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アルカディア学報

No.446

学校法人と大学の関係を考える 私大運営の基本問題

主幹 瀧澤 博三(帝京科学大学顧問)


学校法人の在り方①

 時代の変化の潮流とともに、大学の変化が激しい。大学が変わるということは、その設置者である学校法人が変わることでもある。反復継続的な事業であり、安定性を重要な理念としてきた法人の事業が、戦略的で動的な様相を強め、民間企業的な経営理論が浸透しつつある。こうなると、自主性、公共性とともに安定性を重要な理念としてきた学校法人の確立された行動原理について疑問を呈する向きも出てくる。学校設置事業の安定性の保証に大きな意味を持ってきた基本金制度を問い直す声が上がる。また、安定性と対極的な理念である機動性が重視されるようになると、経営のトップである理事長、学長のリーダーシップの強化が、さらに役員人事等における外部性の強化等が課題とされる。さらに、より柔軟で効率性が高いとして株式会社の大学参入が提起され、規制改革特区においてすでに実現し、学校法人による大学設置の独占にも楔が打ち込まれた。
 こうした状況に対応して、当研究所では私大マネジメント改革研究プロジェクトの中に、学校法人制度研究のチームを置き、外部からも講師を招くなどして研究会を続け、問題の整理を進めてきた。その記録はこの3月に「資料集」として発刊したところであるが、これと併せて、アルカディア学報欄を借りて、研究会メンバーにより、学校法人の問題点のいくつかを逐次取り上げていきたい。本稿では第1回として「学校法人と大学との関係」を取り上げる。
学校法人と大学との関係の曖昧性
 私学は多様性が持ち味だと言われる。通常それは教育理念や教育内容・方法を意味しているが、組織や運営についても言えることである。しかし組織・運営については、多様性が曖昧性を弁護し放置する結果になっては何か事あるときには問題を生ずる心配がある。組織・運営の基本になることは確り抑えておく必要があろう。そういう意味で「学校法人と大学との関係」を取り上げたい。
 学校法人と大学とはどういう関係にあるのか。この問題は分かり切っているようで案外曖昧なままに済まされていることが多い。そのことが私学の組織・運営の問題のいくつかを分かり難くしているように思う。主な例を二、三挙げてみよう。
 ①学校法人は「経営」を、大学は「教学」を、という両者の役割分担に関する通念がある。その根拠は? となると余り明快な答えはない。大学の実態を見れば、経営と教学の境界線は次第に弱くなり、いっそう曖昧になりつつある。
 ②理事会と教授会は上下の関係にあるのか、あるいは片や学校法人の機関、片や大学の機関であるから直接の関係はないのか。
 ③認証評価は大学の評価であって学校法人は対象ではないのに、実際には学校法人の機関や事業も対象にしているのはどういう根拠からか。
 これらの問題の共通性は、重要な問題であるにもかかわらず、強いて理論的な解明を求める声も少ないことである。それより多様性の問題として、弾力的な対応の可能性を大事にしているのだろうか。そして、もう一つの共通性は、いずれも「学校法人と大学との関係如何」という問題を根底にしていることである。その意味で、法人の問題を議論するに当たって、まず入り口の問題として「学校法人と大学との関係」を取り上げることも意味があると思う。
学校法人の「業務」は何か
 学校法人と大学との関係を考える前提として、まず学校法人の「業務」は何か、を確認しておきたい。私立学校法では「理事会は学校法人の業務を決し」としているが(同法36条2項)、この業務とは何か、ということである。学校教育法では、設置者は「学校を管理し」「経費を負担する」としている(同法5条)。これが「業務」であり、この「管理」には、通常、人・物の管理と運営の管理が入るとされている。つまり基本的なことをいえば、大学のすべての問題が学校法人の仕事であり、理事会は本来そのすべてについて意思決定をする権限を持つことになる。経営事項か教学事項かは関係がない。
 ただし、一方で、教育基本法では「大学の自主性、自立性の尊重」が謳われ(同法7条)、学校教育法では、大学の重要事項は教授会で審議するものとされている(同93条)。このため、教学事項に関しては大幅に学長及び学内の機関に委ねることが慣習的に定着しているが、これらの関係法令の規定が大綱的・抽象的である以上、委ねる範囲については理事会に大幅な裁量の余地が与えられているものと考えられる。現に、大学が社会的機関としての性格を強めていること、大学の経営環境が厳しさを増していることなどから、理事会による全学的な視点からの戦略的意思決定の役割は重要性を増している。こうした大学の変化と環境の変化に対応できるよう、法人の業務と理事会の権限の範囲は、大学の規模、個性・特色に応じ正に多様性が認められるべき事柄であろう。
 激しい変化の時代、経営危機が叫ばれる時代には、理事会を中核とした経営力の強化が求められるのは自然なことであるが、その際大事なことは、教授会、評議員会、監事等の適切なチェックにより、理事長や理事会の独走を抑制しうるようなガバナンス機能の確保であることを付け加えておきたい。
学校法人と大学との組織上の関係
 ①大学は法人格を持たず学校法人がそれを持つ以上、大学に関する全ての物の所有権は学校法人に属し、教職員の身分も学校法人に所属せざるを得ない。また学校法人は、とくに他に委任しない限り、大学のすべての管理権を持つ。とすれば、大学は学校法人と切り離して独立には存在し得ず活動もできない。したがって、大学は学校法人の組織と分離できず、学校法人組織の一部としてその中に包含されていると考える必要がある。
 ②理事会と教授会の関係は、前記によれば、学校法人という同一組織内の直接的な関係であり、学校法人と大学という外部関係が介在しないから、端的にそれぞれの権限をもとに考えればよい。理事会は全学的管理権を持ち、最終意思決定機関と位置付けられている以上、教授会の上部機関である。
 ③理事会同様、評議員会や監事等も学校法人の機関であり、同時にその所掌事項から言えば大学の管理機関たる性格も持つ。法律では学校法人の機関と位置付けているが、その理由は、他の併設校や収益事業など当該大学以外の事業があり得るからと考えられる。
学校法人は認証評価の対象になるか
 学校法人とその設置大学とは、その組織においても業務においても一体的で不可分の関係にあり、大学の人、物、管理機関は学校法人のものでもあり、学校法人のそれは、併設校等を除き、大学のものでもある。したがって、機関別認証評価に当たっては、当該大学以外の併設校等に係る事項を除いて大学と一体として評価の対象になると考える。