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アルカディア学報

No.826

大学の理解者をつくる広報

客員研究員  岩田雅明(大学経営コンサルタント/新島学園短期大学前学長)

何を基準に選んでいるのか

 今年も、日本私立大学協会主催の広報担当者協議会が、8月に開催されることになっている。ライバルともなりうる加盟大学が一堂に会して、関係者すべてにとって「良い広報」とは何かを共に考える、良い機会となることを期待し、また確信しているところである。
 18歳人口が減少し続けるという厳しい環境下、各大学は生き残りをかけて、さまざまな施策を展開している。そのような中にあって、大学広報はどのような働きをすることが求められているのだろうか。大学が存続していくためには、一定数以上の学生が必要となるので、まずは入学者の確保ということが求められることになる。そのためには、自学の魅力を受験生等に伝え、自学を選んでもらえるようにしていくことが大切なこととなる。
 では、受験生はどのような要素を勘案して、受験、入学する大学を選んでいるのだろうか。大学を評価する客観的な数値である偏差値は、以前と比べて重視する度合いは減ってきているが、その大学の社会的評価や、自分自身の合格可能性にも関係することなので、依然、重視されることに変わりはないと思われる。ただし、偏差値だけで決めるというのではなく、入学候補先を選定する際の、フィルターとしての機能ということになるであろう。
 そしてそのフィルターを通過した大学の中から、学びたい内容や就職等の実績、通学の便、学費、キャンパスの雰囲気やその大学の持っているイメージといったことを総合的に勘案して、志望校を決定することになると思われる。したがって受験者、入学者を増やすためには、偏差値を高めること、そしてそれとも関係するが、就職状況や国家試験の合格率などの実績を優れたものとすること、そして大学のイメージを良いものにするといったことが求められることになる。
 私が以前、所属していた大学では、偏差値を向上させるための方策として優れた就職実績を上げることを考えた。そしてそのために必要な、学ぶ意欲も基礎学力も高い学生に入学してもらう方策として、指定資格を持っていると4年間授業料免除という特待生制度を創設したのである。当時の経済環境にも合致したため、これによって優秀な入学者を得ることができ、就職実績も向上し、偏差値も毎年、着実に上昇し、それに伴って受験生も増加していったのである。
 偏差値は、その大学の社会的な評価が向上し、入学したいという受験生が増えることで高くなることになる。したがって、受験生が重視している、学生が成長できる教育や支援の環境を整備すること、その結果としての就職実績や資格取得状況、国家試験の合格率などを優れたものとしていくことなどが必要となるのである。言い換えるならば、総合的に見て「いい大学」と思ってもらえるように努力することで、結果的に偏差値も向上するということになるのである。

「いい大学」だと思ってもらうには

 受験生が大学を選ぶとき、その大学のことをどこまで理解しているのだろうか。商品やサービスは、その品質を消費者がいつ判断できるかという観点から、「探索財」、「経験財」、「信用財」に分類される。「探索財」とは、購入や利用をする前に、商品の情報を調べたり比較したりすることで、その品質や価値をある程度判断できる商品やサービスである。例えばパソコンや家電製品といったものは、事前にカタログ等で調べたりすることで、どの程度の性能なのか、どのようなデザインなのかが分かることになるので、「探索財」に該当することになる。
 「経験財」というのは、実際に使用してみないと、その品質や性能を評価することができない商品やサービスのことである。例えばレストランの味などは、メニューを見たり、口コミを読んだりするだけでは正確にはわからないが、実際に食べてみれば自分の好みの味かどうかが分かることになる。
 これに対して「信用財」と言われているものは、経験する前はほとんどわからないし、経験してみてもそのサービスの質を正確には判断できないものである。大学の教育サービスは、体験すればわかることももちろん少なくないが、それが他大学と比べて良いものなのかどうか、自分が得られた教育効果はどれくらいなのかといったことは判断できないので、「経験材」という要素もあるが、「信用財」に該当する面も多いことになる。
 では、事前には正確な中身がわからないという状況の中で、「いい大学」だと思ってもらい、進学先として選んでもらうためには何が必要なのであろうか。もちろん教育や支援の内容が優れたものであり、高い実績を上げているということが重要なことではあるが、それを事前には正確に理解できないという状況の中では、「いい大学」そう、と思ってもらうことが大切なこととなる。成長できそう、面倒見が良さそう、就職に強そうといったことである。つまり、そのようなイメージをつくることが、進学先として選んでもらうためには必要なこととなる。
 イメージは一つの要因でつくられるのではなく、いろいろな情報や体験などによってつくられるものである。例えば、大学から発信する情報、マスコミ等で紹介された取り組み、オープンキャンパスなどでの体験や、さまざまな口コミなどによって形成されるものである。もちろん、それぞれが大切な要素であるが、信用度ということから考えると、大学からの発信ではなく、その大学を取り巻くさまざまな関係者からの発信が、イメージ形成に強い影響を与えるものと考えられる。すなわち、在学生、卒業生、それらの親、高校の教員、地元企業の人たち、地域社会の人たちの語ることが、イメージをつくっていくことになるのである。

コミュニティマーケティング

 近年、企業で活用されているものに、コミュニティマーケティングという手法がある。コミュニティマーケティングとは、企業と顧客、あるいは顧客同士が交流できる場をつくり、商品やブランドを中心としたコミュニティを育てることで、信頼や愛着を高める取り組みである。その目的となるのは、顧客のブランドへの愛着度を高め、継続的な利用や再購入につなげること、また、コミュニティメンバーが商品やサービスを紹介すること、良い口コミを広げることで、新規顧客の獲得につなげること、そして顧客の意見や要望を収集し、それを商品やサービスの改善に生かすことなどである。
 大学でも、この手法を活用して大学の理解者を増やし、良いイメージ形成を図っていくことが、これからの広報には必要な視点ではないかと思う。大学のコミュニティとは、大学という組織を媒介にして、人と人が関わり合うネットワークや集団のことである。すでに、同窓会や父母の会など、いくつかのコミュニティが存在し、大学を支援する活動を行っていることと思う。
 今回の提案は、それらの既存コミュニティのメンバーに加えて、多くの関係者を巻き込んだコミュニティをつくるということである。例えば在学生の親、卒業生、卒業生の親、関係する企業、地域社会の理解者たちといった人たちを取り込んだコミュニティをつくるのである。その中で、オンラインのプラットフォームやアプリなどを設け、大学の最新情報を伝達できるようにするとともに、コミュニティメンバーからも自由に大学の活動に対して共感や意見、要望等を寄せることができるような仕組みをつくるのである。
 寄せられた意見等に対しては、きちんと対応していくことで、コミュニティメンバーとともに「いい大学」をつくっていくという関係性を築いていくのである。そのことによってメンバーの大学に対する愛着度も高まり、大学の良さを伝える口コミも生まれてくることになると思う。そして口コミのネタとなる、大学が何を目指して、どのようなことをしているのかといったことを定期的にわかりやすく発信し、共有してもらうように努めることである。
 口コミの威力には、大きなものがある。私がいた短期大学でも、短大に対して強い愛着心を持ってくれた保護者がいた。その人が、知り合いに我が短大の良さを伝えてくれたことで、何名かの入学者を得ることができたのである。たった一人の口コミで、このような成果が得られることもあるのである。
 大学の場合には卒業した人がもう一度入学するということはないので、リピーターはいない。しかし、大学の魅力を伝え、入学につなげる働きをしてくれる人をつくることはできる。それが、大学のコミュニティマーケティングである。教職員すべてが広報スタッフということにとどまらず、関係者全員を広報スタッフとしていくことが、250大学が消えようとしている中で、大切なことであると思う。