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平成18年10月 第2248号(10月4日)

私学の経営革新と再生に向けて 私学事業団がセミナー開く

 日本私立学校振興・共済事業団(鳥居泰彦理事長)は、去る九月二十七日(水)、東京・丸の内の東京国際フォーラムにおいて、「私立学校の経営革新と再生に向けて」と題する第三回同事業団セミナーを開催した。
  平成十七年五月に文部科学省が取りまとめた「経営困難な学校法人への対応方針について」を受けて、同事業団では、学校法人の主体的な改善努力の促進方策や指導・助言の在り方等について具体的に検討するため、同年十月に学校法人活性化・再生研究会(清成忠男座長)を設置し、学校法人の活性化及び再生に向けた方策の議論を行ってきた。そして、今年七月、これまでの議論を中間まとめとして「私立学校の経営革新と経営困難・破綻への対応」を取りまとめ公表した。
  このたびのセミナーは、同中間まとめの具体的な検討を深めるとともに、より一層の改革と活性化への奮起を提言し、経営革新と再生への機運を高めることを目的として開催された。
  はじめに、鳥居理事長が開会の挨拶に立ち、「教育再生を重要課題とする新政権に、今日のセミナーの内容を真剣に考えていただき、教育の過半を担う私学への支援をお願いしたい」との意向を示した上で「規制緩和を背景にした競争的環境下では、経済面でみると質は高まるが、教育面でみると必ずしも質を高めることにならない。多くの場合はその逆である。そして競争の結果、現実に大学法人の約二八%、短期大学法人の約三〇%が赤字となるなど、経営破綻の恐れも出てきている。しかし、多様な教育を担当し、国立大学ほどの国からの助成が多くない中で、教育、研究を展開し、時に大量の学生や教職員等を受入れ、我が国の高等教育に多大な役割を果たしてきた私立大学等を支えなければならない」などとの思いを述べた。併せて、私学の厳しい状況は、同事業団の資金運用にも支障をきたしつつあることを危惧した。
  次に、文部科学省高等教育局の山中伸一私学部長は「一八歳人口は一二〇万人ほどで落ちつく。しかし、地方では二極化によってなかなか安定しないところもあるが、地方にも目配りをするとともに、高等教育の七四%を担う私学が安心して教育・研究に邁進できるよう支援していきたい」と挨拶した。
  講演に移り、リクルート『カレッジマネジメント』の中津井泉編集長が「求められる私立学校の経営革新」(私立大学への応援談)と題し、厳しい状況下ではあるが、(1)どの大学にもチャンスはある、(2)世の中は大学に期待している、との趣旨に沿った高校生アンケートの結果等を示し、当日参加の私立学校経営者たちを励ました。
  (1)では、例えば関東地区の高校生約三万人に対して行った『大学の知名度』調査(対象・同地区の二七五大学)によると、一位の青山学院大学ですら六八・五%(男子の六一・三%、女子の七四・五%)の知名度であり、三割強の高校生にとっての知名度は低い。したがって、多くの高校生によく知られていない大学も意外と多いことから、大学名をPRする有効な手立てを考えることも重要であるとした。また、大学に対するイメージ調査で、例えば、大学全体の中で『専門分野を深く学べる』イメージの大学としては、一位・多摩美術大学、二位・北里大学、三位・東京医科歯科大学の順になっていることを示し、各大学の意図どおりに高校生が受け止めているかどうかにも注目する必要があると語った。高校生は、福祉、医学、体育、芸術等の各分野に対するダイレクトなイメージを持っていることから、これまで以上に、大学の個性・強み・特徴をストレートに表現し訴えるような施策を講じる必要がありそうだ。
  (2)では、進学先を選ぶ条件は「つきたい仕事や目指したい職業から」が最も多く、次に「学びたい学問・分野から」、「将来どんな生活が送れそうか」などの順になっており、就職に有利、資格取得に有利などが重視される。一方、企業が大学新卒者に求めるものは一位・チャレンジ精神、二位・創造性、三位・バイタリティ、四位・積極性、五位・柔軟性などであり、世の中に期待される人材育成をして欲しいと結んだ。
  その後、同事業団の澤田裕理事から、先の「中間まとめ」の要点が解説され、パネルディスカッションに移った。パネリストは、清成忠男学校法人活性化・再生研究会座長・法政大学学事顧問、黒田壽二金沢工業大学学園長・総長、佐藤弘毅目白学園理事長・目白大学学長、影山光太郎弁護士^n・弁理士の四氏、司会は同事業団の西井泰彦私学経営相談センター長が務めた。
  清成氏は、私学を取り巻く状況を踏まえての経営革新の在り方、経営困難克服と破綻処理、私立大学の存在意義についてなど、重要な検討課題をあげた。
  影山氏は、学校法人再建の手続きについて、法的手続(破産法、民事再生法)、私的整理に分けて具体的に解説した。その上で、いわゆるイエロー、レッドゾーンの大学等に対して、例えば同事業団から教学・運営経験者とか弁護士、公認会計士等のアドバイザーを派遣できるようになればよいのではないかと語った。
  佐藤氏は、私学の厳しい状況を具体的な数字をもとに解説。平成十八年度の国立大学入学定員充足率が一〇七・九%であり、私立大学の一〇七・二%を超えていることを示し、もはや国立大学は“大型草食動物から牙をむいたライオン”に変身していると例えるなど、小規模大学を中心に経営悪化の要因を語った。
  最後に、黒田氏は、収容定足充足率と帰属収支比率との関係を示すとともに、PDCA(Plan,Do,Check,Action)サイクルによる全学的な自己点検・評価を実践し、全学的な共通認識をもつことが必要であり、それらの結果を社会に公開して理解してもらうことが最重要であると強調した。そして、『チャンスは準備された心に味方する』とのパスツールの言葉で結んだ。
  四氏の発表の後、司会者から具体的な課題が投げかけられるなど、パネリストとの質疑応答が行われてセミナーは終了した。

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