に叫ばれてもおり、予断を許しません。
 昨年の七月には、日本私立学校振興・共済事業団の「学校法人活性化・再生研究会」が取りまとめた、私学経営に関する中間まとめが公表され、厳しい私学の経営革新が議論されています。
 経営基盤に係る私学助成については、高等教育に対する公財政支出の対GDP比率が〇・四%と極めて低く、欧米諸国の半分にしか過ぎません。経常的経費への補助金額を見ても、昭和五十年に制定された私立学校振興助成法の下で、同五十五年度にその割合が二九・五%となったものの、その後は減少し続け、平成十六年度には一一・九%と低迷しています。
 それにもかかわらず、今日までわが国が先進諸国と遜色なく伍してこられたのは、取りも直さず、私学高等教育の振興・普及、つまり、民間による教育費負担があるからなのです。
 高等教育に限って見れば、私学が大学数・学生数の約七割を担い、まさに私学が先導し、支えていると言っても過言ではなく、私立学校振興助成法や学校法人制度は、諸外国には無い、わが国独自の世界に誇れるシステムなのです。したがって、学校法人に対する理解と支援策こそ、強化・拡充されるべきと強調したいのです。
 ところで、近年における法人化後の国立大学の「推薦入試・AO入試による定員枠五〇%への拡大」や「四月に入ってからの追加合格や二次募集」、更には「私立大学を〇・七ポイント上回る一〇七・九%の定員超過率」など、国立大学が私立大学と競争をするような事象が目に付くようになってきました。その成り立ち、財政的な裏付け等から考えても、現状のような競争はフェアとは思えません。国立大学には、私立大学ではできないこと、国策として重点的にすべきことなどを研究してもらいたいものです。
 また、昨今、構造改革特区で認められた株式会社立大学等の全国展開等の動向は、公教育体系としての学校法人制度の根幹を揺るがしかねないものと憂慮しています。
 私立学校は、私人が私財を提供して学校法人を設立し、設置したものであり、公共性と自主性。そして永続性とを柱にしているのです。私立学校はこの自主性のシンボルである建学の精神の下、公教育を担ってきたのです。これに対して、自社の利益追求を一義的とするような株式会社に学校設置を認めたうえで「校地・校舎まで借りものでもよい」といった過度の規制緩和は、公教育を乱すものと言わざるを得ないのです。
 「教育は国家一〇〇年の計」と言われ、短絡的に経済的な視点からだけで規制緩和に走ってはいけないのです。
 さて、昨年の十一月三十日に挙行いたしました本協会の創立六〇周年記念式典において、われわれは加盟大学の総意として、人材育成、知的創造、社会貢献といった三項目にわたる決意を力強く表明しました。教育・学術・文化の一層の発展と時代の要請、社会の期待に応えなければなりません。
 教育再生を最重要課題として掲げる安倍内閣にも、折に触れて積極的に意見具申しつつ、明治以後、多くの先達が築き上げてきた、わが国独自の有効な教育体系を維持・向上させるとともに、私立学校の原点をしっかりと見つめ直して、私学振興、ひいては教育全体の更なる充実・発展に寄与したいと願っています。
 加盟大学のご発展と、皆様のご健勝を心より祈念申し上げます。

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