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平成18年11月 第2253号(11月8日)

好きな勉強を学べる大学へ 数学五輪等参加者の進路

 科学技術政策研究所では、科学コンテストやセミナーを効果的に運営するための示唆を得ることを目的の一つとして「日本数学オリンピック」「全国高校化学グランプリ」「数理の翼夏季セミナー」の参加者に対してアンケートを実施し、各コンテスト・セミナーが参加者の進路決定等に及ぼす効果を調べた。去る十月二十日に公表された調査結果の概要は次のとおりである。

 アンケートの対象者は、日本数学オリンピックの予選通過者、全国高校化学グランプリの一次選考通過者、数理の翼夏季セミナーの一回目から昨年までの参加者全員で、回答者の男女比は、各コンテスト・セミナー参加者の男女比とほぼ対応している。年齢構成は、日本数学オリンピックが一四〜三二歳、全国高校化学グランプリが一六〜二五歳であるのに対し、数理の翼夏季セミナーは一五〜五一歳となっている。
 (1)日本数学オリンピック(回収数二九六人、回収率二八・三%)
 日本数学オリンピックの成績優秀者の多くは医学系に進学してしまうと言われてきたが、医学系進学者と理学系(数学)進学者はほぼ同数(医学系二一・二%、理学系(数学)二〇・〇%)であり、しかも成績上位者(国際数学オリンピック出場者)の大半は理学系(数学)に進学している。また、残る約六〇%の大半も理系に進学している。
 現在の職業は数学の知識を活かせる職業であると答えた人は、社会人(九二人)の四七・八%にあたる四四人だった。活かせない職業に就いていると答えた三五人のうち、二三人は「他に、もっとなりたい職業があったから」をその理由としてあげており、そのうちの一一人は医師、六人は民間企業・公務員等の事務従事者だった。
 成績優秀者は、年を追うごとに特定の学校に集中しつつある。当該校関係者の努力は評価できるが、告知によりいっそう力を入れ、幅広い参加者を募ることで大会の裾野をさらに広げる努力が必要と思われる。
 (2)全国高校化学グランプリ(回収数二二三人、回収率六二・三%)
 医学系進学者は全体の一二%あまりで、情報工学以外の工学系、理学系(化学)への進学者が多い。全国高校化学グランプリが進路決定に影響したと答えた人の多くは、理学系(化学・物理学・専攻未定)、情報工学以外の工学系、薬学系に進学している。
 なお、同グランプリの知名度が日本数学オリンピックに比べて低い、選抜合宿に参加できる人数が少ないなどといった意見が見られた。
 (3)数理の翼夏季セミナー(回収数三七三人、回収率四三・七%)
 参加者の理系進学意欲は高く、医学系を別にすると、男性は理学系(数学・物理学)、女性はバイオ系志望者が多い。数理の翼夏季セミナーへの参加が進路選択に影響したとの回答は多く、その進学先は多様な理学系各分野にまたがっている。
 なお、第一線の研究者の話が聞けてよかったとの意見が多く見られた。
 (4)まとめと提言
 各コンテスト・セミナーで共通するのは、大学進学に際して、将来の収入や地位よりも、好きな勉強、数学・理科を利用する学問を優先する率が高いことである。一般に、理数系のコンテストでは参加者の多くが医学系に進学すると考えられているが、今回の結果によれば、理学系(数学・物理学・化学)への進学者数と比べるといずれも三位か四位である。特に、国際数学オリンピック出場者一七人(うち四人は高校在学中)の中で医学系に進学したのは一人だけで、将来は数学の知識を活かした医学研究への従事を希望している。
 各コンテスト・セミナーにおいて交流の機会を増やすことには、その後の勉学意欲を高める効果があるほか、進路選択にあたって好きな勉強を学びやすい大学を選ぶ効果もある。特に、全国大会のコンテスト・セミナーは、いわゆる有名進学校以外において、同じ学校に同好の士が少ないせいで、ともすると孤立しがちな成績優秀な生徒、あるいは「理数オタク」の生徒たちが友情を育む上でも効果がある。
 回答者の間では、半数あまりの人が理系の仕事に対して「収入」「昇進」「忙しさ」「イメージ」の点でネガティブなイメージを抱いている。また、職業でも、必ずしも希望の職種に就いていない人が少なからずいる。それでも理系に進学し、理系の職業に就いていることのメリットや意義を積極的にアピールすることで若い世代に希望を与えると同時に、理系人材を有効的に活用する社会を実現する努力が望まれる。今後は、コンテストの成績優秀者に対する大学推薦入学、入学試験免除などの特典をさらに拡大することで参加者の意欲を高め、ひいては参加者数の増加と裾野の拡大を目指すべきである。

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