アルカディア学報
大学図書館のキャリア学習支援
スムーズな学内連携に向けて
筆者は本紙において、「変わりゆく読書と学習の環境」や「大学図書館の挑戦 学術と地域を繋ぐ知と文化創出の場へ」と題した論考を発表してきた。その後、別誌で日本だけでなく、各国の大学図書館サービスを考察する機会を得た。その考察を経て、世界と日本の大学図書館を巡って、①ICT技術の発展に伴うデジタル化、②グローバル化に伴う多様な言語情報の提供、③SDGsの達成、④地域コミュニティへの大学の貢献、⑤リカレント教育などの課題について、大学図書館が多様な戦略を開発し、展開している状況を把握してきた。その過程で、世界の多くの大学図書館が教育と研究の支援だけでなく、地域社会や企業との連携を通じて学習環境を公開し、学生の生活支援やキャリア支援サービスに注力する状況が見えてきた。大学院生には研究者としてのキャリア支援、学部生には就職先へのキャリア支援を展開し、大学での専門的学習がそのままキャリアにつながるような図書館サービスが進められている。
確かに、教員側からすれば就職前の大学での学習や研究は社会の仕事から切り離される方がいいという考え方や大学が就職予備校ではないという意見もある。しかし、大学での学習や研究がその後の仕事とつながることは、大学の社会的貢献や教育目標として、あるいは学生自身が選択する仕事の価値や意義の向上という点からも考慮する必要がある。学生の大学進学の理由は、建前上は大学で専門的な学習や教育を受けたい、好きな学問を研究したいというものであっても、実際には卒業後の進路と切り離して大学や学部を選択しているわけでもない。就職とキャリアの問題は、学部や専攻によって異なるが、学生にとっては、教育と研究の境界を越えて大学側がどのようなキャリア支援をしてくれるのか、その場合の大学図書館の役割は何か、という課題でもある。
そこで、実際に大学図書館がキャリア支援をどのように行っているのか、その実態を明らかにするため、2022年度に神戸学院大学人文学部推進研究経費の助成を得て、全国の国立、私立大学を対象としたネット調査を実施した。
日本図書館協会の「日本の図書館統計」では、2022年度の大学図書館数(分館含む)は、1476館(うち分館674)であり、国立288館(中央館86館、分館・分室202)、私立1041館(618館、423館)である。他方、大学数は、学校基本調査(令和5年度速報)によると、国立86校、私立622校である。ほとんどの大学には大学図書館が設置されているが、本館に対する分館・分室の比率は、国立で235%、私立68%となっている。国立の場合、中央館に加えて、学部毎に図書館分館や分室が多く設置されていることを示している。
ネット調査では、上記のうち、国立と私立を選び、大学図書館のアドレスから、中央図書館を抽出した。調査期間は、2023年2月8日から24日までの約2週間、全国の国立校62校、私立205校を対象として依頼し、それぞれ25校(回収率40%)、62校(20%)から回答を得た。調査の主な内容は、キャリア学習支援プログラムの有無、キャリア支援部署との連携状況、特色ある学習支援サービスや施設などであるが、特に、図書館サービスについては、①就職・進学活動の印刷情報資源の提供、②就職・進学活動の電子情報資源の提供、③就職や進学を支援する行事の開催の3点に焦点を絞った。
図1から図3は、それぞれ印刷情報資源、電子情報資源の提供状況、そしてキャリア関連行事の実施状況を示したものである。図1では、半数以上の図書館で、職業・資格情報を得られる事典・書籍の配置、職業資格関連図書コーナーの設置、継続的な就職関連図書紹介コーナーの設置、企業情報や就職ジャーナルの提供が行われている。また、図2からは、キャリア探索を支援するデータベースの提供や履歴書の書き方や面接の方法についての情報資源の提供、その他の就職・キャリアの電子情報資源の提供を3割以上の大学が行っていることがわかる。さらに、情報提供だけではなく1割以上の図書館が、学生支援室やキャリアセンターとの連携講座の提供や図書館主催のキャリア関連講座の提供も行っている。
他方で、学生数1万人以上の大学と1万人未満の大学の間では、規模の大きい大学ほど多様な種類の支援サービスを実施していた。また、図書館によるキャリア支援の電子情報は国立や大規模校に多いこと、図書館主催のキャリア関連講座は国立で15%が実施していること、なども明らかとなり、大学の種別、規模によって、その図書館サービスに大きな格差もあることがわかった。
この調査の過程では、大学図書館と、学生支援室やキャリア支援センターとの関係として支援サービスがどのように分担される必要があるのか、あるいは連携する必要があるのか、が問題となった。大学図書館はキャリアの知識や情報を総合的、専門的に提供する機関であり、学生支援室やキャリア支援センターは具体的、現実的な企業や行政のキャリア支援を主たる業務としている。それぞれ完全な役割分業を行うと、利用者としての学生は、キャリアの学習や支援のサービスを一貫して受けることができない可能性が生まれる。大学組織としての大学図書館の機能を考えるとき、この問題は、学生支援室やキャリア支援センターとの役割関係だけではなく、情報支援センターとの関係にも当てはまる。しかし、キャリア支援の問題も情報支援の問題も、3つの組織が個別に行い個別に機能するよりは、学生や教員からすれば役割分担の壁を越えたスムーズな利用ができるような学習環境の連携の構築こそが望まれるのではないだろうか。
最後に調査協力いただいた大学図書館に感謝の意を表します。