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平成18年11月 第2254号(11月22日)

大学がUSRに取り組むために −6− 

新日本監査法人公認会計士 植草茂樹

 「USR(University Social Responsibility:大学の社会的責任)」に対する関心が高まっている。この現状を踏まえ、本紙では、本年一月にUSR研究会の渡邊 徹氏(日本大学)の「大学の社会的責任―USR」と題した連載を掲載した。このたびは、同研究会の事務局を運営する新日本監査法人の植草茂樹氏に、実際にUSRに取り組み始めるにあたり、具体的に何をしなければならないのか、そのポイントについて月に一度の連載で執筆頂く。
 《第3回USRフォーラムの開催》
 今年度も一昨年、昨年に引き続き、十二月十九日(火)、芝浦工業大学にてUSR研究会主催の第三回USRフォーラムが開催される。今年度の開催テーマは「社会的責任を果たす大学経営のあり方とは―大学の不祥事の事例分析と説明責任の具体的提言―」としており、過去のUSRに関する研究をさらに具体策まで踏み込んだ提言を行うことを予定している。
 最近では大学関係者の中にも「USR」が認知されつつある。先日の国立大学関係者の環境報告書に関するパネルディスカッション(大学等環境安全協議会主催)を拝聴したが、そこでもUSRが議論されていた。国立大学法人の多くは環境配慮促進法により、今年度から環境報告書の作成が義務付けられているが、来年度に向けての課題として、社会性情報を情報としていかに組み込むかという意見が聞かれた。私立大学においても、事業報告書の作成だけでなく、財務情報についてHP等に開示を行えば、補助金算定上有利になるような仕組みも始まっており、情報開示・説明責任を含むUSRの必要性は、私立大学から国立大学法人までを含めて考えなければならないテーマとなった。
 また、今年度は研究に関する不祥事等への対策が国として進められた。文部科学省においては研究活動の不正行為に関する特別委員会、研究費の不正対策検討会が設置され、それぞれ今年度、ガイドラインを作成している。実際、大学は来年度の科学研究費補助金の申請に際し、一定の不正防止の努力を求められているところである。この問題は、科学研究費補助金だけではなく他省庁の補助金も同様であり、補助金制度自体の問題にも関わる。
 過去二年、USRフォーラムの参加者から様々なご意見をいただいた。その多くが、大学の社会的責任の中で「教育・研究」をどのように位置づけるのかについてであった。また、企業の社会的責任(CSR)の議論も、ここ数年間急激に進展しており、ISOにおいてもSR(社会的責任)の規格化が行われているという動きもある。
 USR研究会としても、これらの最新の状況を研究に取り入れ、USRそのものについて概念や定義の再構築に取り組んだ。
 今回のフォーラムでは、上記のような問題意識により、文末のような講演・研究内容を報告する予定である。
 《今年度のUSR研究会の活動》
 USR研究会においては、研究総会に加えて毎年各委員の興味のある分野によって分科会を開いて研究を行っている。年度ごとの研究テーマは、表の通りである。
 一昨年・昨年と各マネジメント手法についての概念を整理してきたが、具体的にどうしたらよいかという声が強くなったため、今年度は、不正・不祥事に対してどう対応するか、USRの報告書をどのように開示するか、財務情報の開示を実現するための会計手法は何かについて研究を行った。また、昨年までの研究では、「教育・研究」に関する位置付けが不明確である。USRはCSRの模倣だけではいけないといった意見が出た。これを踏まえ、あくまでも「大学」独自の社会的責任のあり方を研究する意味でUSRの本質を議論することとした。
 @USRの本質に関する研究
 USRについて研究を始めて三年目となり、今一度その本質について研究を行うことにした。USRとは何なのか、CSRとは本質的に何が異なるのか、そもそも大学には社会からどのような要請があるのか、本来大学が果たすべき社会的責任は何かについて、概念を整理し公表する。
 そもそもUSRとは、本来、大学に求められる社会からの要請を取り入れ、教育・研究・管理等の諸活動において社会的責任を果たすことが求められる。そこで本研究会においては、大学にはどのような社会からの要請があり、社会的責任が求められるかについて、ステークホルダーごとに整理を行った。その結果、様々な社会的要請があり、大学の教育・研究等の諸活動においてそれらに応えることを、求められていることがわかった。その社会的要請とUSRとの関係を整理すると共に、USRの定義の再構築を行った。
 A不正・不祥事の事例研究
 過去二年の研究では、大学には様々なリスクがあり、大学におけるリスクマネジメントやコンプライアンスの必要性を検討してきた。今年度は、大学で起こった不祥事の事例研究や会員大学を対象としたアンケート調査の分析を通して、不祥事にどう対処するのか、また不祥事を未然に予防するためにはどのような取組みが有効であるかなど、具体的な事項について報告する。
 この研究においては、教育・研究・管理その他に関する不正・不祥事を具体的なテーマに分けて研究を行い、それぞれの大学の不正・不祥事への対応事例やアンケート調査の分析を基に研究を行っている。特に、今年度は大学を巡る不祥事が大きく報道されているが、これらの問題に対しても最近の動向を踏まえている。
 BUSR報告書の雛型(事例集)研究
 大学は今、情報公開・説明責任が求められる時代である。私立大学では事業報告書により情報開示が行われているが、国立大学法人の環境報告書を見ても、さらなる情報開示のあり方の検討が必要である。USR研究会では、過去の研究で大学が社会的責任を果たすための「USR報告書」の必要性を検討してきたが、今年度は、研究会で作成した雛型(事例集)をもとに研究報告を行う。
 この研究においては、雛形を作成するために多くの大学のHPの項目から優良と思われる事例や特徴のある事例を抽出して議論を行ってきた。USR報告書のあり方は単一ではないものの、各大学の情報開示の参考となり、提言の一つとなり得るだろう。
 大学の情報開示のあり方を、今一度検討するきっかけにしていただきたい。
 CUSRを意識した情報開示と会計管理手法研究
 説明責任を果たせる情報開示として、今後、財務情報と非財務情報を統合して説明することが必要である。ステークホルダーに財務・非財務の情報開示をするためには、どのような大学の会計的手法が必要かを検討する必要がある。例えば、学納金に対する説明責任を果たすためには、何らかの手法が必要となる。今年度は、説明責任を果たすことが可能となる会計的手法についての研究報告を行う。
 大学の財務情報の重要性は年々増している。よって、大学の決算書類をただ単にHPに掲載するだけではなく、大学の財政公開の視点が重要となる。特に、一般的なステークホルダーにはわかりにくい学校法人会計をどう説明するかという観点も必要である。また、今後必要になると予想される学費の説明責任を果たすための事例も研究し、真に説明責任を果たすためには新たな会計管理手法が必要であることも指摘する。
 本フォーラムに多数の皆様のご参加をいただき、積極的にご意見をいただけることを願っている。
(つづく)

《第3回USRフォーラム》
 日時:十二月十九日(火)一三:〇〇〜一七:三〇
 ところ:芝浦工業大学豊洲キャンパス
 内容:【基調講演1】桐蔭横浜大コンプライアンス研究センター長郷原信郎氏(文部科学省研究費の不正対策検討会委員)、【基調講演2】文部科学省私学部参事官安藤慶明氏、【研究報告1】「USRを改めて考える」獨協大水野雄二氏、【研究報告2】「大学の不祥事の事例研究」創価大秋谷芳英氏、【研究報告3】「USR報告書の作成に向けて」東洋大笠原喜明氏、【研究報告4】「説明責任が果たせる会計的手法研究」東京農業大舟山亮氏、【研究報告講評】USR研究会会長藤田幸男氏
 参加費:三〇〇〇円
 問い合せ:同フォーラム事務局新日本監査法人学校法人経営管理支援室(〇三―三五〇三―一一三七)詳細はホームページ(http://www.shinnihon.or.jp/seminar_entry/337)を参照のこと。

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