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アルカディア学報

No.751

コロナ禍のなかの学生の経済生活
支出動向をみることも必要

客員研究員  岩田弘三(武蔵野大学人間科学学部教授)

 2020年度には、新型コロナウイルス感染症のまん延にともない、授業を含めて、学生たちはキャンパスライフをまったく経験できないという、惨憺たる学生生活を余儀なくされた。
 さらに、緊急事態宣言のもとで、生活必需品・サービスを提供する店舗以外の商業施設に対して休業要請がなされた。その影響を受け、とくに学生アルバイトの中心をなす飲食業では、多くの店舗は営業を自粛し、終日休業に踏み切るところも少なくなかった。よって、多くのアルバイトも休業を余儀なくされた。のみならず、緊急事態宣言解除後も、店舗に対しては時短営業要請がなされた。それらの影響を受け、学生のアルバイト従業率・時間は大幅に減少した。
 しかし、コロナ禍2年目(21年)になると、マスク着用、手洗いや手で触れる物の消毒の推進に加え、「3密」回避などが有効な感染防止策になることが分かってきたこともあり、それらの対策を徹底することを前提に、例えば図1に示したように、コロナ禍初年(20年)と比較して、21年には、オンライン授業から対面授業に向けての転換が進展し、授業を含めてキャンパスライフは復活の兆しをみせ始めた。
 以上のような状況を受けて、コロナ禍前(19年)に比べてコロナ禍初年(20年)には、また、コロナ禍初年に比べてコロナ禍2年目(21年)には、学生の経済生活はいかに変化したのだろうか。この点を、表1をもとに明らかにしていこう。
 まず、コロナ禍前(19年)とコロナ禍初年(20年)を比較すると、収入に関しては、アルバイト収入のみならず、「小遣い」(仕送り)が大きく減少している。「小遣い」の減少は、高等教育修学支援新制度の導入によって、給付奨学金が受給されたことが、一つの要因になっている。
 しかし、それのみならず、支出合計が大幅に減少したために、経費を削減することができた点も、一大要因となっている。具体的に言えば、自宅生の場合は「交通費」が、自宅外生(下宿・アパート生)の場合はアパートを引き払い、実家に戻る傾向がみられたことを反映して「住居費」が、激減している。さらに、自宅生・自宅外生とも、外食を避ける傾向のもと「食費」や、課外活動・交友の自粛により「教養娯楽費」も激減している。
 20年には、とくにアルバイトの収入減による、学生生活費逼迫が、マスコミなどを中心に、ことさら問題として採り上げられた。しかし、この年には、支出も減少したため、収入減の深刻さはある程度、緩和される状況にあったことに言及されることは、ほとんどなかった。この点は、強調しておきたい。
 コロナ禍2年目(21年)になると、授業を含めたキャンパスライフの復活とともに、自宅外生の「住居費」、自宅生の「交通費」は、ほぼコロナ禍前(19年)の水準にまで回復した。また、「教養娯楽費」は、自宅生・自宅外生とも21年には、コロナ禍前の水準にまではいまだ回復していないとしても、コロナ禍初年(20年)に比べれば、大きく増加した。それら経費を補助すべく、「小遣い」も大幅に増えた。
 たしかに、20年に比べ21年には、アルバイト収入には、回復の兆しがみられる。しかし、コロナ禍に対する自粛緩和は、アルバイト収入の増加をもたらす効果をもつ反面、学生生活費支出を増加させる効果もあわせもつことは明らかである。よって、アルバイト収入がいかに増加しようとも、支出面まで考慮すれば、今後、コロナ禍に対する自粛緩和によって、学生生活費逼迫の問題が改善に向かうとは、単純に結論づけられないのである。
 このように、コロナ禍の時代における今後の学生生活費の問題を考える場合には、収入面のみならず支出面も考慮に入れた議論が必要になる。よって、その点を踏まえて、今後の動向を継続的にみていくことが、これからの課題になるといえる。