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アルカディア学報

No.89

病院評価について
(財)日本医療機能評価機構を訪問

私学高等教育研究所主任  伊藤 敏弘

 去る8月5日に「大学の質の保証に係る新たなシステムの構築について」の中央教育審議会答申が出され、大学の質を保証するための第三者評価制度が原則的に義務付けられる方針が打ち出された。そのような中で私立大学にあっては「私学の特性を考慮した大学評価のあり方」が急務であり、私学高等教育研究所では、かねてから諸外国の大学評価制度はもとより大学以外の評価機関についても研究を重ねてきた。
 先般、病院の第三者評価機関である財団法人日本医療機能評価機構を訪問して、その関係者に病院評価についてインタビューすることができた。同機構の設立や評価方法等については大学の評価に参考になる点が多くあり、今回は病院の第三者評価機関の概要、評価方法等について紹介する。

〈財団法人日本医療機能評価機構〉
 日本医療機能評価機構は、1995年に厚生省(当時)と日本医師会等の団体が中心となって立ち上げられ、「国民の医療に対する信頼を揺るぎないものとし、その質の一層の向上を図るために、病院をはじめとする医療機関の機能を学術的観点から中立的な立場で評価し、その結果明らかとなった問題点の改善を支援する」ことを趣旨として設立された。現在は、東京の日本橋に事務所を設けて約30人の事務局スタッフで運営されている。基本財産は、約3億円で、厚生省(当時)と日本医師会およびその他医療関連団体から拠出された。
 設立当初の2年間は、基準(スタンダード)の開発、サーベイヤー(評価調査者)の養成、システムの構築等を目的とした運用調査を実施し、実際には1997年から正式に評価事業を開始した。
 病院の第三者評価は義務付けられておらず任意で申請しているため、設立当初は、受審申請病院が少なく運営が困難な状況にあった。しかし、社会の流れや患者の意識が次第に高まり、昨今では多くの病院が申請するようになり、事業活動も順調に進められている。
 全国に病院は約9200あるが、この5年間で約1300病院(約14%)から評価の申請があり、711の病院が認定されている(平成14年7月15日現在)。昨年1年間に、評価を行った病院数は245で、今年は400病院を超える予定。受審申請の増えた主な理由としては、社会的な認知の増大、評価機構が行う普及促進事業の成果、口コミ、サーベイヤーの影響、上部団体からの影響、補助金関係などさまざまな要因が考えられるが、今年から病院の主たる収入である診療報酬の施設基準(平成14年度に新設された緩和ケア診療加算など)として機構の認定が必要となったのが影響したことは事実であろう。
 同機構の主な財源は、評価料収入である。国からの補助金も受けているが、それはサーベイヤーの養成費用に充てており、いわば間接的補助である。国から助成金を受け取ることによって、国から機構の事業内容やスタンダードについて意見を言われることはない。厚生労働省医政局所管の公益法人なので、当然ながら形式上、同省に対して事業計画や決算を提出する義務はあるが、評価体制や項目に関する政府からの介入は全くないのが現状である。

〈評価手順、方法について〉
 評価項目は、多くの専攻研究成果やアメリカのJCAHO(Joint Commission on Accreditation of Healthcare Oganizations)のスタンダードを参考にしながら独自に開発されている。
 評価手順としては、まず①病院機能評価受審の申込みをした病院を対象に「受審病院説明会」、②書面審査、③訪問審査、④審査結果報告書(案)に基づいて認定/留保を評価委員会が承認、の順で行われる。
 書面審査は、「病院機能の現況調査」と「自己評価調査」から構成されている。そのうちの「自己評価調査」は、訪問審査時に適用されるのと同一の評価項目に対して病院の責任者が回答する形式をとっている。
 訪問審査は、病院機能を客観的に評価・判定する手法の教育研修を受け評価機構から委嘱された複数のサーベイヤーが、病院を訪問して「訪問審査調査票」に基づき所定の項目について審査する。サーベイヤーは、4名または7名のグループで構成される。その数は、病床区分および病床数によって設定される「審査体制区分」による。
 同機構のサーベイヤーは、全員非常勤で、現在、579名が登録されている。評価実施時には、サーベイヤーに対して謝金を払っている。登録者には、全員、実地調査可能日(カレンダー)を連絡してもらうことになっている。基本的には評価を受ける病院が希望する日とこのカレンダーをマッチングさせ、実際の訪問調査者を選定している。しかし、中立性・公平性を保つために同県および受審病院の関係者は選考からはずしている。
 サーベイヤーチームは、受審病院の規模・性格などとサーベイヤーの経験などを総合的に勘案して編成する。新任のサーベイヤーがOJT(実地研修)として通常のサーベイヤーチームに加わる場合もある。サーベイヤーには厚生労働省の関係者は入っていない。
 訪問審査当日は、まず、病院の基本的事項や全般的問題についてサーベイヤー全員が当該病院の管理者等との面接を行い、その後それぞれの専門領域についての面接と各部署の訪問審査を行う。
 具体的には、6つの領域(①病院組織の運営と地域における役割、②患者の権利と安全の確保、③療養環境と患者サービス、④診療の質の確保、⑤看護の適切な提供、⑥病院運営管理の合理性)の大・中・小項目のスタンダードにそって評価判定を行う。手順としてはまず小項目を3段階評価し、それらを総合的に勘案して中項目を5段階評価している。病床規模がもっとも大きい区分では小項目数が577項目、中項目が178項目となっている。訪問審査終了時に、サーベイヤーチームのリーダーが訪問審査結果の概要について講評している。
 訪問後に、サーベイヤーは合議のための会議を開き、各自の評価結果を持ち寄りさらに検討される。最終的には、サーベイヤーのリーダーがその検討結果を踏まえて「審査結果報告書案」を作成し、評価機構に提出する。
 訪問調査は病床規模により1日半から2日半かけて行われる。実地調査日の2週間前に関係書類が送られ事前に目を通してもらっている。また、調査2週間後には、報告書を提出してもらうようお願いをしている。よって、実際にサーベイヤーは、その評価のために約1ヵ月間関わることになる。
 評価機構は、提出された報告書案を点検・確認し「評価部会」に諮る。「評価部会」と「特別審査員会議」での詳細な検討を経て、最終的には、「評価委員会」において審査結果が承認される。認定の有効期間は5年間。継続的に5年後に改めて申請して認定を受ける必要がある。
 評価結果は、認定を受けた病院の名称・所在地・電話番号・認定表記をインターネット等で公開している。今年の9月から認定を受けた病院の承諾を得られれば、覚書を交わし、評価結果の内容(中項目評点と総括文)を公表することにした。
 認定されなかった病院については、「留保」という形で改善要望を踏まえて1年以内に再審査の申込みができる仕組みとなっている。
 評価が成功するかどうかは、しっかりした教育を受けたサーベイヤーの有無がカギとなる。サーベイヤーの養成は、毎年50~100名に対して5日間の初任者研修を行っている。サーベイヤーの応募資格は、病院勤務者の場合、①病院長・副院長経験5年以上、②看護部長経験5年以上、③事務部長経験7年以上、またはこれらに準ずる見識をもつこととしており、これらの経験者が研修を受けてはじめてサーベイヤーに登録される。
 同機構は、2002年で5年間の第1周期を終え、現在はシステムを改善して上記の新たな評価方法で審査を行っているということであった。設立当初に時間をかけて綿密に方策を検討して立ち上げても改善の余地はいくらでもあるということに、評価の難しさを改めて垣間見た。