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アルカディア学報

No.99

第三者評価  課題に早急な対応を―第14回公開研究会の議論から

日本経済新聞社編集委員  横山 晋一郎

 学校教育法が改正された。大学は、一定期間ごとに文部科学大臣の認証を受けた認証評価機関による評価(「認証評価」)を義務づけられ、これまで以上に社会に厳しい評価の目にさらされることになる。
 だが、大学人の間に、第三者評価の意義はどれほど浸透しているのだろうか。何のために第三者評価を行うのか、何を目指すのか、あるいは、そもそも第三者評価というものは国が義務づけるべきものなのかと言ったことまで含めた根本的な議論がなされ、自らの問題として捉えている大学人がどれだけいるのだろうかと、疑問に思うこともある。
 取材で話を向けても、「これからは第三者評価で社会の目が厳しくなる」とか「評価は時代の流れだから、やるしかない」などと受け身の言葉しか返ってこないことが少なくない。
 そんなことを考えていたら、私学高等教育研究所が11月18日、第14回公開研究会や「私学評価システムに関する基本的な考え方の要旨」というレポートを公表した。第三者評価という社会的要請に、私立大学としてどう応えていくかという一つの回答である。興味深く読ませて頂いた。
 レポートは次のような章立てから成っている。
 ①評価の概念の転換―受身的な評定から建設的な自己研究・自己診断へ
 ②私学の特性に適合した固有の評価システムの必要性
 ③大学による「自己研究・診断」+新設の第三者機関による評価との組み合わせ
 ④可能なかぎり定性的評価を重視する
 ⑤中央規制型基準から自己開発型基準へ
 ⑥重視する機能に応じた評価モデルを通じて評価する
 ⑦学習者の意見を反映した自己研究・診断を実施する
 ⑧新設の第三者評価機関の性格の骨子
 第1項では、「大学評価とは評定や格付けを一方的に受けるべきものではない。設置目的達成のために自律的・自主的な自己研究・診断を通じ、質の向上・改善を実現する自律的で建設的な手段」と明快に位置づけた上で、「受身的な評定から、建設的かつ自己開発的な営みへ評価の観念を転換する必要がある」と、評価に対する大学の意識改革を強く求めている。
 第2項では、「一元的な評価システムや国公私共通の評価基準となっている既存の評価機関では、多様化した私学の実態に必ずしも適合しない」として、私学の特性に適合した固有の評価システムの必要性を訴えている。
 第3項では、評価は、大学による自律的自己診断と第三者機関による社会的評価との組み合わせで行うとしている。
 さらに第4項では、質的な評価の重要性を説き、第5項では、大学の自由な発想や革新を奨励するため、評価基準や項目は、簡素で大綱的なものにとどめるべきだと述べている。
 興味深いのは、第6項だ。大学は様々な機能を持つ複合的組織体であり、個々の大学がどの機能を重点とした評価を希望するかで、異なる評価基準や方法を選べると指摘している。
 選択肢の具体例として示されたのは、(a)統合機能型評価モデル(教育、研究、サービスの統合的機関としての大学)、(b)教育機能型評価モデル(教育機関としての大学)、(c)研究機能型評価モデル(研究機関としての大学)、(d)社会サービス型評価モデル(社会との連携・応用・サービス機関としての大学)の4モデルだった。
 これはある意味での「種別化」と見ることができる。第三者評価を受ける際に、大学自身がモデル分けを選択するように国が言い出したならば大騒動になるだろう。しかし、大学側が自主的に取り組むというなら話は異なる。これだけ大学が増え多様化している以上、大学の種別化は避けて通れない。だが、国が政策としてそれを進めるべきではないと思うからだ。個々の大学の反応が興味深い。
 第7項では、自己研究・診断に学生の評価を反映させることを求めている。
 第8項では、新たに設置する第三者機関、「高等教育水準向上協会(向上協)」(仮称)のあり方について触れている。
 向上協は、独立した非営利の法人格をもつ、設立母体とは別個の組織とし、評価事業の方針や判定にあたる委員会には、高等教育界以外の有識者・団体の参加・協力を得る。
 第三者評価の申請は各大学の自発的意志で、5年から10年ごとに評価する。評価結果に対する異議申し立ての機会も設ける。
 全体として感じるのは、一元的評価システムを排して私学の特性に適合した私学固有の評価システムを作ろう、大学の質の維持・向上は大学自らの手でやるべきで、そのためには第三者評価による質の保証こそが必要だという、強い意志の表明である。
 一方で、レポートには歯切れの悪さも目立つ。第八項にはいくつもの重要な問題が、今後の検討課題として残された。
 国の認証を得る「認証評価機関」の申請をするかどうかは、設立母体の慎重な審議を経て決めることになっているし、評価判定についても、質の段階的評定を行うのか、基準に適合しているかどうかの適否を示すのか、両者を組み合わせた評価にするのか、今後の検討課題とされた。評価結果は公表するとしているが、具体的な公表の方法や範囲も今後の検討にゆだねた。
 いずれも、第三者評価機関としての性格を左右する重要課題ばかりである。認証評価機関にならなければ、向上協の評価を受けても、改正学校教育法で義務づけられた第三者評価を受けたことにはならない。本来の第三者評価の在り方論から見れば問題ないし、それはそれで一つの見識だと思うが、改正法が成立したこの時期に、どっちつかずというのはあまりにも中途半端ではないか。
 評価の反映方法についても、段階評価か適格認定かという議論が極めて難しいテーマというのは分かるが、だからこそ一定の方向性を出して欲しかった。
 しかも、評価結果の公表の仕方が曖昧なままでは、大学側の「やる気」を問われかねない。「私学の特性に適合した私学固有の評価システム」は、一歩間違えると、「私学に都合の良いお手盛り式の評価システム」になりかねない。社会に信頼される第三者評価機関でなければ、大学の質は保証出来ない。社会に信頼されるには、公平性、客観性、専門性、そして何より公開性が求められるのは当然である。
 義務化されるとはいうものの、現在、国の認証を受けた第三者評価機関として機能しそうなのは、大学評価・学位授与機構と、大学基準協会の二機関のみだ。
 大学評価・学位授与機構は、法人化後の国立大学の第三者評価が中心で、私立には敷居が高そうだし、長い歴史を持つ大学基準協会でさえも国公私全てを対象としており、必ずしも私学の特性に適合した評価システムとは言い難い面もある。この2機関だけでは、600数十もの大学の第三者評価を行うには、物理的に困難なのも明らかで、私学自らが責任を持って第三者評価機関を作る意義は大きい。レポートは共鳴する部分も多いだけに、『積み残した課題』に対して、関係者は早急に回答を出して欲しい。
 私大が、可能性と同時に危うさも含めた第三者評価義務化の意味を十分に理解・認識し、レポートの言う「建設的かつ自己開発的な営み」に評価の観念を転換出来るのであれば、課題の解決は決して難しいことではない。