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アルカディア学報

No.6

第三者評価機関の発足と私学
第1回公開研究会の議論から(2)

主幹 喜多村和之

 第1回公開研究会の議論から(2)

 「独法化」の問題に対してよりは、むしろ第三者評価の問題の方が、参加者の活発な議論を引き起こした。問題提起者の側としては、「第三者評価機関」の成立は「独法化」に不可欠なペアの機関であること、大学の質の評価を国の機関に委ねることは、これまで大学が行ってきた自己点検評価路線の否定ないし敗北を意味するものであり、国立大学はともかくとしても、すべての私立大学にまで国の評価を及ぼすのは私学の自律性を否定し、高等教育の多様性を損なう危険もあり、私学としては慎重に対応すべきだという指摘を行った。
 こうした見解に対して、第三者機関が大学を評価することは必ずしも大学の自律性の敗北ではなく、とりあえず国立大学の評価のやり方を見てからこれを改善し、私学にも適用してみたらよいのではないかという意見が私学関係者からも出た。
 また、公的資金をもらう以上は国の第三者評価を受けるのは当然であり、なぜ反対するのかわからないという意見も出された。さらに、国の評価機関にかわって私学が同じような評価を行うのはコストからいっても大変だから、むしろ私学の評価方式を第三者評価機関に反映させる方が得策ではないか、という意見もあった。
 私立大学といえども、公的補助を受けている以上は評価を受けるのは当然である。しかし、評価機関が国の機関であることには必然性はない。多様な高等教育機関から成る日本の高等教育が、国の唯一の評価機関によって一律的に評価の対象にされるとき、果たして「個性輝く大学」ではなく「画一化された大学」にされてしまう危険はないのか、そのことを問題提起しているのである。しかしながら、参加者には、必ずしもそうした意味での受け取り方や危機意識は強くないように見受けられた。
 ただ、もし独法化した場合の国立大学の自主性を学校法人と同じように考えるのであれば、学校法人になればいいのであって、国立である意味はなく、独法化しても私学と国立大学とはまったく違うのであり、違うのであれば評価の仕方も違うはずであり、私学が国の第三者評価の対象になることはおかしい、という意見も表明された。
 いずれにしても独法化と評価とは相互に切り離せない問題であり、今後も引き続き賛否両論が戦わされる争点であろう。
 独法化も評価も大学と国家との基本的な関係にかかわる、すぐれて古くて新しい課題である。
 現状維持を主張してきた国立大学はようやく政府の意向を受け入れて、しぶしぶ独法化を受け入れ、第三者評価機関の成立には強い反対もなく、関心も薄いようだ。
 私学の方も独法化は私学には関係がないとし、国が私学の質の評価にまで関与してくる可能性にも、ほとんど危機意識も持たないようだ。諸外国の大学と比べると、日本の大学は国立も私立もいかに国や政府に対する警戒心が弱いかに、いまさらのごとく考えさせられた――。

△新刊紹介▽

 高等教育の研究センターと教育課程の国際ガイド
 このほど世界の高等教育の研究センターや教育プログラムをもっている大学、大学院課程を展望したインベントリーが出版された。比較高等教育論の専門学者でボストン・カレッジの国際高等教育研究センター所長のフィリップ・アルトバックが編集したもの。これによると、約30カ国に少なくとも187の研究センターや教育課程があるという。
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 Higher Education:A Worldwide Guide Inventory of Centers and Programs, edited by Philip G.Altbach and David Engberg., published by Center for International Higher Education,Boston College. 341p. 2000. 207Campion Hall, Chestnut Hill, MA02467, USA www.bc.edu/cihe