アルカディア学報
韓国における留学生受入れ 地方大学の現状と政策
韓国の留学生受入れ政策
韓国では日本以上に深刻な少子化の影響で、将来優秀な国内人材の不足が予想されており、高度人材としての外国人材の受入れと支援が注目されている。二十一世紀に入り、高等教育機関への外国人留学生の受入れは、教育貿易収支の赤字の改善という意味でも積極的に進められている。
2004年に開始した外国人留学生の受入れ推進政策「Study Korea Project」は着実に成果をあげ、2000年にわずか4000人であった受入れ留学生数は2011年には9万人弱と急増した。一方で、留学生支援・管理の不備が問題となっている。特に定員割れを起こしている地方私立大学の中には、留学生の学費を韓国人学生より大幅に減額し留学生で学生数を確保する大学、不良ブローカーが中国で留学生をリクルートするものの留学後の教育・管理が不徹底な大学も出現した。
それを受けて2011年9月、留学生管理の質的向上を目指し「外国人留学生受入れ・管理能力認証制」の導入が発表され、同年に早速実施された。これは大学の留学生管理に責任を持たせるものであり、留学生を受入れている346大学を対象に、留学生管理状況が下位15%の大学を失格候補とし、下位5%(2012年以降は10%)に対しビサ発給を制限するなどの厳しい政策である。韓国は、10年足らずで人口比でいえば日本と同程度かそれ以上の規模の留学生受入れを実現したが、その背景として、大統領からのトップダウン体制の政策展開によるスピーディーな政策の実施も一因となっていると思われる。
韓国の地方大学と留学生受入れ
韓国は全国16の行政区で構成されているが、首都ソウルにヒト・モノ・カネが集中し、地方の脆弱化が目立っている。地方大学は平均して学生の定員充足率の低下、経営状況の悪化に苦しんでいるが、留学生政策は中央から一方的に推進されてきた。しかし、「英語を教授言語とする専門講義の割合を高める」「より多様な地域から留学生を受入れる」などの政府の方針は、国内の学生からも選好度の低い、高学力学生を集めることの難しい大半の地方大学の実状と乖離したものであった。なぜなら地方大学では受入れ留学生の八割以上が中国人であり、英語どころか韓国語で行われる講義の受講もままならず、不法に就労する留学生や、退学する留学生の多さが問題になっているような状況だからである。そのような中で昨年より、地域の現実に即した留学生受入れの動きが見られている。2011年夏、全羅北道は韓国内で初めて、道庁内に「企画管理室教育法務課留学生誘致担当」という名称の地方自治体として留学生の積極的な受入れを行う専門部署を設置した。さらに京畿道では2012年2月、同様の専門部署を立ち上げ、地方自治体としての独自の受入れ政策を発表した。
韓国の地方大学と中国人留学生受入れ
前述の二つの地方自治体はどちらも対象を「中国人留学生」とすると明言しているが、韓国の地方大学が中国人留学生を積極的に受入れようとする理由は、地域によっては九割近くと受入れ留学生の圧倒的多数を中国人留学生が占めているためである(全国平均7割)。
プギョン大学のチョンほか(2010)は、「韓国と中国の文化交流の増大や地理的な近さを受けて両国の留学生交流は盛んになっているが、首都圏の大学と比較し地方の大学には教育支援、環境、政策など問題点が多いため、中国人留学生のニーズに合わせた特色ある教育環境を用意することが大事だ」と述べている。チョンほか(2010)には中国人留学生のニーズを把握するため2007年から2009年、地方三大学において中国人留学生600人を対象に質問紙調査を実施し、中国人の韓国地方大学留学の実態を分析した研究がある。それによると、問題点として大学の留学生受入れインフラ不足、大学の管理体制の未整備、出入国管理が「コントロール」重視である点、奨学金の規模の小ささが指摘されている。一方で留学費用の安さ、寄宿舎収容率の高さなど首都圏の大学と比較して有利な点があることも示された。教育科学技術部の発表(2012)によると、2011年の地域別留学生寄宿舎収容率はソウルでは24.2%であるが、チョンほか(2010)の調査が実施された大学が位置する自治体である忠清南道では53.2%、忠清北道では41.2%となっている。
京畿道の留学生受入れ政策「中国人の韓国留学のアイコン:京畿道」
京畿道の留学生受入れのスローガンは「中国人の韓国留学のアイコン:京畿道」である。京畿道の2010年の受入れ留学生数は6705人、うち約八割を中国人留学生が占めていた。その中国人留学生の約四割が反韓感情を持っているという調査結果から、次世代を担う高度人材である中国人留学生に親韓感情を持たせ、京畿道と韓国のブランド価値を向上させるための政策を準備したという。道は京畿開発研究院との研究をもとに「道外国人受入れ戦略及び管理計画」を樹立し、「道・大学・地域中小企業」の連携で留学生の受入れ・管理支援システムを構築する。優秀な中国人留学生を受入れ、快適な大学生活を提供し、卒業後の就職や帰国後の継続的なフォローを実施することにより京畿道のブランド価値向上を目指すというものである。
まず、地域の83大学(うち大学38校、専門大学34校、大学院大学11校)の国際交流所長で国際交流所長協議会を構成し、中国人留学生管理を厳格にする一方で京畿道外国人人材スクールを設け地元企業への就職を促進する。帰国する学生に対しては人材プールを構成して持続的な管理支援を行う。そのほか具体的な事業案としては、中国における入学説明会の開催、中国人留学生就職説明会の開催、留学生対象のホームステイ登録制の実施、京畿道独自の大学認証評価制度の導入、道立国際学生寮の提供、留学生就職支援システムの構築、外国人留学生定着支援プログラムの導入などがあげられている。2012年の道の予算13兆2400ウォンのうち1億2200ウォンが「外国人留学生受入れ支援」に使用される予定である。
日本への示唆
日本では2011年5月の時点で語学研修生を含め10万5000人の中国人留学生 を受入れており、最も多く受入れている留学生となっている。寺倉(2011)が指摘するように、日本が30万人の留学生受入れを目指すのであれば、中国人留学生の受入れが鍵となるであろう。現在、日本においては留学を終えた者の7割以上が帰国している(JASSO,2012二)が、少子高齢化が一層深刻になる今後、労働力の確保という意味でも、親日・知日の高度職業人候補である中国人留学生をいかに地域に呼び込み、根付かせるかということは、考慮すべき事項である。
日本においても韓国と同様に少子高齢化の進行が深刻な点・雇用機会が不足している点などで留学生の受入れ先として不利な立場の地方だが、物価が安い点・大学内寄宿舎や公的宿舎の整備率が高い点など、大都市と比較して有利な面もある。地方自治体が主導して地元大学・地元企業と連携することで、地域に合わせた効果的な留学生受入れ戦略が実施される可能性はあるだろう。
日本の地方大学・地方自治体が抱えるものと類似する問題をどのように解決していくのか、全羅北道や京畿道のこれからの動向に注目したい。