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アルカディア学報

No.77

大学評価の新段階―第11回公開研究会の議論から

大学評価・学位授与機構助教授  米澤 彰純

 去る5月15日、ニューイングランド基準協会エグゼクティブ・ディレクター、チャールズ・クック博士が来日し、私学高等教育研究所第11回公開研究会において、「アメリカにおける大学評価の新段階―アクレディテーションの本質と日本の評価体制」という題目で講演を行った。
 はじめに、喜多村和之研究所主幹から、次のような問題提起があった。4月に中央教育審議会から「質の保証」に関する中間報告が出され、第三者評価の義務付けの方向での検討が行われ、私学にも第三者評価システムが入ることは間違いない状況となった。報告で示された方式は、アメリカのアクレディテーション方式が主なモデルとなっていると考えられる。これは、精神としては大学評価を政府や外部に委ねるのではなく、大学団体が責任として行うことを意味している。喜多村氏がクック氏に求めたテーマとは「本当の意味でのアクレディテーションとは何か」というものであった。氏は、現職に1981年から従事され、20年間にわたる長い経験を持つ。また、同基準協会はアクレディテーション発祥の地であり、100年の歴史を誇る。
 アクレディテーション方式は、アメリカに発祥したもので、ヨーロッパ、アジア諸国にも大きな影響を与えている。講演において、クック博士は、実態を述べるだけではなく、アメリカのアクレディテーションの背景とその精神を語ることに時間を割かれた。ニューイングランド6州には、200の大学があり、50万の学生がいて、特にアイビー・リーグなど、世界的な大学が集中している。アメリカの高等教育には、規模・多様性・競争という三つの特徴がある。多くの学生は州立大学に通うが、私立大学も大きな役割を果たし、規模・性格は多様であり、また、大変競争的である。高等教育のガバナンスは、国からは直接的なコントロールを受けておらず、州には限定された役割しか与えられていない。政府は質の保証に関してアクレディテーションに頼っており、大学は強い自律性(autonomy)を保持している。
 クック氏によれば、アクレディテーションには、品質保証と品質改善の2つの役割があり、後者がより重要である。また、アクレディテーションの特徴は、①私的・非政府的、②自律的、③ボランタリー、④高等教育機関と学生のためにある、⑤アメリカでは十分成熟し、定着していることである。
 アメリカでは、機関レベルのアクレディテーションは、地域の基準協会が行う。他方、分野別・プログラム別アクレディテーションは、専門職団体が行う専門職養成に関するプログラムに対するものに限定され、人文・教養科目や、理学系の自然科学などには存在しない。これらのアクレディテーションを行う協会は、非営利団体であり、スタッフの数は少なく、多くのボランティアによって支えられている。また、プロセスは、自己評価、チームの訪問、ピア・レビューによる認定ということになる。
 アクレディテーションの周期は、機関に関しては10年であり、分野別に関しては、もう少し短い。また、必要な事項に関しては周期の間でも評価が行われることがありうる。また、機関の性格の大規模な変更に関してはあらかじめ通告が必要となる。
 地域の基準評価は、広範、ミッション志向、オープン・エンドという特徴があり、このことにより、大学の自律性が尊重される。品質の内容を細分化することは不可能であり、創造的であることが推奨される。そこでは、ミッションは何か、資源が十分か、ミッションが満たされているか、今後もミッションは満たされ続けるかが評価される。
 基準に関しては、ミッションと目的、計画と評価、機関とガバナンス、プログラムと教育の実践、教員、学生サービス、図書館・情報資源、財政資源、物理的資源、情報公開、統合性という観点から行われる。
 アクレディテーションの基準は、自己による規制、つまり、メンバーの基準であり、関係者との話し合いの中で変更がなされていく。クック博士は、評価プロセスの解説を通して、次のことを強調した。弱点を特定することは、自分をきちんと認識しているわけであるから、むしろ長所へとつながる。なぜ、人々がボランティアとして評価に参加するかというと、これが興味深い仕事であり、また自分たちの利益にもなるからである。ここでは、公平、率直な評価プロセスを通した改善が支持されている。
 アメリカの経験から学ぶべきことは何だろうか。氏によれば、第1に、高等教育機関は自分たちを自ら律していくべきである。第2に、評価の最大の目的は改善にあるべきであり、自己評価には、「オーナーシップ」が重要である。第3に、外部評価を通じて、機関の実質的な品質保証が行われる。第4に、機関やプログラムは、自分たちの宣言した目的に沿って行われるべきである。第5に、外部評価システムは、公的な品質保証を提供するよう設計され、公的にアカウンタビリティを示すべきである。
 講演の後で、喜多村氏は、次の様な問題提起をさらに行った。アメリカでは設置認可は州政府が握っているが、大学が大変大きな裁量権限を持っている。これに対して、日本の現状はどうか、補助金によって支配されているのではないか。また、ミッション志向であることが講演の中で強調されたが、日本の大学はみなミッションをもっているのか。私学は建学の精神があることになっているが、それが本当に教育に反映されているのか。アクレディテーションは、「クレジット」すなわち信用である。いま、これが危機に瀕している。大学が自ら、アウトサイダーの目で評価し、ペナルティを課すという状況を作らないと、self-regulatoryとは言えないのではないか。
 フロアからは活発な質問と議論がなされたが、多くは、評価の実施を前提とした上での具体的な論点に結びつくものであった。その内容を以下に概略する。〈Q〉自己評価から基準認定までの間のタイムラグに問題はないか〈A〉NO。〈Q〉ミッションの設定の適切性はどう評価するのか〈A〉達成可能かどうかのみをチェックし、内容には踏み込まない。〈Q〉認定されなかったり、認定が取り消される例はどの程度あるか〈A〉極めて少ない。〈Q〉定量的な指標をもっと重視すべきではないか〈A〉昔はもっと定量的だったが、現在は形式主義や画一化を避けるため、より定性的な方向に進んでいる。〈Q〉評価者に大学の外の関係者は含まれるか、ボランタリズムをなぜ支えていくことが可能なのか〈A〉評価者は原則メンバー校から選出され、基本的にはアメリカ社会に根付いたボランティアの精神があるから可能なところがあるが、セミプロ的な評価者がいないわけではない。研修はなるべく短く、むしろ経験者を主体として評価チームを構成する。〈Q〉日本では、第三者評価機関に対して国が直接財政補助をするという案が出されているが、アメリカではどうか〈A〉アメリカでは、メンバー校が評価費用を支出する形を取り、政府が直接財政支出を行うことはない。
 中教審答申では、アクレディテーションを機軸とした考えが打ち出される一方で、大学評価・学位授与機構が私立大学の評価も行えるようにすべきだとの見解が示された。喜多村氏が指摘しているように、日本の大学は設置認可や予算配分によって強力な政府のコントロールを受けており、これが緩和の方向に向かうことになっているが、実際にどの程度まで緩和されるかさらに議論が必要である。第三者評価システムを構築・再構築しようという動きが加速し、大学関係者の関心はすでに具体論に集まっている。この状況下で、あえて「大学評価とは何か」という精神の問題に立ち返ろうとした問題設定と、それに対して深い洞察をもって答えたクック氏の講演は、極めて時機にあったものだった。