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アルカディア学報

No.769

寄附行為変更上の留意点
~理事・理事会、監事~ ―上―

渡邉迅 (名川・岡村法律事務所弁護士)

1.はじめに

 令和5年私立学校法改正により、全ての学校法人が寄附行為を変更する必要が生じている。本稿では、文部科学省が公表した「寄附行為作成例(文部科学省管轄学校法人向け)」(以下「本作成例」という。)等を題材として、寄附行為変更上の留意点を解説する。
 本稿の前半では、理事・理事会、監事に関係する部分を解説する。

2.寄附行為変更のスケジュール

 文部科学省は、寄附行為変更申請の受付期間は令和6年7月1日~令和7年1月10日としているが、対象法人を①~③のグループに分け、寄附行為の変更案が本作成例と異なりが大きい法人から先に申請させる旨公表している。ただし、寄附行為の変更内容は各学校法人が自主的に判断するものであり、上記グループ分けは画一的な寄附行為に誘導する趣旨ではない。

3.寄附行為変更申請マニュアル

 グループ分けの具体的方法は、文部科学省が公表した寄附行為変更申請マニュアルによれば、「寄附行為作成例との差異(内容変更)の数」+「独自に規定する条文の数(内容変更)」÷2の合計値を算出し、31以上がグループ①、15~30がグループ②、15未満がグループ③に分類される。
 各学校法人においては、自らがどのグループに該当する見込みであるかを早期に判断した上で、申請の準備を進めることが望ましい。

4.主な検討事項

 理事・理事会は、①理事選任機関の構成・運営、②理事の定数、選解任の方法、任期、③代表業務執行理事等の選定、④理事会の決議事項・決議要件、監事は、⑤定数、選解任の方法、任期、常勤監事の選定方法等が主な検討事項である。

5.本作成例の検討

(1)理事・理事会関係
 ア 第6条(定数)
 理事の定数は5名以上とされている。他の理事のいずれかと特別利害関係を有する理事の数は理事総数の3分の1を超えてはならないため、例えば、理事定数を5名とした場合、理事長の子が理事に入るだけで上記3分の1ルールに抵触する点に注意が必要である。
 イ 第10条(任期)
 理事の任期は寄附行為で定める期間(4年が上限)以内に終了する会年度のうち最終のものに関する定時評議員会の終結時までであり、短縮することは可能である。ただし、理事の任期は評議員・監事の任期を超えてはならない。
 ウ 第8条(理事選任機関)
 理事選任機関の構成・運営等の内容は、各学校法人の判断に委ねられているが、評議員会以外の機関を理事選任機関とする場合は、あらかじめ評議員会の意見聴取が必要である。
 本作成例では、①評議員会とする例、②理事、評議員、及び学外有識者で構成される第三者機関とする例、③理事会、評議員会及び外部理事選考委員会という複数の理事選任機関を定める例が紹介されている。
 ①の例は、評議員会の意見聴取が不要となるが、評議員会の運営方法は法律上厳格に定められているため、自由な制度設計はできない。例えば、評議員会の決議は原則として普通決議であり、法律上許容される場合を除き、加重・軽減することはできないため、理事の解任も評議員会の普通決議で可能となってしまう点に留意が必要である。
 また、②の例は、新たな機関を設置するため、自由な制度設計が可能となる一方、構成・運営、人選等は独自に定める必要があり、事務手続上の負担が重い点に留意が必要である。
 さらに、③の例は、理事会に多様性をもたらすことが期待できる反面、3つの機関をそれぞれ招集しなければならない上に、第三者機関の構成等は独自に定めなければならず、事務手続き上の負担は最も重いと思われる。
 最後に、本作成例では紹介されていないが、従来どおり、理事会を理事選任機関とすることも法律上可能である。こちらは、「東京都版寄附行為作成例(暫定版)」の理事会を理事選任機関とする例を参照されたい。理事会は既存の機関であるため構成等を独自に定める必要はなく、理事会が選任した学長の理事候補者について、理事選任機関で選任が否決されるおそれがない点など、安定的な学校運営の観点からはメリットが大きいと考える。
 エ 第11条(理事の解任及び退任)
 旧寄附行為作成例では、役員の解任事由は、①法令の規定又はこの寄附行為に著しく違反したとき、②職務上の義務に著しく違反したとき、③心身の故障のため職務の執行に堪えないとき、及び④役員たるにふさわしくない重大な非行があったときに、理事総数の4分の3以上の議決及び評議員会の議決によると定められていた。これに対し、本作成例では、①は削除、②は「著しく」の文言が削除、③は「職務の執行に支障」があるときを追加、④は「重大な」の文言が削除されていることに加えて、理事選任機関の普通決議のみで解任できることになっており、従前よりも理事の解任要件・手続が緩やかになっている点に注意が必要である。
 本作成例における理事の解任事由のうち、②職務上の義務違反と③心身の故障は法律上の要件であるため変更はできないが、その他の解任事由を寄附行為で独自に定めること、及び決議要件を変更することは可能である。
 私見としては、理事の身分の安定にも配慮しつつ、様々な事態に対処できるようにするため、解任事由に「法令の規定又はこの寄附行為に著しく違反したとき」を追加し、④理事としてふさわしくない「重大な」非行に文言を変更することも考えられる。また、評議員会以外の理事選任機関による理事の解任決議の要件は変更が可能なため、理事の身分の安定を重視し、決議要件を理事総数の3分の2(又は4分の3)以上に変更することも可能である。
 オ 第15条(理事の職務)
 理事会で業務執行理事及び代表業務執行理事を選定する場合には、寄附行為に記載する必要がある。旧寄附行為作成例に記載のあった「理事長に事故があるときの職務代行者」の定めは不可になったため、現時点では代表業務執行理事を選定する予定がない場合でも、将来的に代表業務執行理事を置くことができる旨の条項は定めておくことが望ましい。
 カ 第20条(理事会の決議事項)
 本作成例では、議決に加わることができる理事数の3分の2以上の決議(特別決議)が必要な事項が同条2項1号~6号まで明記されているが、法律上、理事会の決議が必要とされているのは1号の寄附行為変更のみであり、2号~6号は普通決議にすることも可能である。ただし、これらの規定を特別決議としない場合には、租税特別措置法第40条第1項後段の譲渡所得等の非課税の特例の適用がなされない可能性があり、注意が必要である。詳しくは、文部科学省が公表する「学校法人に対する財産の贈与又は遺贈に係る譲渡所得の非課税の承認の適用を受けようとする学校法人の標準的な寄附行為(都道府県知事所轄学校法人向け)」を参照されたい。
 キ 第21条(業務の決定の委任)
 寄附行為に定める必要はないが、改正私立学校法36条3項1号~9号は理事会決議が必要な事項であり、当該事項の決定は理事に委任することができない点に留意されたい。
(2)監事関係
 ア 第26条(監事の解任及び退任)
  監事の解任については、理事の解任で述べた点が同様に該当する。
 イ 第30条(常勤監事の選定及び解職)
 改正私立学校法の下では、収入100億円以上又は負債200億円以上の大臣所轄学校法人等は、常勤監事を選定する義務がある。本作成例では、監事の互選により選定する方法が記載されているが、選定方法は各学校法人の判断に委ねられている。
 常勤監事の報酬は、通常、非常勤の監事とは異なるため、役員の報酬基準の見直しが必要となる点にも留意されたい。
(つづく)