平成18年10月 第2249号(10月11日)
■進化・発展する長岡大学の教育研究
―地域づくり主体としての大学へ― −1−
長岡大学(原 陽一郎学長)は、学校法人中越学園(設置する学校は、高校野球の甲子園全国大会にたびたび新潟県代表として出場している中越高等学校と本学)が設置する大学であり、長岡短期大学の改組転換により、二〇〇一年四月に開学した。同大学は、開学以来七年目を迎え、長岡短大の「地域に開かれ、地域に貢献する大学」の理念を継承した地域連携・共生活動をより重層的に展開するとともに、その地域連携の成果を教育に組み込んだ平成十八年度「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」(現代GP)に選定された「産学融合型専門人材開発プログラム」を全学的に推進している。
一、調査研究で地域貢献
本学の地域貢献・地域連携活動は、前身の長岡短期大学時代からの長い歴史を持つ。長岡短期大学(経済学科、一九七一年設立)は経営情報学科の新設(一九九〇年度)を契機に、「地域に開かれ、地域に貢献する大学」の理念を具体化するため、翌一九九一年十月、新規採用教員を中心にして、付属研究機関として「地域研究センター」を開設した。当時の短大としては先駆的取組であった。
この地域研究センター、略して「地研」(現在でもそう呼んでいる)はめざましい地域貢献・地域連携活動を展開する。地研は、広く地域(経済から生活文化まで)の調査研究を行い、その成果を地域社会と大学教育に環流することにより地域に貢献することを目的に、自主・受託研究、地域情報の収集、講座・セミナー・研究会、コンサルティング、研究年報の刊行の五つを主な事業として展開した。地域におけるシンクタンクをめざしたと言えよう。センター長は学長が兼務し、運営委員会(約一〇名)が運営する。
この一五年間に、自主・共同研究は六本(うち科学研究費研究四本)、受託研究は長岡市・国等から一三本を数える。平成十八年度は、科研費では「災害時の組織とマネジメント」を展開し、経済産業省からは、「若者キャリア育成事業」と「中小企業における“目利き”育成事業」を受託している。これらの調査研究は、いずれも地域(長岡地域から新潟県)のテーマを対象にしつつも、多様な外部研究資金(長岡市等自治体からと文部科学省・経済産業省等の国からの)の確保によって拡大してきた。地方の小規模の単科大学としては、結構、健闘していると言ってよいかもしれない。
二、信頼の地域ネットワーク形成
より重要なのは、これらの調査研究が地域の企業・産業団体・自治体との連携で行われ、成果情報はシンポジウム等により地域に返される、という形で地域ネットワークを形成してきたことである。例えば、今年度の前記科研費研究は後述する中越地震後の「中越防災安全推進機構」活動の一翼を担い、若者キャリア事業は産学官の連携で、目利き事業では中小企業の地域活性化組織である長岡地域活性化協議会(NAZE)との連携で、それぞれ大学と大学教員が地域づくりの一員として参加・貢献する活動を担っている。
こうした地域ネットワークの形成は、講座、セミナー等の人材育成・情報提供・オピニオン活動の着実な実施により拡大・補完されている。経済・経営・地域分野を主とした公開講座・セミナー(通常の公開・実践講座、経営革新セミナー、研究会等)は毎年、あるテーマのシリーズで開催され、一五年間で、一三三講座・セミナー、三九研究会の実績を積み重ねてきた。講師陣は本学教員を中心に外部専門家を加えてそろえるが、講師が企業のコンサルタントに依頼されたり、講演を依頼されたり、望外の効果も生んでいる。ちなみに、今年度は、にいがた産業創造機構(NICO)と連携して、「経営革新・事業計画形成講座」(六回)、「創業・事業計画形成講座」(六回)を開講し、中小企業のソフト人材育成を担う。
さらに力を入れているのが年一回の地研・シンポジウム(十一月開催、参加費は無料)によるオピニオン活動である。
このシンポジウムは、その年々の地域にとっての重要テーマを選び、外部専門家と地域のオピニオン・リーダーを迎えて行い、地域課題の解決方向を示そうとするもの(通算一五回)。昨年は北陸新幹線延伸問題をとりあげ、今年度は「人口減少時代と地域社会の展望」をテーマに開催する予定である。毎回、一五〇名程度の参加を得ている。このシンポジウムは、地域のオピニオン形成に一定の役割を果たしていると自負できそうだ。なお、このシンポジウムにあわせて、当センターの研究年報『地域研究』を毎年、発刊している(通巻一五号)。
以上から、地研の活動は、シンクタンク機能の拡大・充実を図りつつ、本学と教員を地域貢献から地域づくり主体へと浮上させつつあると言えよう。その鍵は、信頼の地域ネットワークの形成だ(これを担う一〇名余りの教員は大変忙しいが)。
三、生涯学習活動の継続的展開
本学の継続的な地域貢献活動としては、もう一つ、生涯学習センターの活動をあげなくてはならない。生涯学習センターは、それまで細々と行われていた市民公開講座の経験を踏まえ、本格的に「社会人の生涯学習」を推進する機関として、一九九四年にスタートした。地研と同様、センター長は学長兼務で、運営委員会(約一〇名)が運営する。
当センターは、社会人の科目等履修生受入れを担いながら(一二年間に約二〇〇名の履修生)、センターの自主公開講座と自治体との連携公開講座を展開してきた(講師は本学教員が基本)。自主公開講座は、毎年五コース程度(パソコン、英会話、ジェンダー、気功等)を開講、のべ一五〇〇名(一二年間)の市民が受講した。連携公開講座は、長岡市等自治体との連携が主であったが、数年前から、「にいがた連携講座」(新潟県)と「ながおか市民大学」(長岡市内三大学・一高専)に集約され、毎年一〇コース程度(韓国語、中国語、会計、金融、仕事、子育て、古文書等)を開講、のべ二三〇〇名(一二年間)の市民が受講している。平均すると、二〇名弱の市民が若い学生に混じって昼間の授業に参加し、夜間の公開講座には毎月三〇名程度の市民が参加していることになる。受講者のなかには一般市民とともに企業人も含まれ、地域ネットワークづくりに寄与しているが、今後は市民の多様な学習ニーズに対応したより立体的講座へと組み立て直す必要があろう。なお、地研と同様、毎年度末に研究年報『研究実践報告』を発刊している(通巻九号)。
四、地域づくり主体としての大学へ
今年八月、オール長岡の産学官連携で組織される「中越防災安全推進機構」が設立され、その柱の事業の一つである《中越市民防災安全大学》が始まった。二年前に勃発した新潟県中越大地震(二〇〇四年十月二十三日)の教訓・経験を蓄積・整理するとともに、将来に向けた地域の防災安全対策(防災安全研究、防災安全人材育成、防災安全ビジネス)を推進する運動組織である。大きな被害を被った本学も積極的に参加、運営組織を担い、安全大学の講師も務めている。活動はこれから本格化するが、そのことは、地研、学習センターも含めて、地域づくり主体としての本学の次のステージへの飛躍を迫るものとなろう。
(つづく)