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アルカディア学報

No.457

学校法人における会計基準 成立過程・特性・役割と課題

研究員 石渡朝男(学校法人和洋学園常務理事・事務局長)


学校法人制度
 学校法人会計制度に深い関連を持つわが国の学校法人制度は、明治31年の文部省令により、私立学校に対し社団もしくは財団法人の手続化が通達されており、それ以前は自然人、すなわち個人でも設立が認められていた。翌明治32年に早稲田等10法人が認可され、明治43年には全学校数の56%が法人化され、さらに大正7年の大学令により、私立大学は全て財団法人であることが義務化された。なお、財団法人が現在のような学校法人に切り替わったのは、戦後昭和24年の私立学校法の制定によるものである。
 学校法人と私立学校との関係は、私立学校法は私立学校の設置者としての学校法人に対し、その設立・管理等について規定している。また学校教育法では、「学校の設置者は、その設置する学校を管理し、その学校の経費を負担する」と定め、学校法人がその学校を管理することを明示している。このように学校法人は、学校の設置を目的とし、教育その他の活動を含めて法人が最終的に責任を負う独立の法人格であり、権利義務の主体としての資格が認められている。
 私立学校は、あくまでも私的発意によって設立され、自主性によって運営されることをその本質としており、私立学校法1条では、「この法律は、私立学校の特性にかんがみ、その自主性を重んじ、公共性を高めることによって私立学校の健全な発達を図ることを目的とする」と規定している。すなわち「自主性の尊重」、具体的に言えば建学の精神および伝統といった教育の自主性が尊重されなければならないというのが私立学校の基本的な役割であり、また特性でもある。
 しかしその一方では、私立学校といえども国はその学校の設置、経営を公共的性格をもつ学校法人にのみ認め、私立学校を社会的存在として社会全般に貢献・奉仕することを求めており、公教育を担う私立教育機関としての「公共性を確保」している。
学校法人会計基準の成立過程
 わが国の高等教育の大衆化と多様化が進む中で、公教育を担う私立大学の重要性が増し、国庫補助の必要性が社会にも理解されるようになった。このような世論を受けて、昭和42年、臨時私立学校振興方策調査会がその答申で、私立学校に対する経常費補助の必要性・重要性を認め、国民から徴収した税金その他の貴重な財源から一定額を充当することにより、私立学校の人件費を含む教育研究にかかる経常的経費に対する私立学校経常費補助金制度が昭和45年に創設された。その後、私学財政の悪化や教育条件の国・公立学校との格差が拡大したことから、私学助成についての法律制定の声が高まり、その結果議員立法という形で昭和50年に制定、翌昭和51年に施行されたのが私立学校振興助成法である。この法律は、私学の教育条件の維持及び向上、保護者の経済的負担の軽減、さらに学校法人経営の健全性を高めることを目的とし、私立大学の教育研究のための経常的経費について、その2分の1以内を補助することができるとしている。
 ところで学校法人の会計は、学校法人会計基準(昭和46年文部省令第18号)が制定されるまでは共通の一般原則がなく、それぞれの学校法人でまちまちの方法で処理されており、その方法は必ずしも合理的なものではなかった。そのような状況の中で、財務基準の必要性が高まり、昭和43年、文部省内に学校法人財務基準調査研究会が設置され検討の結果、昭和45年に学校法人会計基準を内容とする「学校法人の財務基準について」という報告が文部省に出された。同じ年に私立学校法の一部が改正され、経常費補助金の交付を受ける学校法人は、必ずこの基準に従って会計処理する義務が課せられ、会計基準を省令で公布することが必要となった。そこで、財務基準調査研究会報告を基に基準の検討が進められ、昭和46年に統一会計処理基準として制定・公布・施行されたのが学校法人会計基準(以下「会計基準」という)である。
学校法人会計基準の特性
 会計基準2条では、学校法人の特性から、会計処理と計算書類の作成に当たっては、「真実性」「複式簿記の原則」「明瞭性」そして「継続性」の四つの原則を掲げ、さらに4条では、学校法人が作成しなければならない計算書類として、企業会計で求める計算書とは一部異なる学校法人独自の計算書の作成を求めている。また、企業会計にはない独自なシステムとして、29条で基本金について、「学校法人が、その諸活動の計画に基づき必要な資産を継続的に保持するために維持すべきものとして、その帰属収入のうちから組み入れた金額を基本金とする」と定義しており、自己資金を留保した上で収支を見る仕組みを採っている。
 国立大学法人の財政構造が、施設設備費を含めて国庫にその多くを依存しているのに対し、学校法人における施設設備の取得は原則自己資金をもって行うとの違いがあり、基本金制度のねらいはここに存在する。
 さらに、企業会計では資本と利益が区分され、その収入源泉も区分されているのに対し、学校会計では消費支出に充てる収入と、基本金の対象資産に充てる収入とが必ずしも区分されていない。
学校法人会計基準の改善点
  学校法人会計基準は、制定後、学校法人の会計実務に広く定着したが、主として基本金に関し、運用面で計画的組入れが不明瞭な点も多くその改正が要望され、昭和58年に文部省高等教育局に学校法人財務基準調査研究協力者会議が設置され改善作業に着手し、昭和62年に「学校法人会計基準の改善について」の最終報告が合意決定された。その後この作業は文部省高等教育局に委ねられ、同じ年に文部省令「学校法人会計基準の一部改正について」が制定され、翌昭和63年に施行された。その内容は、主として基本金に係る会計基準30条に関することであり、第1号基本金と第2号基本金を整理し、第2号および第3号に規定する基本金への組み入れは、固定資産の取得又は基金の設定に係る組入計画に従って行うものとし、さらに第4号基本金に規定する恒常的に保持すべき資金の額を、別に文部大臣の定める額とし、統一的な基本金組入れを行うことにより、かつて一部で言われていた黒字隠しで恣意的な基本金組入れとの批判を排除した。
 その後、平成16年の私立学校法の改正に対応して、会計処理の合理化や、経営状況の明確化が求められたことから、文部科学省内に、公認会計士、私学経営者等の有識者による学校法人会計基準の在り方に関する検討会が設置され、平成16年に「今後の学校法人会計基準の在り方について(検討のまとめ)」が取りまとめられた。この取りまとめを受け、基本金取崩しの要件及び注記について所要の見直しが行われ、「学校法人会計基準の一部を改正する省令(平成17年3月31日、文部科学省令第17号)」が公布され、平成17年度以降の会計年度にかかる会計処理及び計算書類の作成から適用されるに至った。改正の内容は、基本金取崩し要件の見直しと計算書類の末尾に記載する注記事項の追加の二点である。基本金取崩し要件の見直しについては、経営の合理化、将来計画等の見直しを行った場合にも、取り崩すことができるように改定された。
今後の課題
 そもそもわが国の私学に対する補助金制度の発足がきっかけであった会計基準も、制定以来既に40年が経過するが、時代の変化、環境の変化に伴い、これまでに数次にわたる改正がなされてきており、今や学校法人の会計制度として定着した。
 この基準の制定・施行により、制定の趣旨である各学校法人の会計基準の統一化が図れ、さらに適正な会計処理がなされ、私学財政の健全性の向上に大きく寄与した。また最近では、計算書の注記事項の充実や財務情報のホームページ等による開示により、公共性の強い学校法人として広範囲なステークホルダーに対する情報公開と説明責任を果たしている。
 このように会計基準は、学校法人における会計制度として機能し効果を上げてきたと認識しているが、いまだに基本金制度の見直しや、最近になってキャッシュフロー計算の導入等、方向としては企業会計の一部導入の意見もある。社会一般に理解しやすい制度への見直しの必要性を全面的に否定するものではないが、学校法人の特性に十分配慮して検討していくことが重要である。