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アルカディア学報

No.782

地方大学の連携と不易流行する
多様な教育を目指して

菅野孝之(福島学院大学 副理事長補佐・事務局総務)

【はじめに】

 筆者の所属する学校法人福島学院は創立して80年を超え、創立時の洋裁学校から始まり現在まで数多くの人材を輩出してきた。創立当時は家父長制的な家制度の時代から抜け出し、女性が社会進出する時代にあたり、その嚆矢として洋裁学校に入学する学生は非常に多かったそうである。
 その後、女子短期大学、共学化、4年制大学や大学院設置などを経て、現在大学院1専攻、大学2学部、短大2学科、認定こども園がある。キャンパスは2つあり、本部のある宮代キャンパスと福島駅前キャンパスである。
 建学の精神は「真心こそすべてのすべて」であり、わかりやすいこともあり学生の認知度も100%と言っても過言ではなく、深い精神性も含めた他者への思いやりを教育の根幹としている。

【本学を取り巻く環境】

 本学の学生数は大学・短大合わせて750人程である。18歳人口減少に比例し、さらに2011年の東日本大震災の原発事故と伴う風評被害などを受けて学生数は減少傾向にある。
 本学入学者は福島県内から8割ほどきており、近隣には似た学科構成の大学が複数ある。栄養や保育などの専門職系統は全国の志願動向でみると減少方向であるが、それに比して本学は健闘していると思っている。ただし後述するように、福島県の現状を踏まえると決して安穏とできるわけではない。

【福島県の現状】

 福島県の18歳人口に関しては、リクルート進学総研の資料によると2020年1万8482人であったが、2032年1万4607人、3875人減少の予想である(リクルート総研【都道府県別東北】18歳人口・進学率・残留率の推移 2020年より)。
 福島県の高校生の大学と短大の進学状況について最新のアンケートなどでは、県内の大学短大に進学する希望のある生徒は5割程度である。他は他県進学や就職、専門学校などである。なぜ残らないのかについて着目すると、概ね以下のような3つの理由がある。
①学びたい分野がない
 福島県内には福祉や保育、栄養など資格取得を目的とした学科構成の大学短大が多い。他は大規模な総合大学の福島大学に進学が多く、それ以外になると、隣県の宮城県、特に仙台市に進学してしまっている。
②福島の街の魅力
 学生たちは率直な意見として、「娯楽施設が少ない」、「有名ショップなどない」、「駅前の空洞化」などをあげている。全国的なブランディングの大学が地方の街の魅力を引き上げることがあるかも知れないが、それは実現困難である。地方都市では街の魅力の土台の上に学生の進学意欲は左右されることを実感している。街の魅力アップのために、地方大学は若者の声を行政につなげる役目に今後更に努めていくことが必要と考える。
③東京など都市での生活へのあこがれ
 都市部の大学の方々が考える以上に地方の高校生は首都圏にあこがれを持っている。上記の②とも共通するが、豊富な娯楽施設やエンタメ、文化的な中心である首都圏に住んでみたい学生は福島県の高校生全体の3割近くに達している。近年は首都圏の有名校が地方会場として福島で入学試験実施など積極的に学生募集を行っており、相当数が首都圏へ流出している。
 以上が筆者の経験や各種アンケート等で総合的に考えられる福島の高校生の傾向である。このような状況を踏まえて、福島にある私立大学として今後どのような方向性を見出すべきか次の通り私見を述べる。

【競争しない大学を目指す】

 あえて"競争しない"と述べたが、学科構成で競争しないことが地方の大学にとって最重要であると考えている。各大学は独自の教育研究活動を不変の建学の精神に基づき実施している。筆者自身は私学人であるし、なによりその崇高さも理解しているつもりだ。これまで、それぞれの大学が切磋琢磨し、よりよい教育を実践してきた。
 ただしそうは言っても、学科構成が同じで資格関係のカリキュラムが似ている場合には、教養科目などを含めて大学間の違いを高校生に示すのは困難である。専門職希望の高校生のニーズはそもそもその特定の資格である場合が多い。そんな中で同じ学科構成で少ないパイを奪い合うと共倒れになってしまう恐れがある。
 そのために地域の学科構成の整理をする連携推進法人の設置を文部科学省が提起しているが、それは国公立と私立間で学生の規模や財務基盤により力関係が発生して不利益に繋がることを私学が忌避することも多いと聞く。そうであれば、公正な立場から各大学の健全な経営と存続を目指す形の"調整"と"情報提供"などの役割を持った文部科学省や私学関連団体からの「コーディネーター」を加えた地域の各大学の理事長や学長の調整会議などを制度化すべきなのではないか。
 連携推進法人とも違う、その中で緩やかな合意形成体のもと学部学科の分野の住み分けをしていくのであれば受け入れられやすいと考える。その中で共同IRなども含めて実施し、ニーズのある分野などを割り出すことで新しい学部等に改組することや共同教育課程を置くなどの学びの分野を創生する挑戦もすべきである。
 以上のように競争することで各大学が費やしてきたコストやリソースを新たな方向へ転換する不易流行の仕組みが必要であると考えている。

【福島市産官学連携プラットフォーム】

 以上、地域の大学について意見を述べてきたが、現在本職は福島市産官学連携プラットフォームの事務局を競合校の方たちとともに運営している。このプラットフォームは福島市や商工会議所、中小企業家同友会、そして市内の国公私立大学すべて参画しているものである。福島市の総合計画に沿う形でありながら、若者の地域定着や大学同士の連携や合同FDSDなど4つのプロジェクトチームが活発に活動している。
 2024年度は市内各大学の学生が共同で主催する形での合同イベントを福島市の中心にある広場で実施し、福島市内の高校生に対してのアンケート調査(共同IR)などを行うなどの独自の事業を立ち上げている。このような地域の課題解決を図る取組みを続けることで各大学の教職員や学生相互のつながりもフラットになっていくと感じている。前述したような緩やかな合意形成体の創出もこのような活動の中で決して夢ではないと考えるし、このプラットフォームがそのような役割の嚆矢として機能していくことを期待している。

【最後に】

 福島学院大学は東日本大震災の際には校舎自体が倒壊し、全国ニュースになるなど大きく報道されていたのでご記憶の方も多いと思う。当時は教職員自身の家庭なども被災し、公私ともに全員が混乱した状況に置かれた。数多くの不幸もあった。それでも教職員は学生と教育の継続のことを第一に考え、がれきの中で学生の安否確認や復興作業を老若男女問わず団結してその困難に立ち向かった経験がある。様々な公的及び私的な支援を全国の方々から頂き、校舎も再建できた。
 そのような特別な体験を決して忘れず、その恩と期待に応えるためにより充実した教育を本学は取り組んでいく覚悟である。