アルカディア学報
高大接続プログラムの意味
最近の話題のひとつに、高大接続という視点からの入試の在り方がある。多くの大学が今後開発されるであろう「達成度テスト発展レベル」を入試においてどのように活用していくのかについて検討し始めていると聞く。今回はテストとは少し異なる教育プログラムの接続という視点からアメリカにおける高大接続プログラムについて紹介してみたい。
近年、日本では少子化が進展する状況において、大学や短期大学にとっていかに学生を確保するかは最も優先すべき課題となっている。多くの大学、特に私立大学においては関係する高校の系列化を積極的に推進しているだけでなく、提携校、連携校の増加にも積極的である。日本での大学と高校との高大接続は、オープンキャンパス、体験授業、高校出張授業などが代表的な例である。一方、米国の大学においても高大連携や接続は活発であるが、その方法が日本の高大連携や接続とはかなり異なっている。長い歴史をもち、米国国内のみならず現在では国境を越えて普及しつつあ
るAP(Advanced Placement Program)とエクステンションプログラムの中で主に実施されている高校生を対象としたコンカレント・プログラム(Concurrent Program)を米国版高大接続という枠組みで検討してみよう。
APプログラムとその効果:APプログラムは、中等学校の生徒に大学レベルの授業を受ける機会を与え、授業終了後に実施されるAPテストの結果に基づいて、大学入学後には単位を認定するというプログラムである。非営利団体であるカレッジ・ボードが運営し、TOEFLなどを実施しているETS(Educational Testing Service)がAPテストを作成している。APプログラムを通じて取得した単位は、APテストに合格した場合、大学入学後に卒業に要する単位として換算されることが可能になる。APプログラムは、高等学校在学中に受講することから、通常は高校にAPコースが設置され、カレッジ・ボードでAP科目の研修を受けた高校教師がAP科目を教える。高校にAPコースが設置されていない生徒も個人学習によってAPテストを受けることも可能である。また、モティベーションの高い高校生なら誰でもアクセスが出来るというこの制度を通じて、高校に通学せずにホームスクーリングを受けている若者もAP科目の受講と試験を受けることもできる。
APプログラムは、米国の高大接続の代表的事例であり、早期から大学レベルの学習を経験することにより、大学での学習に円滑に移行するという効果を持っている。APプログラムは、本来優秀な生徒に早期から大学レベルの科目を履修させることで、大学への適応を支援するいわばエリート教育の一類型であったが、最近では大学進学を希望する生徒は誰もがアクセスできるようなプログラムに変容してきている。さらには、従来、APコースは高校の最終学年を対象にしていたが、対象学年が拡大する傾向にあり、事実、高校低学年次生徒の履修率が全履修生徒の5割程度を占めている。また、マイノリティ学生の動機付けプログラムとして促進させようとしている州もある。大学がどこまでAPプログラムの単位を認めるかという点でも、大学によっては単位制限をしているところもあるなど多様性がある。アメリカの高校では、多くのAP科目を履修する高校生の比率はそれほど高くない。APプログラムの展開と普及には、高大接続といった点からみれば、どこまでが高校(中等)教育で、どこからが大学教育であるのかが不透明になる危険性を伴っているが、高校の教師がAP科目を教えるという点に高大接続の意味があるのも事実である。アクティブ・ラーニングを主体とする教授法が取り入れられているアメリカの中等教育であるからこそ、大学での低学年時科目との共通性がある程度見られる理系科目だけでなく、文系、社会科学系科目での高大接続が可能となり、高校教師と大学教員が教授法や科目が目標とする成果を共有することもできるからである。
高大接続に活用するコンカレント・プログラム:エクステンションと呼ばれる拡大授業プログラムを通じて大学の授業を履修できるシステムであるコンカレント・プログラムは大学側を主体とした高大接続プログラムである。
コンカレント・プログラムは、大学が提供している科目履修の前提条件を満たしていれば、誰もがエクステンションを通じて履修することができ、履修し終えた際に、単位を取得することができるシステムである。一般の社会人、他の大学の学生、正規留学が認定されていない外国人学生、そして高校生などあらゆる人々がこのコンカレント・プログラムを通じて大学の授業を履修することが可能である。
実際、コンカレント・プログラムを積極的な高大接続プログラムと位置づけて、高校生にコンカレント・プログラムに参加することを奨励している大学も少なくない。例えば、コロラド大学ボールダー校ではコンカレント・プログラムを通じての高校生の大学の授業の履修を積極的に受け止めており、そこで履修した単位は高校の卒業単位としても認定されるようになっている。テキサス州のあるコミュニティ・カレッジでは、二重単位取得型コンカレント・プログラムを導入している。このプログラムは、高校に在籍しながら早期に大学での学位取得を同時に目指すことができるように設計されており、高校三年次から本プログラムに参加した場合には、卒業までに最大限30単位の大学の単位の取得が可能である。このプログラムを履修する高校生にとっての最も大きなメリットの一つは、通常の大学の科目を履修するよりも、このプログラムを通じて大学の科目を履修する方がはるかに低価格で済み、奨学金など金銭補助の対象にもなっている点である。さらに、大学レベルの科目の単位取得を通じて、早期から大学での学習生活へのスムーズなスタートにつながり、実際に大学に進学した場合には、自信をもって大学生活を送ることができることも大きなメリットである。一方で、早くからこの大学への進学を決定する必要があるなど選択の幅が狭まることも付随している。
AP科目を履修した場合には、AP科目試験に合格しなければ大学での単位を取得できないのに対し、二重単位取得型プログラムにおいては、科目を終了し単位を取得できれば、直ちに大学でも通用する単位としてその単位が認定されるということ、二重単位取得型プログラムの科目を担当している教師は実際の大学の教員であるということも大きな差異である。このように、近年米国では従来から存在していた高大接続プログラムをより拡大あるいは普及させてきている。
最近ではグローバル化を目指す中国や韓国では、早期からアメリカの大学進学を目指している高校生にAP科目を履修させるなど積極的な展開を図っている。日本では、グローバル化を目指しAPプログラムを高校段階で積極的に展開するのか、大学が主体としたコンカレント・プログラム型高大接続プログラムを展開し、高校との連携を拡大していくのか、残念ながらその方向性はまだ見えていないのが現実であろう。