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アルカディア学報

No.5

国立大学の「独法化」は私立に何をもたらすか
第1回公開研究会の議論から(1)

主幹 喜多村和之

 第1回公開研究会の議論から(1)

 去る8月2日に開催された当研究所主催の第一回公開研究会には、90名を超える方々のご参加を得て、国立大学の独立行政法人化問題と、今年4月に発足した大学評価の第三者機関「大学評価・学位授与機構」が、私学にとってどのような意味をもつかというテーマについて、2時間半にわたって熱心に議論されたことは、本欄で既報のとおりである(本紙8月9日付)。
 まず問題提起者の喜多村和之・当研究所主幹と濱名篤・関西国際大学教授(当研究所研究員)が、この問題が私学に及ぼすと考えられる影響と、日本の高等教育にとっての問題点について私見を述べたが、その骨子は本紙の7月26日号、8月2日号、8月23日号の本欄に提起者自身が執筆しているので、ここではその問題提起に対して行われた質疑や討論の部分を取り上げてみたい(なお公開研究会の全容は、いずれ当研究所の出版物として発表される予定である)。
 問題提起者の側は、国立大学の法人化問題は、決して国立大学だけのコップのなかの嵐にとどまるのではなく、私学にも大きな影響を及ぼすこと、それにもかかわらず、そのことについては多くが不明確なままに制度化が進められていること、このままでいけば高等教育に対する公的資源の貧困さを、あたかも効率化や市場原理の適用によって隠蔽されることになりかねないこと、現在のスタートラインからの国公私格差を前提としたままでの競争原理の導入は公正な競争に成り得ないなどの問題点を強調した。
 とくに、国立大学とはそもそも誰のものなのか、決して文部省や国立大学関係者だけのものではなく、税金を払っている国民のものであることを主張した。したがって国立大学の財産等は独法化後誰に所属することになるのか、独法化が或る意味で「私学化」であるとすれば、種教職員の身分はどう変わるのか、文部省の従来の設置者行政にどのような変化をもたらすのか、さらには私立大学の経営や学校法人の在り方にどのような影響を及ぼすのか、といった問題も提起された。
 独法化の問題に対しては参加者の側の関心は必ずしも高くはなかったように思われる。おそらく独法化ということの意味やそれによってどんな変化がおこるかについて、必ずしもはっきりしたイメージや理解がまだ得られていないからではないか。それはこれまでこの問題では文部省は国立大学関係者にのみ語りかけ、議論も国立大関係者の間だけで議論され、私学関係者は蚊帳の外におかれてきたこともひとつの原因であろう。ようやく最近になって文部省が独立行政法人化の問題を検討する会議を設置して、私学関係者も委員に加えた形で審議をはじめている。せっかく審議するのならば、国立大学の独法化は私学に対して、ひいては日本の高等教育の在り方に、とりわけ制度や財政にどのような意味をもつのかという、基本的な問いにかかわるような本格的な審議の場にしてもらいたいものである。
 ただ独法化された場合にこれまで経営というセンスも経験もない、違ったカルチャーの国立大学に経営者がいったい出てくるのか、またこれまで右肩あがりで来て経営センスなしでもやって来られた私立大学でも、これからは本当の意味での経営責任が問われるが、それに耐えうる経営者をえられるのか、という問いかけがあった。まさにこれこそ国立とともに私立が当面するもっとも緊急な課題であろう。いずれにしても国立であれ私立であれ、これからは専門知識や経験、何よりも高等教育に見識をもった経営者や管理者の人材を焦眉の急としていることにかわりはない。
   また法人化後の教職員の身分が公務員型になるのか否か、大学間の給与格差の問題はどうなるのか、といった人事の問題も提起された。独法化後給与水準や学生定員、さらには学生納付金等も各大学で決められるようになるとしたら、教職員のスカウトや人事交流の面でも、学生募集や研究費の確保の面でも国公立私立間の競争が激化する可能性があろう。しかし独法化によって国立大学には自主性が強化されるという議論がさかんに行われているが、その自主性の中身は十分に議論されていないという指摘もあり、この点は現在も不明確なままである。独法化は国立だけの問題と対岸の火事とみている私学関係者が少なくないとは、この問題を取材しているベテラン新聞記者の言である。

▽ご案内△
【私学高等教育研究所主催・第2回公開研究会】
 ▽日時=平成12年9月18日(月)・午後5時30分~8時

 ▽場所=アルカディア市ヶ谷(5階、穂高・西)
 ▽テーマ=私学政策の在り方を点検・評価する――私大の助成と規制
 ▽問題提起者=①田中敬文・東京学芸大学助教授(当研究所研究員)、②市川昭午・国立学校財務センター教授(当研究所客員研究員)
 ▽内容=日本の私学行政はいかにあるべきか、従来の私大経常費助成方式はこのままでよいのか――。
 最近、政策の効果を事前に予測し、政策実施の結果を事後および実施過程で客観的に評価する「政策評価」という考え方が行政改革の一環として実施されようとしています。そこで私学への助成と規制を含めた従来の私学政策の実績はどのように評価され、今後の私学政策はどうあるべきか、高等教育の経済・財政の専門家であるお2人の論客から、縦横な問題提起をしていただきたいと思います。
 参加者各位から、私学政策の在り方に関して、闊達な討論をしていただきたいと思います。どなたでもご自由にご参加ください(入場無料)。