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アルカディア学報

No.588

グラフで見る私大の動向と私学振興の課題

主幹  西井 泰彦

 更に、大学の設置等に係る認可の基準では、既設学部等の平均入学定員超過率の要件を、現行の1.3倍の基準から、大学は収容定員4000人で区分し、学部等の規模に応じて、1.05倍、1.1倍、1.15倍に段階的に引き下げられることになる。欠格率の引き下げの経緯を図4に示した。
 これらによって、一部の大学に見られる定員超過を抑制して適切な教育環境を確保するとともに、大都市圏への学生集中を抑制することが意図されている。
 今後、都市部の大規模な大学においては、これまでの大幅な定員超過を前提とした大学運営や財政構造を継続することが困難になってくる。学生数を減らさないためには、定員の増加、新学部の設置、学部の分割改組や定員のシフトなどを行う場合も考えられる。定員超過による不交付学部が生じる場合もあるかもしれない。
 私立大学では、学生数の減少によって収入が伸び悩めば、支出の抑制を図らざるを得ない。人件費を抑えるためには教職員数や給与の見直しが避けられず、諸経費の削減や不採算部門の見直しと組織整理なども課題となる。収支がひっ迫すれば、大学の教育条件が劣化し、有形固定資産の更新や充実が困難となる。
 大規模校に限らず中小規模校も含めて学校間の競争が激化し、大学を存続させ、充実させる真剣な取組みが求められる。

四. 18歳人口の減少
 私立大学の入学者数を左右する最大の要素は18歳人口と進学率の動向である。文科省が例年作成している高等教育機関への進学率等の推移では、3年前の中学校卒業者及び中等教育学校前期課程修了者数を基礎にして18歳人口の動向が示されている。図5のとおり、過去、二度のピーク時を経過して、最近は120万人前後の横ばいが続いてきた。2018年以降はこれを割り込む時期となり、110万人台の後は100万人台となる。
 厚生労働省の人口動態統計の年間推計によると、2015年に生れた日本人の出生数は100万人を僅かに超える程度であった。18年後には確実にこのレベルを下回る。国立社会保障・人口問題研究所の『日本の将来推計人口』(2012年1月)では、図6のとおり、1050年頃の出生数は中位推計で60万人未満と推計されている。

五. 進学率の上昇
 大学への進学率は1960年には大学と短期大学を併せても10%程度であった。18歳人口の減少期を中心に大きく上昇した。高等教育への進学者の割合が50%を超えたのは1987年頃であり、マーティントローが指摘したユニバーサル段階に達した。現時点(2015年度)では、大学51.5%、短期大学5.1%となっている。これに専門学校の22.4%を加えると、高等教育機関への進学率は79.8%となった。経済情勢の影響もあり、ここ数年は若干の下降ないし横ばいとなっている。これまで急上昇した四年制大学への進学率を国公私立ごとに区分すると、図7のようになる。圧倒的に私学の割合が大きい。1960年度と2015年度を比較すると、国立は2.4%が8.4%、公立は0.6%が2.9%、私立は7.3%が45.3%となった。同年齢層の5割以上が4年制大学に進学する時代となっており、そのうち8割が私大に進学している。日本の高等教育の普及は私学が担ってきた。国民の大多数の知的水準のレベルアップのためには私学教育の充実が不可欠である。

六. 大学規模の縮小
 大学等への進学者の総数は18歳人口と進学率の動向によって大枠が規定される。
 18年後の18歳人口を100万人とし、大学進学率を現状の57%と仮定すると、大学への入学者は57万人となる。現時点の大学入学者数は約62万人であり、国立10万人、公立3万人、私立49万人で分け合っている。単純計算で5万人が減る。この減少分はどこが吸収することになるのか。5万人を現在の国公私の入学者の割合(国立16.3%、公立5.0%、私立78.7%)で割り振ってみる。国公私の平均の入学者規模は(国立1170人、公立348人、私立805人)である。それぞれの減少分を学校数で換算すると、国立7校、公立7校、私立49校、合計63校程度の減少幅に相当する。大学への進学率が上昇する場合には減少幅は少なくなる。大学、短大及び専門学校への進学率のシェアが変化する場合にも大学の減少幅は異なった経過になる。留学生、社会人、高齢者等の入学者数が各年度5万人以上に増加すればパイは減らない。
 いずれにしても、今後の動向は楽観できない。入学者が減らない大学もあるし、大幅に減少する大学も発生する。不公正な競争環境を是正しなければ、国公私間や私々間の一層の格差や不均衡が拡大する恐れも大きい。
 私立大学においては、学生が集まらなければ学生納付金の減少を招き、財政的な窮迫に直結する。高等教育の大部分を担っている多くの私立大学が健全な財政運営が困難となれば、教育環境が劣化し、教育条件が下降する。日本の次世代の発展に向けた知的資産の形成と優れた人材の育成が困難となる。 
(おわり)