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アルカディア学報

No.548

学習成果(アウトカム)評価を如何に改善に生かすか

研究員  篠田 道夫(桜美林大学教授)

問われるアウトカム評価
 2008年の「学士力答申」以降、学習成果、アウトカム評価は大学改革の重要な論点となっている。答申では「我が国の大学の大きな問題の一つは、教育内容・方法、学修の評価を通じた質の管理が緩いということである」とし、これを放置すれば、国内外からの信用を失うと強い危機感を持って提起している。答申で示された「学士力」や各大学の学位授与方針に即して学生の学習到達度が的確に測定・把握され、またそれが授業改善や教育の質向上に生かされているかが問われている。
 これまでの教育改革は、どのようなカリキュラム、授業内容を提供するかという教える側からの改善方策が中心であった。今日求められているのはそれによって学生が実際に知識を身に付け、使いこなし、成長したかにある。教える側の自己満足ではなく学習の到達で教育の良し悪しを判断する視点は、学生本位の教育への転換の根幹をなす。
 しかし、この肝心の評価方法は確立しているとは言い難い。学習成果の評価は、多くの大学が、単位取得、GPA、学位授与、国試合格率、就職率などで行っているとされるが、これだけで教育目標への達成度を測るのは困難だ。学習成果の本来の趣旨「一定の学習期間終了時に、学習者が知り、理解し、行い、実演できる力」「獲得した知識、スキル、態度」全体の測定、評価にはなっていない。評価のためのアセスメント、学習行動調査、ルーブリック、ポートフォリオなど様々な手法が中教審等でも紹介されている。では実際それをどう使うのか、日本の大学の実態に合った学習成果の評価システムの構築が求められている。金沢工業大学の事例、CLIP(Comprehensive Learning Initiative Process)による学生総合力評価システムと教育改善のPDCAはこの点で先駆的な試みであり、アウトカム評価の方法、その改善方策の在り方に大きな示唆を与えるものである。

評価を徹底して改善に生かす
 金沢工業大学の教育は、すでに高い評価が定着しており、これを維持し改善を持続するため、徹底した評価に基づく改善のマネジメントが大学全体で行われている。
 まずは外部評価の活用。経営の健全性は日本経済生産性本部の日本経営品質賞(JQA)や全国企業品質賞の受賞で、大学は大学基準協会や高等教育評価機構の認証評価、JABEEを活用し本気で内部改革を行う。内部評価も入試改善は入学者満足度アンケート、教育改善は授業結果、卒業生満足度アンケート、修学ポートフォリオ、キャリア支援改善は企業満足度アンケートなどから実態に基づき徹底して評価、改善する。
学習成果の評価システム
 そして、その中に学習成果評価システムも位置づく。まずは図1、学生総合力評価の仕組みをご覧いただきたい。この図は「本学では、人間力を学力とともに重視し、学力×人間力=総合力とする評価方法を展開しています。...その内容(手段と能力)は、従来手段によってのみ成績評価を行ってきたものに、新たに能力に相当する項目を導入し総合力として評価します。全ての授業科目において、この評価割合を示しており、その結果、学力(知識を取り込む力、思考・推論・創造力)と人間力(コラボレーション・リーダーシップ、発表・表現・伝達力、学習姿勢・意欲)との両面から評価することが可能となっています」と説明されている。
 図で示した評価欄は学習支援計画書の中にあり、この計画書では、まず科目ごとの学習教育目標が設定され、授業の概要と学習への助言が書かれ、学生が達成すべき行動目標が示されている。計画書の2枚目に学習目標の具体的な達成レベルの目安が示され、試験、小テスト、レポート、成果発表、ポートフォリオ、その他個人面談等の評価が行動目標ごとに細かく記載できるようになっている。
 しかも優れているのは、この評価を確実に改善まで結びつけるシステムが構築されている点だ。これが授業点検シートだ。まず、点検項目として横軸に授業支援計画書に記載の授業内容・授業運営の目標や点検すべき項目が置かれている。これに対し縦軸に、評価結果、授業アンケート、学生面談、授業参観、他教員からの情報など評価の根拠となる情報が記載され、その具体的データに基づく評価から、①良好②改善の余地あり③要改善の三段階でチェックが行われる。改善が必要な場合はアクション欄に改善案と期待される効果を記載するというものだ。
教育改善のPDCA
 つまり構造としては、図2「教育プログラムの点検評価と改善のためのPDCA」にある通り、まずDの中にある「授業科目の改善PDCA」で、学習支援計画書と点検シートにより学習成果を評価し、個々の授業改善を図り、それが図2全体の、教育カリキュラムの策定(P)―カリキュラムの運用(D)―運用結果の点検(C)―評価と改善(A)の大きなサイクルが回り、学科・コース全体の教育改善が進むという二重の構造を作り上げている。
 こうしたシステムが、個々の学生の実態に即して機能する背景には、教員の熱心さに支えられた学生への個別指導、KITポートフォリオシステムがある。ここには学生が、今週の目標、優先順位と達成度、出欠・遅刻、学習・課外活動、努力したことや反省点、困ったことなどを記載する。これが自己実現の目標設定(P)―達成のための活動プロセス(D)―達成度自己評価(C)―改善計画(A)となり成長の軌跡が可視化される。毎週、クラス担任や修学アドバイザーに提出されコメントをつけて返却される。
 これにより、教育改善サイクルとしてのPDCA、授業改善サイクルとしてのPDCA、ポートフォリオでの学生生活のPDCAの三つの複合的な教育改善・学生育成サイクルを機能させ、教育の質向上を図る実効性ある教学マネジメントを構築している。学習成果評価を如何に改善につなげるかの優れた事例と言える。