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アルカディア学報

No.641

職員の専門職化議論と運営参画
―SD、教職協働、職員法令改訂の狙い実現を

研究員 篠田道夫(桜美林大学教授・日本福祉大学学園参与)

はじめに―職員の役割

 大学をめぐる情勢の厳しさが増す中、改めて職員の果たす役割の重要性、その業務遂行力量の一層の向上が求められている。筆者の100を超える大学経営調査(拙著『戦略経営111大学事例集』東信堂)の経験からも、職員が元気で調査に同席するトップの前でもちゃんと発言し意見が言える大学は改革が進んでいるところが多い。事実、インタビューを進めていくと、そうした大学は職員にしっかり役割を持たせ、きちんとポストに就けている。
 これはデータからも見て取れる。例えば職員理事は直近の私学高等教育研究所の調査(2017年)では急速に増えている。1人29.9%、2人24.8%、3人14.6%、3人以上7.5%で全くいない大学は13.5%と少なく、職員理事が多い方が募集や財政面で成果を上げている傾向が見て取れる。
 職員の影響力についての調査(2010年)で「かなり影響力がある」と回答した分野は、多い順に就職支援84.4%、学生募集84%、学生支援71.9%、施設計画71.4%、財政計画71%となっており、出口~入口、学生支援から財政など教育や経営の根幹部分に職員が大きな力を持っていることが分かる。
 しかし、職員の役割は拡大しているものの大学(教学)の役職に職員が付いているのは28.3%とまだ少ない。職員参画が十分ではないと回答した大学は約半数に上り、その理由は「教員が統治している」「職員の位置づけが低い」などである。職員が実際に担っている仕事や責任に対して、学内での位置づけやポストが見合っていない現実がある。
 そうした中で2017年から職員にかかわる全面的な法改訂が実施された。SD義務化による育成制度の強化、業務の高度化、教職協働の法制化、職員の位置づけの改訂による大学運営参画の促進である。筆者も中教審の大学教育部会委員として法改訂議論に参加したが、改めて改訂の意義や可能性について、この議論も振り返りながら考えてみたい。

中教審での専門職化議論

 2015年から2年かけて行われた中教審での職員議論のテーマは3つ(1)大学職員の資質向上(2)専門的職員の配置(3)事務組織の見直しである。そのうち法制化されたのは(1)のSDと(3)の職員の位置づけ。見送られたのが(2)の職員の専門職化である。
 しかし、最も議論に時間を費やしたのが専門職化(当初の提起は高度専門職)の議論である。法改定には至らず環境整備に努めることとなったので議論の中身はあまり表に出ず、知られていない。しかし私はこれがSDや職員の位置づけの法改定に大きな影響を与えたと思っている。
 まず当初案の内容を見てみよう。要約すると「教育研究の高度化を図るうえで専門的知見を有する職員は極めて重要。大学への専門的職員の配置を法令で示す」。専門職を高度な教育・研究分野に限定したうえで、全大学にURA(リサーチ・アドミニストレーター)などを想定したドクターを出た人材の配置を法令で定めるなどの内容である。
 しかし、実際は大学職員の専門性には二つの領域があるというのが私の意見であった。これは大学業務の現実から来るもので、これまでの職員論の到達でもある。アカデミックアドミニストレーターと共にアドミニストレーター、大学経営の専門人材が求められているのは周知の事実である。
 大学職員論の草創期を担った孫福弘氏も大学行政管理職員と学術専門職員が必要としている。大学行政管理学会が明らかにしたのも職員の専門性とは特定分野のスペシャリストのみではなく、高等教育政策や当該大学の戦略・現状に精通し改革をリードできる人材はゼネラリストの専門職人材だということだ。
 大学にこのような専門性が求められる背景には、人を育成する教育、世界を相手にする研究、地域丸ごとを対象にする社会貢献という、極めて多様な目標を持っている点が上げられる。それらを理事長や理事会、学長や教授会、事務局・職員などの異なる特質や任務を持つ三つの層をまとめ上げて一つの目標に向かわせる、企業等に比較しても極めて複雑な組織体だということである。
 この議論に先立ち文科省は、2015年専門的職員に関わる初めての本格的な全国調査を行った。現在配置されている専門職は、図書館での司書や看護師、施設管理分野やIT分野、キャリアカウンセラーなどである。一方、これから求められるものはIR分野、データを分析し政策提案を担い得る人材や「執行部判断に対する総合的補佐」などであり、特定分野の専門家というよりはトップを支えて改革の推進を担う総合力のある人材であった。

SD義務化で育成する力

 実はSD義務化の法令で求める力も、この二つの力だという点である。
 SDの条文には、この二つの力が示されている。大学設置基準第41条の3項の定めは「大学は、当該大学の教育研究活動等の適切かつ効果的な運営を図るため」研修の機会を設けよ、ということである。一つは適切な教育・研究活動を実現する力、高度な教育・研究支援力の育成。もう一つは、それを実現するための効果的な大学運営を推進する力、総合的な大学運営力の育成である。そして、それらは当然職員だけでは実現できないので学長等執行部や教員も巻き込んで教職で行うということである。
 こうした力は単なる座学の知識型研修だけでは養えない。実際の仕事で高い目標を掲げて改革にチャレンジし成果を上げるOJD(ディベロップメント)が不可欠だ。業務・人事全体を育成型にすること。学内研修制度の充実はもちろんだが、採用から異動、改善・企画提案の推奨やプレゼン、プロジェクト活動、教職協働の取組み、外部研修や大学院での学びなど全てを成長に結びつけなくてはならない。
 育成のシステムとして目標管理制度や人事評価・育成制度がある。SDとしてはあまり注目されていないのは、人事考課制度が大学によっては査定型の一方的評価で本人への育成指導・支援がないなどの問題がある。挑戦を促し成長を支援する仕組みに進化させていかねばならない。
 今後、SDは教員と一体でFDと連携して取り組む課題が多い。学生実態をつかみ学習成果を評価し、それを教育の質向上や学習支援、学生の育成につなげていくためには教職協働での研修の本格的な仕組みが欠かせない。これこそがグランドデザイン答申が求める「学修者本位の教育」の推進であり、大学の未来がかかる評価の向上につながる。

運営参画の前進を

 その上で職員の大学運営への参画は決定的に重要である。いくら力を高めても、それが大学運営に生かされなければ何の意味もない。SDとその力の発揮、研修の強化と職員の提案権やポストの拡大はコインの裏表一対のものである。職員参画とは、言い換えれば真の教職協働の強化であり、教員の持つ本来の専門力を生かすことでもある。
 その点で、この二つの同時推進を意図した今回のSD、教職協働、職員の位置づけに関する法改訂は画期的だと評価できる。
 まず職員の位置づけは、学校教育法第37条第14項で「事務職員は事務をつかさどる」に変更され、大学設置基準第41条「事務を処理する」が「事務を遂行する」となった。教職協働も法制化され、大学設置基準第2条3項に「大学の‥効果的な運営を図るため‥教員と事務職員等との適切な‥連携体制を確保し‥協働によりその職務を行う」ことが定められた。
 重要なのは、その意義・意味を解説する2017年3月の通知文である。職員の職務について「大学の事務職員及び事務組織が・・学問分野を超えた教育研究の展開、戦略的な大学運営など、一定の裁量と困難性を伴う業務を担い、大学における様々な取組の意思決定等に積極的に参画することが期待される」としている。
 また教職協働の具体的在り様について「教員と事務職員等の対等な位置付けでの学内委員会の構成」を提起している。すなわち、職員が従来型の仕事に留まっていてはだめだ、意思決定そのものにも対等な立場で責任をもって参画すべきだ、これが真の教職協働となるという重要な提起である。
 法改定から2年が経とうとしている。SD義務化は注目され各大学でそれなりの前進が見て取れる。しかし職員の運営参画、大学の組織・運営改革、真の教職協働は十分進展しているのだろうか。

終わりに

 改めてSD義務化から始まる法改定全体の狙い、メッセージをしっかり読み取り、育成制度の充実や職員の運営参画と真の教職協働を大きく前進させていくことがいま強く求められている。  2018年問題。未曾有の大学危機に立ち向かうのは教職員の知恵と力しかない。とりわけ大学運営のあらゆる現場にいる職員が、どのような感度で問題を掴み、解決策を導き出し実行することができるか。ここに真の改革が前進できるかどうかの分かれ道がある。
 職員にかかわる一連の法改定を如何に生かすか、いま一度、全ての大学に問われている。