平成18年10月 第2248号(10月4日)
■プロジェクト大学発ベンチャー《第6回》
四国大学 (上)ベンチャーから見た大学
LEDで新時代の照明創出 みの電子産業株式会社
産学連携の目玉の一つである「大学発ベンチャー」は、平成十七年三月末で一〇〇〇社以上が創出されている(経済産業省調べ)。しかしながら、知的財産や利益相反、経営者の資質、市場ニーズにマッチしているのかなど、課題は山積みとなっている。本欄では数回にわたり、大学発ベンチャーを紹介する。各大学の「上」でベンチャーから見た大学、「下」で大学から見たベンチャーについてそれぞれの立場から責任者に執筆していただく。
(1) 創業の理念・社会的ニーズ
みの電子産業(株)は、安全と安心をテーマに、電波や赤外線センサを応用した産業機器の開発と製造販売において、これまで数々のアイデアを形にしてきた。発想の原点は社会的ニーズにあり、漁業、養鶏業、運輸業、病院、自治体などの様々な分野における団体や企業から、個々に抱える課題解決の相談が持ち掛けられ、その手段としてアナログ・デジタル信号処理技術とセンサ・光応用技術を用いた商品化に繋がるプロトタイプの開発を手掛けてきた。例えば、遠洋航海中に水中に転落する漁船乗組員の発見、近海で転落したときの船の自動停止と救助信号の自動発信、養殖生簀の防犯や生簀間を移動する稚魚のカウント、停電による機器停止の無人監視、徘徊老人の感知通報など、新しい発想で考案した特殊機器を製作し実用化してきた。そして近年は、LED(発光ダイオード)を応用した製品作りを手掛けるようになり、安全・安心に省エネ・エコロジーを加えた新時代の照明を創出する努力を継続している。
(2) コア技術・ビジネスモデル・強み
当社はアナログにもデジタルにも精通した回路設計技術と高周波信号処理技術を有し、電波や赤外線センサ応用スイッチングに加え、LED点灯制御に卓越した技術力を有する。これは、親会社であるみの電子パーツ(株)が永年にわたって無線通信機器の製造、オーディオ・TV受像機等電子機器の修理事業等を行ってきた経験に基づくノウハウを蓄積しており、当社はこれらの豊富な知識と技術を継承した上に、半導体物性や光制御の知識と技術を加えた少数精鋭の集団と言える。社会的ニーズに対し、どこに課題があり、どう進めれば効果的で、そのどの部分に新しい技術を必要とするのか、適確かつ迅速に判断するところに当社山本耕司取締役顧問(四国大学経営情報学部教授)の役割があり、さらにその新技術のアイデアを錬りあい、社内実験を繰り返してデータを集積し、知的財産として出願した上でこれらを分り易く説明して商品価値を高める役割も担っている。同時に実用的なレベルの推定にシミュレーションを行い、効率的な部品選択や仕様決定を行う。このように、大学を軸にした課題解決のためのアイデアと、企業価値であるそれらを実現する技術を有機的に結びつけ、社会的ニーズに着実に応え得ることのできる製品を提供することが当社の特徴である。
また、これらと並行してメディアイメージという名称でインターネットサービスを行っている。これは、ブロードバンドを活用した動画のストリーミング配信事業である。ストリーミングサーバは誰でも簡単に立てられ、ネットワークさえ通じていれば運用は可能であるが、それだけに差別化して成功していくことは難しい。当社は国内に二三社しかない米MS社の公式サイト資格を得ており、セキュリティ、割当容量、帯域、価格において他社より優位にあるため、世界中から利用され、その顧客数も日々増えている。この事業の成長率は著しく、現在当社の収入源となっており、商品開発の資金源でもある。
(3) 現在までの成果・今後の戦略
紙面の都合により、LED応用製品に関する成果について主に説明する。
徳島県では東南海地震の発生を想定して、国土交通省や県、市町村における災害対策が急がれている。当社では白色LEDを、ソーラー充電バッテリーとキャパシタ(電気二重層)を併用したコンパクト電源に繋ぎ、五日間不日照でも明るさを確保できる防犯・防災灯を開発した。これは、他社に性能で勝る上に価格が五分の一で、大手通信事業者が総販売代理店となり、徳島県南部や福岡県で既に数十台を設置し、災害時の働きが期待されている。
また、鉄道の保線は電車の走行しない夜間に行われるが、保線作業用照明は消費電力が大きく、電源には発電機が用いられている。しかし、騒音のため民家に近い場所では保線が十分に行えず、トンネル内では排気ガスで連続四時間以上の作業ができない上に、高騰する燃料費にも苦慮している。当社はハイパワー白色LEDを光源に、バッテリー駆動の作業灯を開発し、無騒音、無公害での長時間作業を可能とした。この作業灯は大手運輸事業者が総販売代理店となり、鉄道だけでなく道路作業灯としても利用を図ろうとしている。
一方、流通倉庫はかなりの面積に相当数の蛍光灯や水銀灯照明を、一日に一五時間から二四時間連続点灯している箇所が多い。このための電気料金は膨大で、省エネが課題となっている。そこで、白色LEDを必要なところのみを追尾的に点灯させる照明システムを開発した。これにより圧倒的な省エネを実現し、CO2削減にも寄与することになる。この倉庫照明は某大手運輸業者の依頼を受けて製作し、現在一号機が大阪で稼働している。
また、揮発性、可燃性ガスの製造プラントや塗装工場、花火工場など、爆発が懸念されるところの照明装置は、導電部を特殊加工または特殊容器に密閉する必要がある。このような防爆型照明は、その用途に応じた規格が定められている。しかし、多くは構造が複雑で価格が高いことに加え、メンテナンスにも費用がかかる問題があった。そこで、LEDを、防爆型照明の光源に使用し、安価でメンテナンスフリーな照明装置を開発している。
冷蔵・冷凍庫内の照明は、この照明自体が発熱しないことが重要であり、また作業者が照明を携帯する場合には、常温から極低温への急激な温度変化、またはその逆の移動があり、そのような場面でも明るさを一定に保つことが求められる。通常照明は、温度が下がると暗くなり、マイナス三〇度を下回ると放電管は使えない。このように急激に温度変化する環境下で、明るさを一定に保つLED照明装置を開発し、現在製品化に向けた準備をしている。
(4) 大学との関係における課題
当社は親会社であるみの電子パーツと四国大学山本耕司教授との間で始めた電波計数器製作に端を発し、その後多くの共同研究と開発事業の展開を経て、これら新規産業を、独立して実現する新たな会社としてスタートさせたものである。四国大学には工科系学部がなく、装置の開発に有効な機材もラボもないが、山本教授をはじめ工学部出身者は意外と多い。その発想の原点はものづくりであり、創意工夫と便利さの追求にある。しかしながら、このような開発は、四国大学の有する学部専門分野からは離れているため、携わる教授は複数の業務に時間を細分しながら多忙を極める結果となっている。昼間は大学の仕事を行い、会社の仕事はできないため、開発活動は夜になって大学から離れて行うのが現状のようである。もっとも会社も昼間は日常業務を行い、開発作業や打合せは夜から朝にかけての静かな時間帯であるため、慢性的不眠不休ということを除けば順調な活動が継続できていることはありがたい。
四国大学では二年前に情報メディア館を建て、そこに地域共同プロジェクト推進室という一室を置いた。これは地元企業等と大学が共同で事業を実施する拠点と成すことを想定しているが、特段の予算や施設、学生や職員などの業務遂行を援助する体制は全くない。しかし、この部屋ができたことは、地域との共同事業の自由な遂行を擁護されていると受け取り、ビジネスの成功と新たな製品開発にいっそう夢を膨らませている。(みの電子産業株式会社見野健司社長)