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アルカディア学報

No.689

「収益事業」再考
ポストコロナ時代の財源多様化

大槻達也(桜美林大学教授)

ポストコロナ時代の公財政教育費

 終息の兆しすらないコロナ禍は、政治、経済、社会などのあらゆる側面に深甚な影響を及ぼし、高等教育もパラダイムシフトを余儀なくされている。本稿ではポストコロナ時代の財政を概観し、厳しい環境の中で大学が教育研究活動等を安定的に継続していくための財源確保について考察したい。
 国会審議中の令和3年度予算案は、新型コロナウイルス対応などのため一般会計総額が106兆6097億円と過去最大となる一方で、新規国債発行額が11年ぶりに前年度を上回り国債依存度は40・9%となっている。国と地方の基礎的財政収支の令和7年度黒字化という政府目標も達成困難となり、さらに今後のコロナ禍の状況や景気動向によっては一層の歳出増や税収減が進むなど、財政運営は格段に厳しさを増すことが懸念される。
 このため、国立大学法人運営費交付金や私立大学等経常費補助金などの高等教育への公財政支出についても、抑制・削減やパフォーマンスベースの配分拡大など、財政当局を中心に従来以上に見直し圧力の増大が予想され、現状維持すら社会的支持無しには困難となるだろう。
 また、主要財源である学生納付金についても、家計の現状から引き上げが限界に達している。これらから、国公私を通じ、公財政教育費や学納金以外の財源確保が急務となっている。

財源多様化の取組と課題

 財源多様化については、中教審グランドデザイン答申(平成30年11月)等で繰り返し指摘され、競争的資金、共同研究などによる研究資金、寄付金、資産運用益などの「外部資金」拡大が求められている。
 このため、政府においても、「2025年までに企業から大学(中略)等への投資を3倍増とすることを目指」(「日本再興戦略 2016」(平成28年6月2日閣議決定))して「イノベーション促進産学官対話会議」創設(同年7月)や「産学官連携による共同研究強化のためのガイドライン」(同年11月)策定などのほか、寄付税制などの条件整備が進められている。
 私立大学も、外部資金獲得上重要視しているものとして公的な競争的資金獲得(大学法人89・4%、短大法人52・6%)、寄付金募集(大学法人61・2%、短大法人50・5%)などを挙げ(複数回答可。私学事業団「学校法人の経営改善方策に関するアンケート」報告、平成27年3月)、工夫や努力を重ねているが、国公立大学も交え、多額とは言えないパイを巡る競争が激しくなっている。現に、国公私立大学の財務担当理事調査でも、外部資金獲得金額を87・1%が今後増やしたいとする一方で、同率の87・1%が限界がある(「おおいに当てはまる」「やや当てはまる」の計)としている(複数回答可。東大大学経営・政策研究センター「大学の財務担当理事調査 報告書」令和2年4月)。
 加えて、昨年来のコロナ禍は、大学独自の奨学金やオンライン授業実施の条件整備など新たな支出を伴う一方で、経済的事由での中退者増などによる学納金減少や景気悪化による産学連携、寄付、資産運用などに負の影響を与え、財源多様化の限界も明らかになりつつある。例えば、山本清鎌倉女子大学教授は、欧米有力大学も「留学生減少、出版部門の収入減、さらには株式等の投資運用による収益減で、財政的に厳しい状況に追い込まれ(中略)、授業料や政府からの補助金以外に、商業的活動と投資活動からの利益で教育研究活動の財源を賄ってきたビジネスモデルも万全では」ないと指摘している(令和2年7月8日付日本経済新聞)。

また、我が国でも、私高研コロナアンケート(同年9月23日付第2816号本紙「特別報告」参照)に見られるように、留学生を含む学生募集への影響、学生支援や感染予防対策に伴う経済負担、さらには外部資金減少などについて深刻な懸念が表明されている。

「収益事業」の現状と課題

 このような中、多様な財源の一つである「収益事業」について考えてみたい。収益事業は、「学校法人の財的基礎を強固にする一助」(第6回国会参議院文部委員会(昭和24年11月18日)高瀬荘太郎文相発言)とするため、私立学校法制定時(同年)から規定、税制上も優遇されており、寄付金より多額の収入を安定的に確保している事例もある。なお、「収益事業」検討上、私学法の収益事業、付随事業、さらには法人税法上の収益事業の概念が交錯していることに留意が必要だが、本稿では私学法上の収益事業に限定して論じることとしたい。
 令和元年度、収益事業を寄付行為に記載する大臣所轄法人は、全体の2割に当たる133法人であり、40年前の昭和54年度と比較すると割合で5・4%<MG CHAR="ポイ","ント" SIZE=100.0>増加(1・37倍)している(各年度版の『文部(科学)大臣所轄学校法人一覧』により筆者集計、以下同じ。なお、事業休止中の法人も含まれる)。また、1法人当りの事業数は1・82事業であり、同期間で0・19事業の減少(0・91倍)となっている。これらのことから、40年間で収益事業記載法人の割合が増加する一方で、1法人当り事業数は減少したことが分かる(この間、参入や撤退もあり、法人は変動)。
 また、同じく、収益事業の種類については、「不動産業」が最多の73法人と事業記載法人の半数を超え、40年前の10法人に比べ7・3倍と大幅増となっている。2番目は「卸売業、小売業」35法人(17法人減)、3番目は「情報通信業」(ほとんどは出版業)は22法人(5法人減)、さらに「保険業」も20法人から12法人と4割減少する一方で、「教育・学習支援業」「医療・福祉」が0や一桁から二桁へと大幅に増加し、新規に「電気・ガス・熱供給・水道業」4法人(すべて電気業)が加わり、公的施設の指定管理も17法人に達している。
 なお、収益事業からの学校会計繰入は、毎年数億円規模に達する法人から皆無のものまで多様だが、収益事業を新規で開始する場合の業種や規模については、教育研究の特色や立地などの強み、事業分野の将来性を踏まえた投資回収見込みなども慎重に見極める必要がある。
 また、出資会社の収益から寄付や配当を受ける場合も広義の「収益事業」と考えることができ、事業会社数が増える中、数億円規模の寄付金や数千万単位の配当金を継続的に得ている法人もある。この場合には、寄付や配当を得るほかに、法人の総コスト削減という側面もあり、狭義の収益事業とした場合の「節税効果」を上回るコスト削減効果が期待できるかなどについて比較考量する必要がある。
 最後に、収益事業の「収益」の源泉について考えてみたい。成果物の一般販売などの場合は、「収益」を外部から獲得することとなるが、在学生への「教育用品販売」など自校構成員から「収益」を得る場合は、業者が行う場合に外部に流出してしまう「収益」を内部に留める効果がある。すなわち、収益事業は、外部から「収益」を確保したり、外部に漏出する「収益」を回収して学校会計に戻したりして、構成員等に還元する意義があると言えよう。
 財源多様化の一つとしての「収益事業」については、従来必ずしも実状が明らかでなかったが、近年の会計基準改正や情報公開の進展等によって状況が改善しつつある。今後一層の情報開示が進み、各法人が収益事業について検討する際に先行事例が参照でき、より良い判断が可能となることを期待したい。