平成18年11月 第2252号(11月1日)
■教育・研究充実の研究会開く 主催・財団法人私学研修福祉会
「大学のガバナンスと学校法人」テーマに協議
(財)私学研修福祉会(廣川利男理事長、東京電機大学学園長)主催の第二九回私立大学の教育・研究充実に関する研究会(大学の部)が「大学のガバナンスと学校法人」をテーマに去る十月十六日、十七日の両日、東京・市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷で開催された。同研究会には一六六校の私立大学から、学長・学部長等、学校法人の理事長・常勤理事等二三七名が参加し、「私立大学の定員割れと再生」と題した基調報告やテーマに基づいた講演、意見発表、シンポジウム、グループディスカッションなどが行われた。
今年度の研究会は、四割の私立大学が定員割れという現実、株式会社立大学が全国的に展開されるのでは、という問題、また、新政権の発足に伴ってバウチャー制など諸制度の見直しの流れも想起されることから、各大学のガバナンスの在り方を中心に協議が行われた。
第一日目の開会にあたり廣川理事長は、去る九月下旬に(財)私学研修福祉会の理事長に就任したことの挨拶を述べるとともに、「これまでより一層のご支援、ご協力を賜りますようお願い申しあげます」と挨拶した。
続いて佐伯弘治同研究会運営委員長(国士舘大学理事長、流通経済大学学園長)が研究会の目的について述べた。
次に、清成忠男(学)法政大学学事顧問から「大学のガバナンスと学校法人」と題して講演が行われた。「組織のガバナンスとは、意志決定とチェックの仕組みをきちんと確立しておくこと。重要なのは、自治のためのガバナンスで、自ら努力して自治を守るということ、そして利害関係者に情報を開示すること。事前規制から事後チェックへという流れの中で、個々の組織は、内部のガバナンスに目を向けざるを得なくなった」と解説した。
引き続き、西井泰彦日本私立学校振興・共済事業団私学経営相談センター長から「私立大学の定員割れと再生課題」と題して基調報告が行われた。
同氏は、私立大の入学志願動向、私立大の財政悪化、学校法人の経営困難、学校法人活性化・再生研究会の中間まとめの順に図・表を用いて現状を分析し、私学再生の課題を解説。
入学志願動向では、平成十四年から十八年にかけて入学定員充足率が低下傾向にあり、一一三・九%から一〇七・二%へと悪化していることと、定員割れ大学数も四〇%を超えていることを指摘した。
私立大の財務状況については、帰属収支差額比率がマイナスとなっているものが平成十七年度で五五三校中一六九校(三〇・六%)あること、特に帰属収支差額比率がマイナス二〇%以下に悪化しているものが六四校に上っていることを説明した。併わせて、大学法人の分析では帰属収支差額比率がマイナス二〇%以下が二七法人あるとした上で、この状態が二〜三年継続すると危機的状況に陥ると危機感を強めた。
次に、経営困難法人の困難の段階に応じた対処法、私学団体や私学事業団、文科省の関わり方、さらに、様々なリスクとその対応策を述べた。
休憩をはさんで意見発表に移り、まず、小田一幸東京造形大学理事長が、「弊学における経緯と現況」と題して、同大学の財政悪化の状況と基盤整備への取り組みについて紹介した。
同大学はバブル景気の頃(一九九〇年)に新キャンパスの建設が始まり、バブル景気の破綻とともにぼう大な借金の返済に追われ続けた。収入のほとんどが元金及び利息返済に消え、負債率も大きく、いつ破綻してもおかしくない状況であったという。そこで同氏は、一九九八年に理事長に就任以来、教育研究活動を活性化するために経営目標を明確にし、財政基盤の充実をめざし、多岐にわたる学内改革に着手した。財務状況の開示と経営の透明化をはじめ、理事総数の削減、既得権の放棄、事務局組織の改編と職員数の削減、財務内容の改善、数値目標の設定などである。これまで干渉を避けていた教学部門と管理部門の相互理解を図り、トップダウンの意志決定を貫き、今日、同大学は二十一世紀委員会の下で新たな事業計画を練るなど順調な軌道を確保している。
発表の最後に、同氏は、「上質の教育を安い教育費で行っていくことが夢である」と締めくくった。
二人目の意見発表は飯野正子津田塾大学学長が「大学とガバナンス―津田塾大学を例に」と題して、同大学のガバナンスを中心に紹介した。
同大学では、これまでほとんどのことが教授会で決められ、理事会は意見を述べる程度であった。教授会は大学の運営をも自分たちが行っているという意識の下、やりがいを感じ、大学への帰属意識が強く感じられるなど、理事会としては、教授会の自治を最大限に活かしている。言ってみれば「理事会の役割は『金屏風』としての理事会」ということであるらしい。
今後は、ガバナンスの強化・確立に向け、経営の効率化、公共性・公益性、建学の理念の浸透などに意を注ぎ、例えば、建学の理念などはビジョンとして謳うだけでなく、カリキュラムの中に組み込むなどして、教養的教育を充実させ、人間力をつけるべく管理していきたいと述べた。
第二日目は、シンポジウム「大学のガバナンスと学校法人」をテーマに、佐藤東洋士桜美林大学理事長・学長をコーディネーターに行われた。
一番目は、「大学のガバナンスと学校法人」と題して大坪 檀静岡産業大学学長から、大学は社会から付託された公器であり、大学は誰れのものかを考える必要がある、とした上で「本学は公器性を強く謳っており、大学の理念とミッションを基にすべて透明性を高め、組織とルールで大学運営を行っている」。
二番目に、「大学のガバナンスと学校法人〜関西大学の場合」として、河田悌一関西大学学長から、同大学の概要、中長期戦略構想策定体制、教学のガバナンスについて説明の後、「二年間に行うこととして、学部長を理事に入れ、経済的、財政的な責任を持ってもらうことを考えている。どのような形で学生を育てるのかを考えて、教育、研究を進めていきたい」。
三番目に、「いわゆる三長制(理事長、総長、学長)から二長制へ」として、納谷廣美明治大学学長から総長制廃止の背景として、「本学は古典的な大学経営を考えていたが、学内提示ばかりでは、外部の動きに触れることもできず、もっとスリム化を図ること、学長権限をどうするか、その中で、法人との関係、特に学部教授会との関係はどうか、意志決定の迅速性・明確性に対してきちんとすること」などをそれぞれ述べた。
昼食後には、@教員の人事考課(教育力の評価)と終身雇用制の隘路、A私立大学における理事会と教授会の関係、B私立大学の公共性と理事、監事、評議員の役割について、三つのグループに分かれてのディスカッションが行われて全日程を終了した。