アルカディア学報
協働の重要性
多様で柔軟な大学創りを目指して
「多様性」と「柔軟性」
現在中央教育審議会の将来構想部会で審議されている「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン」答申(案)の資料に目を通すと、これらの二つの言葉が将来の高等教育において鍵となることは誰しもが気づくところである。同答申(案)になぞらえるならば、各大学は多様性・柔軟性を新たに念頭に置き、特色創りに今後取組まなくてはならない。安定的な学生確保に裏打ちされた盤石な経営体制を構築・維持していくためには、そのような変化への対応は不可避である。
しかし、答申が意図する多様性・柔軟性という視点は確かに重要であるものの、それを加味した上での大学創りは我々大学関係者にとって決して容易なことではない。その過程において、教員個人、職員個人及び個々の大学だけで取組む作業としては、量・質ともにその範疇を超えてくるように感じる。
そこで重要になるのが「協働」という概念である。個の枠を超えた協働を推し進め、課題解決に向け一丸となって取組む姿勢が各大学には求められる。以下、私の所属する長崎国際大学(以下、本学)の事例を交えながら「協働」の必要性に今一度注目することで今回の論考のテーマとしたい。
1.「教職協働」
多様性・柔軟性に富んだ特色創りに取組む過程において、必ずや複雑多岐にわたる課題に直面するだろう。そのような事態に備え、まずは所属する教職員の多様な能力を柔軟に融合させることで、強固な教職協働体制を作る必要がある。本学では、トップ主導の下で教職協働の動きが以前にも増してみられるようになった。その最たる例が「私立大学等改革総合支援事業」に対する取組みであった。通常であれば、補助金業務を担う部署に任せられるところだが、本学では学長主導で、タイプ1からタイプ5各々にワーキンググループが組織され、ひとつのグループに教員・職員がそれぞれ3~7名ずつ振り分けられた。各グループで教職員各々の立場から意見を戦わせ、点数獲得に向けアイデアを出し合った。5コマ目の授業を持つ教員も多く、したがってこれに係る会議は夕方からという日々。地道な議論が繰り返された。その甲斐もあって本学は平成27年度から3年連続ですべてのタイプで採択点数を超える点数を獲得することに成功した。40人以上に及ぶ教職員の協働作業が実を結んだ結果と受け止めている。
その他にも、経営者視点を教員にも浸透させることを目的として、学園全体の経営状態や事業計画を説明するFDを開催することもあれば、本学の特色である「茶道教育」に一部の職員らが教え役として1コマ分担当し、実際に学生の前で指導する制度も確立している。当然FDに参加する教員は時間を奪われ、茶道教育を担当する職員は自身の点前練習の時間を確保しなくてはならず、各個人の負担が増えている事実は否めない。この点は注意が必要で、各教職員が業務過多にならないよう彼らの従事比率(エフォート)管理をしっかり行うことが肝要である。本学の場合、教職員が持つ多様な能力を柔軟に活かしつつ協働で業務を遂行することが、諸課題の解決、ひいては特色創りや学生確保を含めた経営基盤の安定に繋がっている。
2.「大学間協働」
厳しい環境下にあるのは大学だけではない。私が住むような地方都市の多くは、若年層の人口流出率が高い水準にあり、自治体は無論、その地域に根差す企業等も強い危機感を抱く。しかも一自治体、一企業、そして一大学では解決できない程、抱える課題は肥大化している。したがってその課題解決に向けての道筋には必ずや「産学官協働」が隣り合わせになくてはならない。自治体・企業が多様な要求に柔軟に対応しなくてはならない状況にあるのは大学と同じである。
そうは言うものの、産学官協働に係る取組みは今やほとんどの大学で実践されている。
平成29年度に公益財団法人日本高等教育評価機構で認証評価を受審した79大学の「自己点検評価書」を調査すると、「独自基準」(大学が個性・特色として重視している領域に関して独自に大学が設定する項目)に「社会貢献」「地域貢献」を挙げる大学が9割を超えていた。
さらには、79大学のうち7割の大学がその項目の中で、地元自治体等と連携協定を締結していることに言及している。大多数の大学が、地方自治体等と連携して実施する独自の取組みを個性・特色として位置付けているが、もはや産学官協働は大学が大学として存在するための条件となっており、個性・特色としての意味合いが薄れ始めている。
一方で、評価書の「独自基準」の中で大学間協働に言及した大学はまだ少ない。同法人ではない国内の他大学と連携して何らかの取組みを紹介する大学数は4割程度にとどまった。確かに以前と比較すると、「○○コンソーシアム」「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」等で、異なる大学同士がスクラムを組んで新たな取組みを実践する例は多くなってはいるものの、それ自体を各々の大学が個性・特色として位置付ける段階にまで至っていない現状が浮かび上がってくる。
ただし、冒頭で紹介した答申(案)には、従来の産学官協働に加えて、他大学との協働が求められる「地域連携プラットフォーム(仮称)」や「大学等連携推進法人(仮称)」の構築を目指すと記載されている。いわばこれまで競争関係にあった大学が協働し、教育プログラムの提供や経営資源の共有を図ることで、多様で柔軟な教育プログラム及び多様で柔軟な地域社会を形成していくことが、大学が将来生き残る上で重要になるということだ。
本学も「私立大学等改革総合支援事業」のタイプ5の採択により「九州西部地域大学・短期大学連合産学官連携プラットフォーム」を形成し、ようやく走り出したところである。機会があればその成果や課題について改めて報告したいと考えている。
3.「協働」を促す源とは
以上、教職協働及び大学間協働の重要性を述べてきたが、そもそも協働すべき両者(両組織)のモチベーションに温度差が存在する場合には、うまく機能することはない。協働に際し不協和音を感じたならば、まずその温度差をある程度解消することを考えるべきである。その際に必要となるのが両者における「危機意識の共有」である。実施しないと深刻な事態に陥るという意識を持たせる必要がある。本学のケースで言えば、月1回の教授会において、理事長・学長がFDとして、高等教育情勢の話を皮切りに、大学を取巻く厳しい経営環境及び本学の置かれている状況について毎回言及する。この反復作業は、参加教職員の危機意識醸成の役割を担っているのだ。本学での教職協働がある程度機能している背景には、この適切な危機意識の共有がある。産学官協働、大学間協働についても原理は同じであろう。両者がうまく機能するか否かは、各々の当事者が危機意識をいかに共有できているかによってその加速度が異なってくる。
「多様性」「柔軟性」が必要とされるこれからの大学には、当然ながらこれまでにない業務や役割が課せられるだろう。それを解決するのは、過去の成功体験ではなく、結束した力によって創出されるアイデアではないだろうか。多様で柔軟な大学創りを展開する上で、「協働」は必ずや大きな武器になると信じている。