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平成18年11月 第2253号(11月8日)

数学研究にもっと投資を 科技政策研が米調査まとめる 

 日本は数学研究に対する投資が不十分―科学技術政策研究所は、このたび、米国の数学振興政策の考え方と数学研究拠点の状況をまとめた。五月に公表した「忘れられた科学―数学」を踏まえ、米国連邦政府の関係者、数学研究所長、数学研究者などに対してインタビュー調査を行うとともに、日本の数学研究者に対しても意見聴取を行った。その結果は次のとおり。

 同報告書によると、米国連邦政府や数学研究所では、数学を純粋数学・応用数学を含む広範な科学として捉えている。そして、数学のどの領域が将来ブレークスルーを起こすかは予測不可能であるため、米国連邦政府は政策として数学の特定の領域を限定して振興することは危険であると認識している。そのため、数学内の異領域間の交流、純粋数学と応用数学の交流、数学とほかの科学分野の交流を重視している。
 次に、米国連邦政府関係者が、世界の数学研究をどのように認識しているかを次のようにまとめた。
 一九九〇年代より、米国をはじめ世界の多くの国において数学研究所が次々と新設されるなど、数学研究の強化が進展している。米国においても、近年、全米科学財団(NSF)の数学研究予算がNSF予算全体の増加率を超える割合で増加しているように、連邦政府として数学に注力している。特に中国の台頭は著しく、中国政府の数学研究予算は年率二五〜三〇%と急激に増加している。一方で、日本は、数学に対する投資が十分ではなく、一〇〜二〇年ほど前と比較して日本の数学研究は活気を失っているように見える。
 続いて、世界の数学研究拠点について触れている。常勤研究者が主体となる研究拠点と共に、滞在型の数学研究拠点が世界では次々と設立されている。このような拠点においては、数学のテーマや他分野との融合テーマを毎年決定し、これに関する内外の一流研究者を結集して、集中的に研究や議論を行うといった運営形態をとっている。
 日本がこうした研究拠点を整備する場合、構築・運営の重要なポイントは次のとおりである。
 @最も重要なことは、優秀な研究者からの信用を得ることである。高い研究の質を確保することによって、優秀な研究者がそこに行きたいと思うような信用を得る必要がある。
 A数学研究では研究者間の議論が極めて重要であるため、彼らが互いに容易に議論をすることができる環境が整備されていること、数学内の異領域間、純粋数学と応用数学間、数学と他分野における交流機能を有すること、特に応用数学の場合には、産業との強い相互作用も保持することが大切である。
 B研究者の流動性を確保するために、国際性も含めて、多くの訪問研究者が行き来するシステムを構築することが重要である。その際には、研究拠点に来る研究者の旅費を研究拠点が支払うことで、小さな大学の研究者でも訪問できるようにする。
 C行政や研究機関の管理者は、数学の発展や産業への数学の展開には時間を要する場合が多いことに注意すべきである。そして、数学研究者と他分野研究者には、分野間の専門用語の違いなど「異文化間の溝」を乗り越えるための根気と寛容さが求められる。

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