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アルカディア学報

No.786

スポーツ留学生への学修支援
山梨学院大学の事例から

青山貴子(山梨学院大学学長)

1.スポーツ留学生の現状と課題

 グローバル化が進展する中で、日本の大学におけるスポーツ留学生の受け入れは増加傾向にある。大学スポーツ界では、国内外の大会等で活躍する人材としてスポーツ留学生が重要な役割を果たしている一方で、彼らは学習上の課題も抱えていることが多い。一般的にスポーツ学生が抱える「学業と競技の両立」という課題に加え、母国を離れての生活や、日本語学習という留学生としての課題も加わるからである。
 スポーツ留学生はスポーツ推薦入試などの枠組みで入学し、大学の競技部で活躍することが期待され、競技活動に多くの時間とエネルギーを割かれるため、学業への取り組みが疎かになりやすい現状がある。特に競技に励みながら外国語での授業やレポート、試験に適応するのは容易ではなく、大学として生活上の配慮や学修支援が求められる。

2.山梨学院大学におけるスポーツ振興と学修支援

 山梨学院大学は「カレッジスポーツの振興を通じた全人的教育」を大学が目指す柱の一つに掲げており、これまでに多くの世界的なアスリートを輩出してきた。現在、大学には15の競技クラブ(強化育成クラブ)が存在し、約1200人の強化育成クラブ学生が在籍している。このうち、スポーツ留学生は約20人と決して多くはないが、出身国・文化背景も多様で各クラブに分散して在籍しているため、個々の状況に応じた細やかな学修支援が必要である。
 1977年に設立された山梨学院大学カレッジスポーツセンターは、本学のスポーツ振興の拠点として、強化育成クラブ学生の競技力向上だけでなく、教育・生活指導、指導者の育成、施設整備などを担ってきた。2003年には学習支援室を設置し、専属スタッフを配置してスポーツ学生の学修を重点的にサポートしている。

3.学習支援室における学修サポート

 カレッジスポーツセンター学習支援室では、スポーツ学生全般に対し、履修登録支援(履修指導や手続き支援)、授業支援(出席状況の確認、学習適応支援)、定期試験対策(試験に向けた学習計画、レポート作成等の相談)といった支援に加え、「学業基準制度」を導入し、一定の成績水準を下回る学生には部活動を制限するなど、学生に対して学業と競技の両立への意識づけを行っている。また、SA(Student Assistant)が正課授業でのサポートを行い、学修上の悩みや困難を解決する「学生アドバイザー制度」を導入している。学修支援室はカレッジスポーツセンター事務室に隣接しており、各競技の指導者やスポーツ学生が日常的に出入りするため、学生の支援室への訪問が習慣化しやすい、指導者と日常的にコミュニケーションをとりやすい、といった利点がある。
 特に日本語支援が必要なスポーツ留学生については、必ずしも英語圏の学生だけでなく、多様な言語背景を持つ学生が在籍している(現在は、バスケットボール、レスリング、ラグビー、ホッケー、陸上、柔道などのクラブに、東欧、アフリカ、東アジア、オセアニアなどの地域からの留学生が在籍している)。そのため、授業資料や課題、レジュメを学習支援室スタッフが必要に応じて各母国語に翻訳しながら説明し、授業内容をよりよく理解できるよう支援している。また、生活向上を目指して交流イベントなども企画・実施しており、スポーツ留学生同士が仲良くなる契機としている。【写真①参照】

4.日本語支援の取り組み

 本学におけるスポーツ留学生への日本語支援は、正課内と正課外とに分けられる。正課内ではスポーツ留学生専用の日本語クラスを設け、グローバルラーニングセンターの日本語教員が授業を実施している。このクラスでは、日本語スキルの異なる学生への対応策として、学生のレベルに合った教材や学習ペースをカスタマイズして提供し、読む力・聴く力・書く力・語彙力などバランスの取れた日本語力育成を心がけている。
 また、言語学習には学習者主体のタスクベース学習法が有効であるとされているため、アスリート留学生が実際の生活の場(寮、スーパー、病院等)や試合・練習の場で接触する可能性の高い語彙と基本文型を組み合わせた自主教材を用いるなど、学生にとってリアルな日本語使用状況を想定した授業設計を心がけるなどの工夫をしている。
 一方、課外では、カレッジスポーツセンター学習支援室が授業外時間を活用し、各学生のレベルに応じた自習教材を提供している。各自が空きコマなどを利用して週1~2回の音声学習、筆記学習、音読学習といった自主学習に取り組み、授業の補完や日本語能力の向上が図られている。【写真②参照】
 先述の授業実践、学習支援事例のいくつかは、スポーツ言語学会でスポーツ留学生教育に関わる教員が報告・発表するなど、大学を超えた試行錯誤が重ねられている。スポーツ留学生の教育環境の向上に向けて、各領域からの知見の共有を今後も歓迎したい。

5.支援コミュニティの形成に向けて

 スポーツ留学生の学修支援にあたっての重要なポイントは、学生を中心に据えて各種のニーズを統合的に把握・判断しサポートを実施することである。本学でいえばカレッジスポーツセンターの学習支援室スタッフが軸となり、クラブ指導者との密接な連携、正課授業(日本語科目等)を担当する教員との情報共有、学生相談室などのカウンセリング部署や在留管理を担う部署などとも必要に応じて連絡を取る中で、留学生を取り巻く支援コミュニティが形成され、適時に適切な支援が実施されることを目指している。
 以上、山梨学院大学におけるスポーツ留学生支援の一端をご紹介させていただいたが、現場での課題は多く、取り組みは試行錯誤の途上である。現在、①日本語教育の強化(授業や日常生活で直面する日本語の課題を克服するための支援)、②オンラインリソースの活用(オンライン教材やプラットフォームを活用した個別化された学習環境の提供)、③多文化共生の推進(スポーツ留学生と日本人学生の相互理解を促進し、多文化共生の視点から教育環境を整備)、④多言語対応の強化(多言語教材やサポート体制の充実)、⑤セカンドキャリア支援(競技以外のキャリア形成や卒業後の進路支援)、などが今後の支援の方向性として想定される。
 もしこうした支援に関心のある大学があれば、一緒にお知恵を絞っていただければ幸いである。
 各学生の状況が多様であるために特殊化されやすく、ともすると孤立化しがちなスポーツ留学生であるが、他大学、省庁、地域とも協力しながら、彼らが競技者として活躍するだけでなく、学問や社会的スキルを備えた人材として全人的に成長でき、「日本に留学してよかった」「この大学に進学してよかった」と思ってもらえるよう、引き続き支援体制の強化に取り組んでいきたい。