アルカディア学報
学校法人の在り方⑨
問われる理事会の役割 機能強化に向けた中長期経営計画
改正私立学校法は、平成17年4月1日から施行されている。同法改訂の趣旨は、「近年の急激な社会情勢の変化に適切に対応し、諸課題に主体的、機動的に対応するため法人の管理運営制度を改善すること」である。具体的には、学校法人における管理運営機能の強化と財務情報等の公開などが求められている。
制定以来、初めて大幅に改訂された私立学校法は、平成15年10月の大学設置・学校法人審議会「学校法人制度の改善方策について」の答申を受けて行われた。同答申においては、少子化など昨今の学校法人の経営をめぐる厳しい社会・経済の情勢に的確に対応し一層の安定した学校運営を行うため「理事機能の強化」等を始めとする事項が挙げられていた。「理事機能の強化」については、①理事会を学校法人の業務に関する最終的な決定機関として法令上の位置付けを明確化すること、②学校法人の運営に多様な意見を採り入れる観点から理事に外部の人材が適切に任用されるようにすること、③最低限理事会として決定しなければならない事項とそれ以外の事項を整理し明確にすること、④理事会による機動的な運営を図りつつも、運営の適正化・公共性をより高めること、などが主な改善方策であった。
理事会機能の強化
この私立学校法改正により、理事会が法律上明記され、理事会は法人業務を決し理事の職務執行を監督すること、更に理事長は法人を代表し、その業務を総理する、理事会を招集し議長となる、代表権登記も基本的に理事長一人とするなどその権限が強化された。理事会には理事会自体の組織運営を始めとして幾多の課題があるが、最も重要な課題は理事会の経営政策決定・管理運営機関としての機能強化である。
その役割としては、理事会としての明確な経営方針・指針を提示することが不可欠となる。つまり審議内容をより政策段階で具体化することが求められ、そのためには、①政策決定・管理運営機能と執行機能を相対的に区分し、両者の役割と責任範囲を明確にすること、②理事会の経営戦略機能を支援する組織を充実強化すること、が必要不可欠となる。例えば、前者は理事会で決定された政策の執行に責任を負う仕組みを強化するための担当理事制などが求められているものであり、後者は理事会や理事長へ組織的に直結する支援組織としての企画調査部門などの拡充が求められている。
理事会に求められる役割
私立学校法によれば、理事会は学校法人の最高議決機関として位置づけられており、「学校法人の業務を決し、理事の職務の執行を監督する」と定められている。その業務とは、法人業務と法人が設置する学校の管理であり、設置する大学の恒常的管理業務としての人事管理・施設設備管理・財務管理・運営管理などに加え、寄附行為で定められた学校法人の目的及び事業を達成するための事項が含まれる。その運営管理には教育研究も含まれると解されているが、実態は学校法人の目的に則り、主要な事業である教育研究が当該大学において円滑に遂行されるための所与の経営条件・教育研究条件の整備が理事会の役割になっていると言える。それらは、学校法人と大学の関係や組織風土、そして慣例などによって実態に相違が見られる。しかし、教育研究の教育課程の運営、学生の入退学・卒業・懲戒などに関しては、通常、理事である学長の業務執行に対する理事会の監督、学校法人の持つ人事権の行使としての学長などの選任を通して行われていると解すことができる。
そのような権限と役割を持つ理事会の果たすべき主要な役割は、設置する大学の管理業務として、建学の精神や教育目標などの教育理念に基づき、教育研究を実現させるための経営方策を策定し、執行することにある。
経営方策には、教職員等の人的事項、施設設備等の物的事項、財務運営等の財政的事項、組織運営等の運営的事項などが含まれると考えられ、当該法人の経営方策としての経営計画などとして策定されることが多い。つまり、管理業務と学校法人の目的及び事業を当該法人において具現化していく手段として、経営計画などがある。
理事会の機能と中長期経営計画
厳しい経営環境のなかにおける学校法人は、経営の諸条件としての4Mである人・物・財―金・運営―マネジメントが必要に応じて確保できれば理想的であるが、実態としては人・物・財についての経営条件に一定の制限枠が生ずる場合が多い。いずれかの経営条件の削減と重点的な配分が不可欠となり、先見性や特色化などにより経営条件の不足を補うことも必要になってくる。その際、最も重要となるものは経営計画であり、それらの限られた資源としての経営条件を有効活用するために重点的に投下するための指針となり得るものである。つまり、総合的、中長期的な経営計画なしには、理事会機能の強化は望めないと言っても過言ではない。そのためには、中長期経営計画に基づいた運営計画・目標を効果的に実施し、その推進を図るためにマネジメント・サイクルの確立を積極的に行うことが必要となる。
中長期的な視点に基づき策定される経営計画は、構成員である教職員が共有することが求められ、当該年度の運営計画(事業計画)を立案・実施・評価・改善するための方針となるべきものであるとともに、教育職員の教育研究活動、事務職員の運営活動などの到達目標となるものである。教学・事務の各部署においては、経営計画に基づき立案される当該部署の中長期的な視点からの運営計画とその計画を達成させるための各年度における年間運営計画を策定することが求められる。加えて、教職員自らが年間業務の年間目標を立てることも必要不可欠となる。
また、各部署で立案される年間運営計画の立案に当たっては、前年度の年間運営計画の成果を踏まえたうえで、当該年度における運営計画を立案することが必要となり、その際、特に重視すべき事は前年度の運営成果との連続性である。
まとめ
中長期経営計画は、理事会の機能強化の一つの手法であるとともに、大学経営管理の円滑な実施に必要不可欠なものであるにも拘らず、その重要性と位置づけは理事者・教職員に充分に理解されていないことは多く、理解されていたとしてもその実施体制が未整備であると考えられる。
中長期経営計画実施上の課題としては、大学全体の教育研究・運営管理活動を総合的に捉え、経営課題を動態的に解決するための指針と位置づけ、それを具現化するために単年度の運営計画や事業計画を立てることが求められる。また、中長期経営計画の策定にあたっては、当該大学の教育目的や人材育成目標が経営計画の各領域とどのように繋がっているのかを体系的に明確にするとともに、経営計画の各領域間に有機的関連性を確保すること、つまり体系化と関連化を図ることにより機能的な計画として立案することが要事となる。