加盟大学専用サイト

アルカディア学報

No.761

私立学校法改正と
学校法人制度の変更要点 (上)

西井泰彦(私学高等教育研究所主幹)

一.私学と私学行政

 私立学校法(以下、「私学法」という。)は、私学の特性に鑑みて、私学の自主性を尊重し、公共性を高めるとともに、公費助成の法的基礎を確立することで、私学の健全な発達を図ることを目的として制定された。
 戦後改革においては、私立学校に対する教育行政の基本原則は、学校教育法(以下、「学教法」という。)の施行を受けて、私学の自主性を重んじ、公共性を高めることに重点が置かれ、私学行政の民主化が図られた。これは戦前の監督庁が広範な権限(安寧秩序・風俗を乱す場合等の学校閉鎖命令権、業務・財産状況の検査権、事業計画・収支予算の変更命令権、校長・教員の採用認可・罷免権など)を有し、私立学校令下の私学行政は統制的・監督的側向が強かったという認識が関係者間で共有されていたためである。
 謙抑的な私学行政の理念の実質化を図る措置としては、①所轄庁権限(学校の設置廃止等の認可、設置者変更の認可、学校の閉鎖命令に関する特別規定など)の制限列挙(同法旧5条2項、私学法5条)、②学校の設備、授業その他の事項に関する法令違反時等の変更命令権(学教法14条)の適用除外(私学法5条)、③所轄庁が権限を行使する際の私立学校審議会等への諮問の義務化(同法8条、学教法施行令43条)などである。
 その後、規制改革の動向の中で、中教審の答申等を受けた制度改正により、設置認可の在り方の見直し(設置審査の準則化等)及び認証評価制度の導入に加えて、法令違反状態の大学に対する段階的是正措置の導入が図られた。学教法が改正され、2003(平成15)年度から適用された。大学に対する法的措置として、従来の「閉鎖命令」に加え、その前段階として「改善勧告」、「変更命令」、「組織の廃止命令」を規定し、早期の改善を促すこととされ、改善勧告等を行うために必要がある場合、大学に対して報告や資料提出を求められるようになった(学教法15条)。
 学校教育法上の措置のほか私立学校法上の所轄庁権限として、学校法人の寄附行為の認可及び変更認可、届出の受理(私学法23条1項、108
 条)、法令の規定等に違反又はその運営が著しく適正を欠く学校法人に対する改善その他の措置命令(同法133条)、収益事業の停止命令(同法134条)、法令の規定等に違反した場合の解散命令(同法135条)、業務等の報告、事務所等への立ち入り、書類等の検査(同法136条)などが認められている。このほか、私学助成を受ける学校法人に対して、報告・検査、定員超過是正命令、予算変更勧告、役員の解職勧告もある(助成法12条・補助金適正化法23条)

二.学校法人制度

 学校法人制度は、私立学校の設置主体の組織運営の整備を通じて、私学の公共性の高揚を図ることを目的として、民法下の財団法人に代わる特別法人として戦後改革期に新設された。その当初の特徴は、①役員規定の整備、③評議員会の必置機関化、③法人基礎の強化を目的とする収益事業の容認、④合併規定の整備、⑤残余財産の帰属規定の整備などに概括できる。
 その後、私学法の数次の改正や公益法人制度の改正を受けて、学校法人制度は大きく変更されてきた。2004(平成16)年の法改正では、理事制度と監事制度等の改善がなされ、2019(令和元)年の法改正では、学校法人の責務の規定の新設、役員の職務及び責任の明確化等に関する規定の整備、監事による理事の業務執行状況の監査の規定の新設など、学校法人の管理運営制度の改善が進められた。
 加えて、2023(令和5)年の法改正では、理事・理事会、監事及び評議員・評議員会の権限分配が見直され、役員等の資格・選解任の手続等と各機関の職務・運営等の管理運営制度が大きく変更となり、条文構成が整理され、条項が大幅に追加された。更に、大臣所轄学校法人と知事所轄法人の規模に応じて規定の内容と適用時期等が区分され、大臣所轄学校法人等における意思決定の在り方についての特例が定められている。役員等による特別背任罪、贈収賄罪等の罰則も新たに追加されている。
 2023(令和5)年改正の私学法では、学校法人に関する規定は第3章(私学法16条~142条)に、大臣所轄学校法人等の特例は第4章(同法143条~151条)にまとめられている。
 第3章の第1節の「通則」では、学校法人の3つの責務、すなわち、運営基盤の強化、教育の質の向上及び運営の透明性の確保が明定され(同法16条)、設置者負担主義(学教法5条)に基づき施設設備を保有すべきことが示され(私学法17条)、学校法人の機関として、理事、理事会、監事、評議員会及び評議員並びに理事選任機関の設置が義務づけられた(同法18条)。大臣所轄学校法人等においては会計監査人の設置が義務化されている(同法144条)。学校法人は収益を私立学校の経営に充てるために収益事業を行うことができる(同法19条)。
 第2節の「設立」では、学校法人の基本法であり定款とも言える寄附行為の記載事項と認可、閲覧等が定められている(同法23条~28条)。第3節の「機関」では、学校法人の機関である理事会及び理事、監事、評議員会及び評議員、会計監査人のそれぞれについて、選解任及び職務等の規定が置かれている(同法29条~87条)。また、役員、評議員又は会計監査人の学校法人又は第三者に対する損害賠償責任とその免除に関する定めが設けられている(同法88条~97条)。
 学校法人の機関に関する定めに続いて第4節から第9節には、学校法人の予算及び事業計画等、会計並びに計算書類等及び財産目録等、寄附行為の変更、解散及び清算並びに合併、助成及び監督、訴訟等の規定が置かれている。
 第4章では、大臣所轄学校法人等の特例として、会計監査人の設置、常勤の監事の選定、理事の構成及び報告義務、評議員会及び評議員の特例、体制の整備及び中期事業計画の作成、情報の公表の特例などの規定が定められている。

三.寄附行為

 商法上の会社が準則主義、民間による公益法人が許可主義で設立されるに対して、学校法人は認可主義で設立される。学校法人の設立に際しては法人の根本規則を書面にした「寄附行為」を作成して所轄庁の認可を得なければならず、所轄庁は、あらかじめ私立学校審議会等の意見を聴かなければならない(同法8条、23条、24条)。寄附行為には、学校法人の目的、名称、私立学校の名称及び学部等の種類、事務所の所在地、理事・監事・評議員の定数、選解任方法等、理事会・評議員会・理事選任機関等に関する事項、会計監査人に関する事項、資産及び会計に関する事項、収益事業に関する事項、解散に関する事項、寄附行為の変更に関する事項、公告の方法などが必要的記載事項となっている。電磁的記録を持って作成することも可能となっている。なお、2023(令和5)年の私学法改正における「寄附行為の備置き及び閲覧等」の規定により、学校法人は、寄附行為又はその写を主たる事務所又は従たる事務所に備えて置き、債権者は、いつでも書面又は電磁的記録に記録された事項の閲覧及び謄抄本の交付の請求ができ、債権者以外の者は閲覧の請求ができるようになった。この場合、正当な理由がある場合を除き、これを拒んではならないとされている(同法27条)。
 (つづく)