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アルカディア学報

No.601

【私大ガバナンス・マネジメント改革 PT調査報告①】
学長のリーダーシップを支える体制づくり
組織の自律性の高さとチェンジリーダーの存在
―名古屋外国語大学

研究員 鶴田 弘樹(名城大学経営本部総務部課長・学長室開設準備室課長)

 学齢人口の急減、いわゆる「2018年問題」を間近に控えた競争激化の嵐の中、大学は、いま転換点に立っている。教育の質向上や特色化が強く求められる中、学長には教学の意思決定の迅速化や改革方針の浸透、法人と大学との一体的な運営など今まで以上に強いリーダーシップが求められ、また職員の役割の強化も注目されている。日本私立大学協会付置私学高等教育研究所「私大ガバナンス・マネジメント改革プロジェクト(プロジェクトリーダー 篠田道夫)」では、2015年度からの学校教育法の改正前後における私立大学のガバナンスおよびマネジメントの変化と課題、今後の方向性について調査・分析を進めており、その一環として大学訪問調査を開始した。今後の大学の命運を左右する私大ガバナンス、マネジメント改革のあり方についてプロジェクトチーム調査報告の最新状況を連載でお届けする。第1回は、名古屋外国語大学の報告である。

大学の概況
 名古屋外国語大学は、1988年4月、学校法人中西学園の設置学校として、外国語学部のみの単科大学として開学。現在、2学部(外国語学部、現代国際学部)1研究科(国際コミュニケーション研究科)を擁する東海地区唯一の外国語大学として、学生数4255名、教員数172名、職員数86名(2016年5月1日現在)を抱える。学園の建学の精神は「人間教育と実学」である。
 
学校教育法改正以前からのガバナンス改革
 同校におけるガバナンス改革は、学校教育法改正以前から取り組まれている。同校の改革が加速した転機は、2013年度の亀山郁夫学長就任である。学長がリーダーシップを発揮できる体制の整備を皮切りに、学部再編や教育プログラムの開発など各種改革が進められた。
 まず、教学の意思決定体制について、同校では以前から、全学的な課題の審議の場として「執行部会議」があったが、2014年度からは、これを「学長室会議」として学長の意思決定を支える機関として再編する。同会議は、学長の補佐機関として位置付けられ、学長、副学長、学部長、研究科長、法人事務局長および大学事務局長を構成員として、毎週月曜日に開催される。審議内容は、大学の将来構想や長期計画、教育計画、採用計画、研究支援、学生支援および留学制度など多岐にわたり、議論は平均3時間にも及ぶ。一方で、日常的な課題は、学長室会議と同一のメンバーによる非公式な懇談の場である「学長室懇談会」において取り上げられる。重点的な政策課題と日常的課題の議論の場を区分することで、前者に集中した議論が可能となっている。また、2015年度に設置した「教育改革推進室」も学長補佐の一翼を担う。同機関は、学部・学科再編、世界教養プログラムの進行管理ならびに将来設計およびその他全学的な教育改革などの業務を担い、戦略的な教育改革の適切かつ円滑な推進に資することをミッションとする。
 次に、経営側の意思決定においては、中西理事長のリーダーシップが図られている。教学事項は学長に一任するスタンスをとりつつ、学生確保については、教学と連携して改革を進めており、実際に志願者数等において成果をあげている。人員配置を通じた経営と教学の連携も図られ、副学長3名の内、総務担当の副学長は、常務理事・法人事務局長を兼ねる。さらに、教学と経営に跨る経営戦略、教育研究体制の将来構想等については、月に1度開催される「大学戦略会議」において審議を行うなど、盤石な連携体制を敷いている。

学長のリーダーシップを受け入れる組織文化
 同校では、創立30周年にあたる2018年に向けて、人材育成のビジョンと中期計画からなる「Global Future Project 2018 at NUFS(通称:GFP2018)」を策定した。「GFP2018」は、人材育成ビジョンである「外国語運用能力に優れ世界に通用する教養を備え共感力溢れるグローバル職業人を育てる」の下、次の4テーマを軸としたものである。
  Ⅰ. 日本の中部地区をリードする高等教育拠点としての体制の確立
  Ⅱ. キャンパスグローバル化及び豊かなキャンパスライフのための環境整備
  Ⅲ. 国内外の大学・種々の機関との連携及び地域社会への貢献
  Ⅳ. 中部地区唯一の外国語大学としての機能強化及びガバナンスの確立
 全てのテーマが、ビジョンで謳われる「グローバル職業人」の育成と有機的に関連付けられており、シンプルでメッセージ性の高いフレーズで表現されている点が印象深い。また、策定の過程においても、学長が中心的役割を果たしている。原案の作成は学長自ら行い、理念の浸透についても、学長自ら教授会に出向き、自らの言葉で訴えかけることで行われた。ここで具体的な施策に目を向けてみよう。まず、同校は国際交流協定大学の拡充に注力した。本取組については、目標年を待たずして目標の100校を超え、現在さらなる拡充に向けて動いている。また、同校では特徴のある教育プログラムを数多く展開している。特に、留学制度は「ウォルトディズニーワールドリゾート」や「ヒルトン系リゾート」での有給実習を含む中部地区唯一の「UCR特別留学」、2か国留学、東京外国語大学への国内留学およびダブルディグリーなど、多岐にわたるプログラムを用意している。留学制度以外にも、世界の様々な知識・教養を深める「世界教養プログラム」、学生3人と教員1人で行う超少人数教育「パワーアップチュートリアル」、複数言語の使い手を目指す「複言語プログラム」などの取り組みを多数実施している。さらに2017年度の「世界共生学部世界共生学科」設置も、外国語大学としての機能強化の一環であると言うことができるだろう。

学長のリーダーシップを受け入れる組織文化
 全学的改革に係る事項は、学長のリーダーシップの下で進められている。これについて、高梨芳郎副学長は「学長のリーダーシップとその学長が目指すベクトルに合わせて、教育に熱心に取り組む教員が多いことが同校の特徴である」と語る。実際、特段の指示をしなくとも、教員自ら教材開発に係るチームを組織するなど、自主的な動きが多いようである。
 ここで、このような組織運営を可能とする学長等の選考方法や教員採用プロセスに目を向けてみたい。学長は、理事会の下に推薦委員会を設置した上で選考され、理事会の議を経て理事長が任命する。この際、学内外からの選出が可能で、現学長は、学外から招かれた。次に、学部長は、学長が候補者を選定し、理事会に推薦して理事長が任命する。最後に、一般教員は、多くの場合、公募ではなく、教員の繋がりの中で大学の理念に沿った候補者に声掛けし、審議に諮っている。
 事務職員の組織運営への関わり方にも工夫がある。改革推進の要の「学長室会議」に、構成員である大学事務局長に加え、事務局次長、教務部長等も陪席、必要に応じて意見を述べている。事務職員の全体数は多くないが、個々の専門性が高く、語学を生かして国際交流協定を拡充したり、環境を読み取り、入試の歩留まりを的確に予測するなど、大学経営に大きく貢献している。

 考察
 次々と改革を打ち出す同校経営トップのリーダーシップを支えているものは、仕組みであり、人であり、組織文化である。「学長室会議」での意思決定を実行に移せるのは、副学長以下の構成員がブレーンとして有効に機能しているためである。さらに、同校の組織の自律性の高さや自らチームを編成することも厭わない教員の教育に対する熱意など、外面的には窺がえない強みにも支えられている。学長1人では改革は進まない。意思決定体制や補佐制度など仕組みだけでも十分ではない。経営側の理解と学長を支えるチェンジリーダーの存在、さらには学長のリーダーシップを受け入れる組織文化が必要なのである。(つづく)