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アルカディア学報

No.716

私大ガバナンス
学長の問題意識は

増谷文生(朝日新聞編集委員)

 学校法人のガバナンス改革をめぐる議論が、異例の展開を見せている。
 文部科学省は当初、学校法人ガバナンス改革会議の報告書をもとに、昨年中に私立学校法改正案の骨格をまとめる予定だった。だが、報告書の内容に私学や自民党議員らが猛反発。今年1月に新たな会議体を作り、議論を続けることになった。
 報告書の中で、私立大学などが最も反発したのは、学外者のみで作る評議員会を最高監督・議決機関とする点だった。「このままでは私学に受け入れられない」と判断した文科省は、新会議には折衷案を示すと見られる。評議員会に理事会を監督する機能を持たせるものの最高議決機関は理事会のままとし、上限を決めて学内の人が評議員になることも認める内容になる見込みだ。

■「ガバナンス改善必要」7割

 そもそも私大は、自らのガバナンスに問題意識を持っているのか。そんな考えから、昨年夏に朝日新聞と河合塾が実施した共同調査「ひらく 日本の大学」には、ガバナンスに関する質問も盛り込んだ。ベースにしたのは、昨年3月に示された「学校法人のガバナンスに関する有識者会議」の報告書だ。少し古い話に感じるが、結果的には文科省の折衷案に近い内容の質問となりそうだ。
 昨年6~8月に755大学を対象に実施した共同調査には、655大学(私大は496大学)から回答があった。回答率は85%(私大は83%)だった。
 まずは学長に、「貴学のガバナンスを改革する必要があると考えるか」を尋ねた。結果は「改善する必要がある」が11%、「一部改善する必要がある」が56%、「改善する必要はない」は24%。私大だけ抽出しても同じ割合だった。
 国公立を含めた規模別でみると、入学定員が1000~2999人の大学は、「改善する必要がある」が8%と少なめだったが、「一部改善する必要がある」が63%と多く、合計では71%と最も多かった。地域別でみると、「改善する必要がある」は愛知県を除く「東海・北陸」が18%、「北海道・東北」と、福岡県を除く「四国・九州」が15%と多い。一方、「改善する必要はない」は「中国」が33%、東京都を除く「関東甲信越」が28%と多かった。
 「改善する必要がある」と回答した大阪府の小規模私大は「大学人は、ガバナンスを形成するコンプライアンスやリスクマネジメントの理解に乏しい。大学ガバナンスコードを定めて教職員一丸で遵守することは、ガバナンスの方向性を定めることができて有効」とした。一方、北陸の小規模私大は「『学校法人村』のままでは将来がない。そろそろ本格的に外圧がかかってくるだろう」とした。

■ガバナンスコード策定は高評価

 国公私立の各大学団体による大学ガバナンスコードが出そろったことを受け、学長に「各大学団体が大学ガバナンスコードを定めること」についても評価を聞いた。私大は、「大いに評価する」が9%、「評価する」が58%で、3分の2が肯定的だった。国立大を含めた入学定員が3000人以上の大規模大は計84%と、特に高評価だった。
 「大いに評価する」とした関東の私立薬科大の学長は、「大学で学問の自治が保証されるのは当然だが、管理機構は旧態依然。ガバナンスコードを設置し社会のステークホルダーに対し、統治システムの公開性、透明性を保証すべきだ」と記述した。
 一方、「国が、各大学のガバナンスコードの遵守状況を元に補助金などの額を決めること」については、「大いに評価する」「評価する」の合計は全体で19%。設置者別でみると国立は12%、公立は9%と評価が低かったが、私大は22%と肯定的な大学が目立った。
 北陸の私大は「透明性、信頼性の確保のために各大学が定めるべきもので、評価の対象にはなじまない」と反発した。対照的に京都市の私大は「ガバナンスコードの遵守状況を補助金の額で国に評価されることは、学内を説得する論拠となる」とした。

■評議員会の監督機能強化に肯定的

 「評議員会による理事会の運営に対するチェック・監督機能の強化」についての私大の評価は、予想外の結果となった。「大いに評価する」が8%、「評価する」が50%と、過半数が肯定的だったのだ。
 「大いに評価する」とした兵庫県の私大は「私大での理事長、理事会、評議員会、監事の間の相互のチェックアンドバランスが、必ずしも機能しているとは言えない」と指摘。「評価する」とした北海道の私大は「私大は理事長の権限が大きいので、評議員を強化し、チェック機能が働くようにした方がいい」と書いた。
 「私大で学校関係者が評議員になる割合に制限をかけるなどして、多様化を進めること」の評価も、「大いに評価する」が5%、「評価する」が48%と肯定派が半数を超えた。「評価する」とした九州の私大は「評議員の役割には、理事会の決定や決定プロセスへの監視が必要で、そのためには学内関係者の評議員の割合は一定の制限をかける必要がある」と記述。岐阜県の私大も「できる限り公正に、多様性のある多くの目を用いて、組織的にガバナンスをしていく必要がある」とした。
 一方、「私立大での評議員と理事の兼務禁止」については、「大いに評価する」は3%、「評価する」は27%にとどまった。これに対して、「まったく評価しない」は5%、「あまり評価しない」は15%と、3つの質問の中ではもっとも否定的な回答の割合が高かった。
 「評価する」とした東京都の私大は「理事会と評議員会の関係性から見ても妥当」とした。一方、「あまり評価しない」とした愛知県の私大は「私大のガバナンスは建学の精神をもとに自主性・自律性と多様性を維持することが重要で、一律に兼職禁止を法制化するのは問題」とした。

■大学運営に学生の声 7割評価

 「学生の声を大学運営に反映させること」については、「大いに評価する」「評価する」の合計は全体で72%。国立大の84%に比べると低かったが、私大も70%が肯定的だった。
 「大いに評価する」とした千葉県の私大は「一番密接に関わっているステークホルダーである学生の声を大学の運営に反映させていくことは、この先ますます要求されてくる」とした。「評価する」とした東京都の私立女子大は「学生中心のモノの見方、思考によって大学教育を見直していくには、学生の声や卒業生の声を大きく反映させる必要がある」と記した。

■信頼回復へ 先手の改善姿勢を

 学校法人のガバナンス改革をめぐる議論は、私学にとって「最悪の事態」は免れた感がある。だが、日本大学をはじめ毎年のように不祥事が発覚し、国民の私大に対するイメージは大きく悪化した。
 幸いなことに、「ひらく 日本の大学」の結果をみると、多くの私大が、自らのガバナンスについて、程度の差こそあれ改革の必要性があると考えていた。
 ただ、国民の信頼を回復するには、国の改革方針が出るのを待ち、それに従うだけでは不十分だ。
各大学が学生や保護者を含めた社会に対して、わかりやすく納得できる形で情報公開を進めるなど、自発的、積極的に改善を図っていく姿勢が欠かせない。