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アルカディア学報

No.770

寄附行為変更上の留意点
~理事・理事会、監事~ ―下―

池田千絵(名川・岡村法律事務所弁護士)

 令和5年私立学校法改正による寄附行為変更が急務となっている。本稿の後半では、前半(理事・理事会、監事)に引き続き、文部科学省が公表した「寄附行為作成例(文部科学省管轄学校法人向け)」(以下「本作成例」という。)等を題材として、評議員・評議員会に関係する部分を解説する。

1  寄附行為の必要的記載事項に関して

(1)第6条2項(定数)
 本作成例のとおり、「この法人に、評議員○名を置く」と記載する場合の他、○名以上○名以内などと幅を持たせた記載も可能である。その場合、評議員定数は6人以上かつ理事定数を超えること(18条3項)に留意し、「評議員の実数は、理事の実数を超える数でなければならない」旨を付け加える必要がある。
 また、理事・監事・他の評議員のいずれかと特別利害関係を有する評議員は、総数の6分の1を超えてはならないため、評議員に親族が複数名含まれることが想定される場合などは、定数の設定にあたり注意を要する。
(2)第33条(選任方法)
 本作成例では例1「評議員会で評議員を選任する場合」と例2「充て職や複数の機関で評議員を選任する場合」が挙げられている。
 例1は評議員として選任する必要がある職員、卒業生を含め、全評議員を評議員会で選任する場合の例である。理事や理事会との牽連関係はないため、理事・理事会から独立した評議員会の構成が可能となり、執行機関への牽制機能の強化に資すると思われる反面、執行機関と対立した場合のリスクが懸念される。
 例2は職員と卒業生を評議員会で選任する他、大学の学部長を充て職とし、また、評議員選任委員会を設置し、同委員会で学識経験者を選任する場合の例で、理事等が評議員選任委員会の委員に加わることが可能であるから、評議員会が執行機関との協働を図りつつ、一定程度の独立も図ることができる。なお、評議員選任委員会のような第三者機関を選任機関として設置するときは、同委員会の過半数を理事が占める場合などは2分の1ルール(理事・理事会が選任できる評議員は総数の2分の1まで)に注意する必要がある。「東京都版寄附行為作成例(暫定版)」では理事会が一部の評議員を選任する例が記載されているが、その場合もこの2分の1ルールに留意する必要がある。なお、教職員評議員は、総数の3分の1が上限である。
(3)第36条1項(評議員の解任)
 本作成例は、従来と同様、「職務上の義務に違反し、又は職務を怠ったとき」、「心身の故障のため、職務の執行に支障があり、又はこれに堪えないとき」、「評議員としてふさわしくない非行があったとき」を解任事由としている。なお、原則として評議員を選任したものに解任権があり、理事会が解任するならば決議要件を加重できるが、評議員会が解任するならば決議要件の軽減や加重は不可である。
(4)第35条1項(任期)
 本作成例では「選任後○年以内に終了する会計年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結の時までとする」とされ、評議員の任期は6年以内で定めることができるが(63条)、理事の任期は監事・評議員の任期を超えてはならないので(32条2項)、理事の任期と同じかそれ以上の期間にする必要がある。
(5)第42条1項(評議員会の招集方法)
 本作成例では「評議員会は、法令に別段の定めがある場合を除き、理事会の決議に基づき理事長が招集する」とされているが、改正私立学校法では全理事に招集権があるため(70条1項)、理事長以外の理事が招集してもよい。
 また、一定数(大臣所轄学校法人等は10分の1、その他は3分の1)以上の評議員による評議員会招集請求権(71条1項)、招集権(72条1項)、議題提案権(71条2項)、議案提出権(75条1項)につき法令に従い記載する例となっている。
 なお、評議員会招集にあたり、1週間前までに招集通知を発する必要があるので、招集通知の発信方法は、本作成例のとおり、書面のほか、評議員の承諾が条件となるが、電磁的方法による発信が可能となるよう記載するのが、実務上、望ましい。

2  寄附行為の任意的記載事項に関して

(1)評議員会の諮問事項
 本作成例では、意見聴取が必須とされる①重要な資産の処分又は譲受け、②多額の借財、③予算及び事業計画並びに事業に関する中期的な計画の作成又は変更、④役員及び評議員に対する報酬等(報酬、賞与その他の職務遂行の対価として受ける財産の利益及び退職手当をいう。以下同じ。)の支給の基準の策定又は変更、⑤収益事業に関する重要事項、⑥改正私立学校法が定める事項を除く寄附行為の変更の6点の他、⑦予算外の新たな義務の負担又は権利の放棄、⑧寄附金品の募集に関する事項、⑨その他法人の業務に関する重要事項で理事会において必要と認めるものを記載しているが、⑦ないし⑨の記載は任意である。
(2)評議員会の決議事項
 本作成例では、法令の要件に従い、改正私立学校法が定める事項を除く寄附行為の変更、改正私立学校法が定める事由による解散、合併の3点が挙げられており、これらは決議事項とすることが必須である。
(3)評議員会の決議要件
 本作成例では、法令の要件に従い、特別利害関係人を除く評議員の過半数が出席し、その過半数で決議するとされており、法令の要件を加重又は軽減することはできない。そのため、理事選任機関を評議員会とした場合、普通決議で理事を解任できることになる。
 また、理事会と評議員会で決議が異なる可能性があるが、その場合の措置として、本作成例では、理事・評議員協議会を設置し、同協議会の決議の結果を十分尊重し、理事会又は評議員会が再度決議をする場合の例、再度評議員会を開催し、全理事が改めて必要な説明を行い、その説明を十分尊重し、評議員会が再度決議をする場合の例が挙げられており、必要ならばこれらの記載をすることとなる。
 なお、本作成例のとおり、監事の解任と役員又は会計監査人の責任の一部免除を認める旨の決議は、3分の2以上の特別決議を必要としなければならず、役員又は会計監査人の責任の全部を免除する決議は、議決に加わることのできる評議員の全員一致をもって行う必要があるため、そのように定める必要がある。
(4)附則の定め
 本作成例では、①寄附行為は令和7年4月1日から施行する、②会計監査人及び常勤監事に関する規定は同年度定時評議員会終結時から施行する、③寄附行為施行時に現に在任する役員、評議員の定数、資格及び構成は同終結時まで従前の例による(同終結時まで理事及び評議員の兼職者は1名以上必要で、評議員定数は理事定数の2倍超を維持する必要あり)、④同終結時に理事と評議員の兼職者は、いずれかを辞任しなければならない、⑤同終結時より前に任期満了となる役員又は評議員について任期の終期を同終結時まで伸長する等と定めることが挙げられている。なお、⑤については、令和7年4月1日よりも前に任期満了となる者の場合は、(ア)○年○月○日時点で在任する役員又は評議員で、同終結時よりも前に任期満了となるものの終期は、同終結時まで伸長すると定めた上、(イ)その附則を令和7年4月1日よりも前(任期満了となる前)に施行する必要がある点は要注意である。