平成19年1月 第2257号(1月1日) 2007年新春特別号
■2007年 新春座談会
「全入時代の教育と私学経営 高度化と多様化への対応」
学校法人制度を堅持し私学振興を 建学の精神の下、特色ある教育を展開
学校法人制度を訴える必要性
これを受けて、私学事業団が、平成十七年十一月に学校法人活性化・再生研究会を設置しました。現在、委員は二三名で半数以上は私学人以外の方です。
最初に、委員の話をいただいた時には経営困難な学校法人が出始めたための研究会ですから、特別融資等の再生に対しての具体的な対応策から始めて、そのうえで私立大学として国際的な観点で活性化を検討していくものと思っていました。
しかし、最初の研究会で黒田先生に特別講師として学校法人について話をしていただきましたが、研究会の委員のほとんどが私学人以外の方々ですから、その後の会議の中でも学校法人活性化・再生研究会でありながら、学校法人の優れた特殊性を認識する考え方はほとんどなく、市場原理・競争原理に基づく企業と同じ考え方で進んでいます。
したがって、わが国の高等教育の約七五%以上を担う私立大学が、校地・校舎等基本財産は国からまったく援助なしに学校法人が自らの努力で発展してきたために、他の先進国に比較してわが国の高等教育への公財政支出がGDP比で比較して半分以下で済んできた訳ですから、国際化に向けた質の向上を図る今こそ私立学校振興助成法で定められているように私学助成を増やすべきではないかと申し上げるのですが、通用しません。
むしろ、競争によって勝ち組と負け組ができ、勝ち組は生き残り、負け組は必然的に潰れていくもので、補助金制度等はなくすべきではないかという意見もあります。
一方で、学校法人は公共性があるので、社会的責任としてコンプライアンス(倫理法令遵守)、情報公開そしてステークホルダーに対する説明責任はしっかりやらなければならないと非常に厳しく強調されています。
そこで、学校法人の経営状況に対し、私学事業団が経営判断に適する指標を作って、その指標を基にして判断した結果、問題がある大学に対してはイエローゾーンとし、イエローゾーンの場合は私学事業団が指導・助言していく。そして、どうしても改善できない時はレッドゾーンとし、文部科学省が改善計画書を提出させ指導をしていく。その結果、再生できないことがほぼ確定したときは募集停止となり、経営者の交代といった行政指導を行う必要があるのではないかというような内容が九月に出された中間まとめになっています。
実際どのような指標を使って経営状況の判断をしたらよいか、どこまで私学の自主性と行政のかかわり合いが必要かというようなことは今後の課題になっています。
つまり、経営困難は法令違反ではありませんから、現在のところ経営が困難になったからといって行政が関与してくる法律的な根拠はありません。これも、今後の問題になると思います。
瀧澤 学校法人を取り巻く状況については、株式会社の参入に加えて、国立大学の法人化問題も大きな課題となっています。これについて黒田先生。
黒田 国立大学が平成十六年に独立行政法人の特例としての国立大学法人に移行され、組織運営上は私学より強固なトップダウンシステムが構築されたように思われます。しかし、ここで問題なのは、法人化といえども国立大学に変わりがないということですが、国立大学法人に携わるリーダーの人達は、法人になったのだから、何をやってもいいんだ。もっと自由な発想で私学の真似をしようと国立大学の本分を捨てるような改革に乗り出していることです。
このことは、国家にとって大変危険であり、国力の衰退を招くことになると思います。
現状において、たとえ後継者が少数であっても、国家として維持しなければならない学問分野があり、国立大学にはこれまで国力をあげて莫大な財政を投下し維持してきた学術研究があります。このことを無視して、ただ、現状の国家財政から経済理論だけで、改革だ、改革だと叫んでいては、国を滅ぼすことになってしまいます。
国立大学が、国立大学法人法で運営されるようになった意義を深く理解すべきで、ただ単に所属する教職員の自由度を上げただけではなく、ここに、国家戦略としての学問、教育、学術研究があることを理解すべきです。
国立大学法人の評価においても、ただ一律に、同一のものさしで評価することをやめ、それぞれの大学の過去の蓄積や業績を実証し、分野の特化を図るべきでしょう。全国で同様な店を開き、採算の悪い分野を切り捨てるごとき手法は取るべきではないと思います。そのなかで、私立大学に移せる分野は、移す努力も必要でしょう。